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幕間 陽気な医師と忠実な騎士


「アルビー、殿下の様子はいつもと変わりない?」

「ああ。変わらず睡眠時間は短く、休息も少ない。何度かお声をかけているのだが、あのお方はいつも無理をなさっている」


 アルビーはユイナート殿下への心配がにじみ出ている表情で私を見た。私は安心させるように彼の肩を叩く。


「大丈夫だよ。シェルミカ様がいらっしゃる限りあのお方が倒れることはない。何なら彼女から殿下に伝えてもらおうかな。ちゃんと寝ろ、ちゃんと食べろ、ちゃんと休め、って」

「そうだな。私から言うよりもシェルミカ様がお伝えした方がかなり効果的だろう」


 アルビーは真面目な様子で頷く。彼は殿下のことを第一に考えていることが伝わって来て、私は思わず笑った。アルビーが何か言いたげに私を見たので、私はにこりと微笑む。


「わざわざ見送らなくてもよかったのに」

「殿下がそう仰ったからだ。それよりもミハイル、殿下にお伝えしていないことがあったのではないか?」

「ん~?」


 私は首を傾げながらアルビーを見た。伝えるべきことは伝えたと思っていたのに、何が引っかかったのだろう。


「バルドというシェルミカ様に媚薬を盛った犯人についてだ。奴の妹は病気で、その妹はミハイルの元に運ばれたのではなかったか?」

「ああ! そのことですか。確かに忘れていました」


 私が手を叩くとアルビーはジト目で私を見る。どうせ彼のことだから、私がわざと黙っていたとでも考えているのだろう。重要度が低く、本当に忘れていただけなのに。


「殿下も悪い人だよ。妹をこちらが救うことでバルドは殿下を裏切ることができなくなる。まあ確実な方法だね」

「…………」


 アルビーは何も言わずに私を睨んだ。彼は殿下を悪く言うころを良く思わない。私の言葉に内心では同意しているだろうけど。


「バルドの妹ちゃん……ルルーは純粋でいい子だよ。確かに重い病気を抱えていたけど、僕なら治せるし、薬も与えたから回復に向かっている」

「そのことはバルドに伝えたのか?」

「いや、伝えるのは殿下に聞いてからだね」


 ふむ。そう考えたらさっき聞いておけばよかった。私の思いを読み取ったのか、アルビーはまたジト目で私を見た。


「仕方ないじゃん。他に言う事が沢山あって忘れてたんだもの。今日の殿下はシェルミカ様のことしか考えていなかったし、シェルミカ様について以外のことは恐らく耳から抜けていったと思うよ」


 私は軽く手を振ってアルビーから目を離す。向かいから歩いてきた騎士がアルビーに気が付いて頭を下げるのを見ながら、私は今朝のことを思い出していた。




 シェルミカ様が媚薬を飲んだと報告を受けやって来た私だが、媚薬の後遺症が残ったり体調不良を引き起こしたりすることよりも先に心配になったことがあった。それは、殿下が媚薬を飲んだシェルミカ様を前に理性を抑えることができるのか、ということである。

 殿下は普段ですらシェルミカ様に無理をさせているのに、彼女が殿下を煽った時の様子が目に浮かんでくる。確実に殿下は理性というものを遥か遠くの海まで飛ばしてしまい、獣の様に彼女に襲いかかっただろう。


 大体その予想は合っていた。シェルミカ様の診断をすると、彼女に付けられた多くの痕が真っ先に目に入った。殿下の独占欲が強すぎるせいで、シェルミカ様に彼が自分のものだという印をとにかく付けたかったのだろう。首元には吸い痕や噛み痕が痛々しく刻まれていた。

 媚薬の後遺症というと少し異なる気がするが、シェルミカ様はとても気落ちしていたように見えた。殿下に酷い行為をされたのだから当然だろうが、それだけが理由ではなさそうだった。


 彼女は優しすぎる。全て殿下のせいにして、殿下を色んな言葉で詰っても問題はないと思う。媚薬、しかもかなり効果の強いものを飲んでしまったら、誰だって相手を求めてしまうのに、彼女は自分が悪いと思い反省していた。

 それにしても、殿下は一体いつまでシェルミカ様に彼自身の思いを伝えないのだろう。殿下の過去を知る私からしたら、殿下が慎重になるのも分かる。しかし、このままだとシェルミカ様の心は殿下から離れていくばかりだろう。


 ……いや。案外身体から堕としたら、心もついてくるかもしれないな。そういう考えが浮かび、私は笑って否定した。こういう私の考えが、殿下にもかなりの影響を与えたことを思い出して。


「はぁ。もう見てられないなーあの二人は」

「私は、殿下に幸せになっていただきたい」


 アルビーの言葉に私は賛同した。殿下の心は既に冷えてしまっている。しかし、シェルミカ様だけはその心を溶かすことができるのだ。そう私は確信している。


「シェルミカ様を密室に閉じ込めて、愛を囁き続けて毎夜抱く方が簡単に彼女の心を得ることができるのに」

「……殿下にそのことを言うなよ」


 私は笑い、門に着いたのでアルビーに向き合った。


「ユイナート殿下は真っ先にこれを考えたと思いますよ。しかし彼は今の方法を選んだ。私はこれからも、これまでも彼の味方でいます」


 ただし、シェルミカ様の身体が健康であることを前提で、という言葉は心の内で飲み込んでおく。そして私はアルビーに背を向けて診療所に帰った。

 

 

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