入眠後
寝息を立てるシェルミカを眺め、ユイナートは目を和らげた。
「可愛い。今すぐ犯したいくらい可愛い」
「いつもお前の脳内は不純だな」
シェンドは足を組んて頬杖をつきながらユイナートを見る。ユイナートはシェルミカを起こさないように静かに彼女の体を抱き上げ、ベッドから降りると彼女を横たえて寝かせた。そして一度シェルミカの額に口付けをする。
「……どうしたのですか、シド」
ユイナートはシェンドが何かを言いたげに見ているのに気が付き、シェルミカを見つめながら問いかける。シェンドは体を起こして背を伸ばした。
「いや。お前があんなことを漏らすなんて、珍しいと思ってな」
「大切な人、のことですか? 確かにあれは言うつもりはありませんでした。ですが勝手に口が開いて言ってしまったというか……僕ですら何故あんなことを言ってしまったのか、わからないのです」
ユイナートはシェルミカから視線を離して、ベッドの傍の椅子に腰かける。
「ほー、そうか」
「聞いたくせに興味がなさそうですね」
「俺が言おうとすると吹き飛ばしたくせに、自分が言うのはいいということに不条理を感じただけだよ。それにしても、大切な人、ね。シェルミカはそれを聞いてどう思ったのだろうな」
シェルミカから視線を離した途端、表情を消したユイナートを見て、シェンドはやれやれと首を振った。
「ユイトはほとんどのことをシェルミカに隠しているからな」
「……この世界には知らなくてもいいことが沢山あります。シェルミカはただ僕の傍にいてくれるだけでいい」
「それを直接言わないから、シェルミカは何度もお前の元から逃げ出そうと考えるのだろう?」
「分かっていますよ。ですが、僕は……僕のことを、知られたくない」
珍しく弱気なユイナートを見て、シェンドは面白いものを見たような顔で笑った。
「ははっ、今のお前の顔をシェルミカに見せてやりたいよ」
「黙ってください」
ユイナートは心底嫌そうな顔でシェンドを見る。そして大きくため息を吐いた。
「……どうやら僕は疲れているのかもしれませんね。貴方を連れてきたことが間違いでした。本来だったら気分が回復するはずが、無駄に疲れましたよ」
「気楽に話せる相手がいて嬉しい、連れてきてよかった、の間違いだろう?」
「黙らせますよ」
冷気を出し始めたユイナートをシェンドは軽く手を振って躱す。そしてシェンドは立ち上がり、シェルミカに近づいて彼女の頬に顔を寄せて口付けた。彼の瞳には慈愛が込められている。
「ユイトが先に言わないのなら、俺が先に伝えてもいいのだぞ?」
「その時は貴方の口を縫い付けます。いいですか、僕には僕の考えがあるのです。時が来たらちゃんとシェルミカに全てを伝えます」
ユイナートも立ち上がり、シェルミカの手を握っていたシェンドを一瞥し、苦い表情を浮かべる。
「……勝手に触らないでください」
「シェルミカはお前のものじゃないだろ。全く、シェルミカがリゼッテル王国にいてくれたら、俺が大切に保護したのに。主にユイトの追ってから」
「シェルミカは僕のものです。僕の大切な、大切な——」
ユイナートは目元を和らげ、慈愛に満ちた微笑みでシェルミカを見た。シェルミカは穏やかな寝息を立て、いい夢を見ていたのか小さく笑みを浮かべていた。
「……そういえば、シドは『神の使徒』と名乗る輩をご存じですか?」
「『神の使徒』? 聞いたことがないな。ただ聞くからに良くない集団だろう。『神』に関連するものには全くいい思い出がない」
「その通りです。『神』という言葉を聞くたびに僕は怒りを覚えます。それに奴らは会席の料理に媚薬を盛ろうと企んでいたのですよ。まあ、奴らが唆した犯人は誤ってシェルミカの食事に薬を盛ったのですけれど」
ユイナートはシェルミカの髪に触れながらシェンドを見る。シェンドは部屋の中をぐるぐると回っていたが、歩みを止めた。
「……アルテアラとリゼッテルを敵対させることが目的か?」
「ええ、恐らく。ノースリッジに付いている組織だと僕は考えています。捕らえた者から情報を得たら貴方に教えますね。……はぁ、これは面倒なことになりそうですよ」
ユイナートは何度目かのため息を吐き、最後にシェルミカを一度見て微笑んでから、シェンドを引き連れて寝室を出た。




