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満月の夜(3)


「……最近、眠れていないのですか?」


 隈ができているであろう目元をなぞり、ユイナート様はわたしを気遣うように微笑んだ。いつも彼が浮かべている笑みだが、先程までの彼との違いに頭が追いつかない。そのことが気になって、ユイナート様の問いかけに答えることができなかった。

 彼は首を傾げて笑みを深め、わたしの耳の裏を撫でた。くすぐったい。


「……ああ、さっきの会話を貴女に聞かれていたのか」


 わたしが聞き取れないほど小さな声で何かを呟き、ユイナート様はわたしの髪をかき上げながら顔を近づけ、耳の先を口にくわえた。そして、そのままわたしの耳が彼の口内で弄ばれる。ユイナート様の吐息が耳にかかり、顔に熱が集まって変な気分になる。トア様達に見られていることの羞恥も相まって、何としても声は出したくない。

 彼がわたしから離れて、顎を掴まれて目を合わされる。夢の中で何度も見た紅い瞳が目の前にあり、心が冷えていく心地がした。いつか、彼にあのような冷たい目で見られる日がくるのだろうか。


「それにしても、シェルミカがいるなら始めから言ってくださいよ。彼女に恥ずかしい所を見せてしまいました」

「いいじゃないですか。貴方の素を見てもらうことができて」

「貴方達は本当に勝手なことを……」


 ユイナート様の腕の中に再び囚われ、ミハイル様と話をする彼の顔を見ることができない。その間も頭を優しく撫でられ、冷えた心が少しだけ温まっていく。


「シェルミカ様は最近悪夢を見られているらしく、眠れていないのです。気分転換で外の空気を吸ったらどうかと、私が提案しました。勝手な行動をお詫びします。どうぞ、罰なら私に」

「シェルミカ様を連れ出したのは私です。カイトと共に、私にも罰を」


 カイト様とトア様がそう言い、ユイナート様はしばらく黙っていたが、小さく息を吐いた。


「罰は与えませんよ。それよりも、貴女は悪夢を見ているのですか?」


 ユイナート様と目を合わされ、わたしはすぐ目を逸らそうとした。しかし、顎を固定されて目を離すことは許されない。悪夢を見ていることは事実なので、頷いた。


「貴女がつらい思いをしている時に傍にいれないなんて、とても心苦しいです」


 彼はわたしの手を掴んで、甲に口付けた。彼の唇が触れたところから熱を帯びる。わたしは彼の紅い瞳をじっと見つめ、口を開いた。


「……ユイト様、お体は大事になさってください」


 わたしは手を伸ばして、先程彼にされたように、ユイナート様の目の下をなぞった。最後に彼を見た時よりも、隈が濃くなっている。ユイナート様は固まったように動きを止めてじっとわたしを見ていた。首を傾げて彼を見ると、伸ばしていた手を掴まれて引き寄せられる。

 そして、ユイナート様の端麗な顔が近づき、唇が触れ合った。彼の舌が口内に入ってきて、わたしの舌が吸い上げられる。久しぶりの深い口づけで息の仕方が分からなくなり、空気がなくなって涙が出てくる。


「可愛い」


 耳元でくすりと笑われ、火が出るのではないかと思うほど顔が熱くなった。ユイナート様は紅い瞳を獣のように細め、彼に食べられてしまうのではないかと錯覚を覚える。

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