満月の夜(1)
わたしはどのように外に出るのだろう。ユイナート様の愛妾みたいなわたしの立場からして、王城の中を堂々と歩くことはできないだろう。
不安に思っているわたしの内心に気が付いたのか、ミハイル様はにこりと笑みを深めた。
「シェルミカ様をお連れしてそのまま廊下を歩くことはできないので、そこから外に行きましょう」
そう言って、彼が指を向けたのは窓だった。わたしは一瞬彼の正気を疑ってしまった。この窓から飛び降りたら、死は免れない。それなのに、窓から下りるだなんて。
そういう思いが顔に出てしまったのか、カイト様はわたしを見て安心させるように言った。
「ミハイル殿は説明が少ないですよ。ご安心ください、シェルミカ様。私達が貴女様をお抱えして下りますので」
……本当に窓から下りるとは思わなかった。わたしは知識がないのでよく分からないが、魔法で安全に下りる方法があるのだろうか。
カイト様はトア様と目を合わせる。そして、トア様がわたしに近づいてきて、入れ違いでカイト様が扉の近くに行った。カイト様が部屋を出ていくのを眺めていたが、トア様に手を差し伸べられて彼に目を向けた。
「私が責任を持って貴女様をお運びします」
「……は、はい。お願いします」
わたしはトア様の手に自らの手を重ね、立ち上がる。こうやってトア様に触れたのは、久しぶりかもしれない。
「失礼します」
温かい手だな、とぼんやりと感じていると、わたしはトア様に横抱きにされた。思わず小さく悲鳴を上げ、落ちないように彼の首に腕を回す。その状態でトア様は窓に近寄り、彼が窓に手をかざすと格子が消える。ミハイル様が窓を全開にすると、外の冷たい空気が中に入ってきた。
「先に下りますね」
ミハイル様は窓枠に手をかけ、そのまま勢いよく窓から飛び降りた。わたしは驚いて、トア様に抱かれながら外を見る。わたしが見た時には、彼は既に地に降り立っていた。月の光に照らされたミハイル様は、わたし達に向かって手を振っている。
「決してその手を離さないでください」
トア様も窓枠に手をかけ、わたしは彼の言葉に頷いて彼に回した腕に力を入れる。トア様はそれを確認した後、窓から外に飛び出た。大きな動きにわたしは思わず目を強く瞑ると、温かい風がわたしを包み込んだ。
恐る恐る目を開けると、わたし達はゆっくりと浮遊しながら落下していた。わたしはよく分からずにただ呆然と近づいていく地面を眺める。
安定したままトア様は地に足をつけ、優しくわたしを下ろした。自分の足で地面に立つと、わたしは今外にいるということを実感した。
空で明るく輝く満月は、直接目にする方が綺麗だった。夜闇の空気の冷たさが体温の上がった体には心地よく、わたしの髪をかき上げる風も気持ちが良い。わたしはその風に身を任せて目を瞑り、息を吐く。外の空気は、いつも吸っている部屋の中の空気よりもはるかに美味しく感じた。
トア様とミハイル様が何か話をしているが、わたしは一人で久しぶりの外の空気を堪能していた。




