医者の報告(2)
「二人とも、お疲れ様です。結果はどうなりました?」
「生け捕りしました。今は自害ができないよう拘束し、地下牢に入れています。尋問は後程行います」
「トアは十分働いてくれました。今日はもう休んでください。奴への尋問は別の者にやらせます。……バルド、調子はどうでした?」
「は、はい! あ、えっと、俺は全く役に立てなかったです……」
居場所がなさそうに目をさ迷わせていたバルドはユイナートに声をかけられて慌てて深く頭を下げた。
「全部師匠が終わらせて下さりました。俺はただ見ているだけしか……」
「確かにバルドは戦力になりませんでした。指導が必要ですので、これから訓練場に連れていきます」
トアはバルドの肩を叩くと、バルドは尊敬の念が込められている目でトアを見上げた。そんな二人の様子を黙って見ていたミハイルは、面白いものを見たかかのように笑む。
「ああ、貴方が媚薬を盛った犯人ですか」
そう言ってミハイルはバルドに近づいて彼の顔をまじまじと見る。バルドはうろたえながら、何が何だかわからないような顔を見せる。
「……あ、あの。あなたは」
「私はミハイル、ユイナート殿下懇意の医師です。貴方の名は?」
「お、俺はバルドです」
バルドはミハイルにつられて名を告げる。ミハイルは微笑みながらバルドを見て、そしてユイナートに視線を移した。
「そういえば、媚薬の効果、かなり凄かったのですよ」
ユイナートが目を細めてバルドを見、その圧にバルドは顔を青くさせて助けを求めるようにミハイルを見た。ミハイルはにこにこと害のなさそうな笑みを浮かべている。そして懐から液体の入った瓶を取り出して指先で持った。
「これがそれですね。遅効性だけど効果が出始めたら一瞬で身体が火照り、とにかく他者との性的接触を望んでしまう。効能もそこらの媚薬より強く、発現してからの威力は比べ物にならない程強力です! よく彼女はトアを見ても我慢できましたよね。彼女の精神力は素晴らしいですよ。誰かと違って」
ミハイルは瓶を目の前で揺らしていると、ユイナートは笑みを深めていつもより低い声で言った。
「……初めて聞きましたよ、そんなこと。そんなに強力な媚薬だったのですか?」
「ひっ! も、申し訳ありませんでした!」
バルドは何も言われていないが膝をついて頭を勢いよく床に擦りつけた。彼の額からはじんわりと血が滲んでいる。それを見てトアは眉を顰め、床が汚れないようにバルドの額をタオルで拭いた。
「そんな強力な媚薬は我が国では製造が禁止されています。他国からの密輸品でしょうね」
ユイナートはそう言って黙り込み、何かを考え始めた。ミハイルはバルドの手を引っ張って立たせ、彼の耳元で小さくささやく。
「バルド君。くれぐれもユイナート殿下を怒らせないようにね」
「は、はい。勿論です、気を付けます」
バルドはユイナートを気にしながら頷いた。ミハイルは話を続ける。
「彼は変なところでキレるから……気を付けていても地雷を踏むことがあるのですよ。長い付き合いの私ですら時折地雷を踏み抜いて吹っ飛ばされました。あの時はあやうく死ぬところでしたよ」
「貴方はいつも余計な一言が多いのですよ。それに貴方はあの程度では死なないでしょう」
「それに彼は地獄耳です。彼の近くで悪口を言っても必ず聞こえますよ」
ほらね、と言いたげなミハイルにバルドは曖昧な顔を見せる。ユイナートはにこりと笑みを深め、ミハイルに視線を向けた。
「本日はありがとうございました。アルビー、ミハイルを王城の外に送ってください」
アルビーは了承し、ミハイルに部屋を出るように告げる。ミハイルはやれやれと首を振りながら、ユイナートに背を向けた。そして顔だけを彼に向ける。
「それじゃあ、また御用があれば呼んでくださいね~。私はいつでも来ますから。大切な人は、大切にするのですよ」
ユイナートは早く帰れとでも言いたげに手を払った。そんな彼の様子を見て、ミハイルはわがままを言う子供を見るような笑みを浮かべた。しかしその瞳には、確かな慈愛が隠されていた。
ミハイルが部屋を出た後、ユイナートは大きくため息を吐いた。
「あの人はいつまでも変わりませんね。……トア、報告ありがとうございました。バルドのことは任せましたよ」
「承知しました」
トアは深々と頭を下げ、バルドもトアに倣って頭を下げた。そして二人は部屋を出る。
ユイナートは静かになった部屋で一人、考えを巡らせていた。




