悪夢(3)
「トアとカイトが貴女様のことを心配していましたよ」
「お二人が?」
わたしは思わずトア様とカイト様に目を向けた。扉の横、いつもの定位置に立っているトア様はわたしからすっと目を逸らし、ミハイル様の後方に立っていたカイト様はにこりと笑みを浮かべた。二人がわたしのことを考えてくれていたことを知って、冷えた体が温まっていく心地がした。
「ありがとうございます」
わたしは頬を緩め、二人に頭を下げる。前にいるミハイル様が、優しい眼差しでわたしを見ていたので、無性に恥ずかしくなった。
彼らのお陰で落ち着いたわたしは、少しずつ話をすることができた。
「最近、同じ夢を見てしまうのです。その夢を見るのが怖くて、眠ることが嫌だと感じるようになってしまいました」
「夢、ですか。悪夢のせいで眠ることができなくなる事例は多いです。しかし、何度も同じ夢を見るというのは……引っかかりますね」
ミハイル様は顎に指を添えて何やら考え始めた。わたしも、同じ夢を繰り返し見ることに違和感を覚えている。夢が何かを伝えようとしているのか、はたまたいつか来たる未来を暗示しているのか……。
不吉なことを考えてしまい、わたしは体をぶるりと震わせた。あんな未来、絶対にあってほしくない。
「夢を見ずに眠ることができたら、体に悪影響は出ないでしょう。薬を出しておきますね」
「ありがとうございます」
小瓶に入った薬を受け取り、わたしは頭を下げた。
「その夢の内容を、教えていただけることはできませんか?」
ミハイル様のこの言葉に、わたしはまた目線を下げてしまう。彼が夢の内容を気にするのは当然のことだ。それでも、このことを伝えるのは気が引けた。
まるでわたしが、ユイナート様に捨てられることを恐れているみたいだから。
「……ごめんなさい。夢の内容はどうしても……」
「ああ、無理に話を聞きたいわけではありません。私こそ、貴女様の気に障るようなことを問うてしまい申し訳ありません」
わたしの個人的な理由で話せないのだから、ミハイル様は何も悪くない。わたしは首を振って、彼の目を見た。一つ、どうしても気になることがある。
「……ユイト様は、お元気ですか? ご無理をなさっていないと良いのですけど」
わたしの言葉に、ミハイル様は目を丸くした。そして、彼は目を優しく和らげ、わたしの頭の上に手を乗せる。子供のような扱いだと感じたが、嫌な気分はしなかった。
「ユイナート殿下は、貴女様に会うことができなくて意気消沈していらっしゃいました。最近は戦争の対応に追われ、削ることができる睡眠時間は極限まで削っておられていたので、注意してきたところです」
「そう、なのですか」
わたしが夢のせいで眠れなくなっている中、ユイナート様は国のために働いて、眠ることができなくなっているんだ。わたしが今眠れない理由があまりに幼稚で、申し訳ない気持ちになってくる。
わたしがユイナート様にできることは少ないけど、彼のために何かできないだろうか。わたしはここから出ることはできない。彼に会いに行くことは当然できない。
……どうしてわたしは、彼に会いに行くことを第一に考えたんだろう? 前までは、できるだけ彼に会わないことを望んでいたというのに。
難しい顔で考え込んだわたしを見たのか、今まで静かにわたし達の話を聞いていたカイト様が口を開いた。
「シェルミカ様。少し、外に出ますか?」
わたしは驚いて目を見開き、彼の顔をじっと見つめてしまった。外に出るだなんて、ユイナート様の許可なくできることなのだろうか。
わたしと同じように彼の言葉に反応したトア様は、カイト様に目を向けながら言った。
「殿下からの許可は?」
「今からとりに行けばいいじゃない。勝手に決めたことの罰は全て私が受ける」
「……お前を止めない私も共犯だ」
カイト様とトア様の会話を、わたしは目を白黒させながら聞いていた。ユイナート様からの許可なしでわたしを外に出そうとするなんて、大丈夫ではないだろう。わたしのせいで二人が責任を負うことは、かなり嫌だ。
二人を止めようと声を出そうとしたが、ミハイル様がわたしよりも先に口を開いた。
「外の空気を吸いに行くことは、私も賛成します。ユイナート殿下には、私からも口添えしましょう」
ミハイル様の後押しもあり、わたしが外に出ることは確定したようだ。三人が話している内容を、わたしはただただ聞いていた。
どうやら、外というのはわたしが普段部屋から見ている騎士訓練場のことらしい。わたしがこの王城から出るのは、ユイナート様に囚われて以来である。後からユイナート様に何と言われるのか怖いと思う気持ちはあるが、それよりも外に出ることができることへの期待の方が大きかった。




