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強さの理由


「――――様、シェルミカ様」


 誰かに呼ばれる声が聞こえ、わたしは目を開けた。茶色い髪が目に映り、わたしの脳も目覚めていく。


「……ニーナ様?」

「はい。申し訳ありません、お昼ご飯のお時間ですのでお声をかけさせていただきました」


 そんなに長い間眠っていたことに驚き、わたしは目を擦って体を起こす。変わらず腰から下を動かすことは難しい。

 体を起こすと尿意を感じた。


「……すみません。お手洗いに行きたいです」

「お手伝いしましょう」


 わたしの言葉が聞こえたのか、カイト様が寝室に入ってきた。彼はわたしの体を軽々と抱き上げ、お手洗いに連れていく。ちなみにお手洗いは部屋を挟んだ寝室の向かい側にある。

 カイト様はお手洗いの扉を開けて前でわたしを下ろし、その後はニーナ様達侍女の方によって介助されながら用を足した。手を洗い、再びカイト様によってベッドに戻される。

 戻った時には食事が並んでいた。軽食で胃に優しいものばかりである。料理人さんに感謝して、わたしはそれらを食べた。

 食べ終わると仕事が早い侍女の方々は直ぐに食器を片付け、部屋を出た。わたしは扉の近くに立っているであろうカイト様に声をかける。


「……そういえば、カイト様は昨日の魔導騎士大会で最終試合に残られたそうですね。凄いです」

「ありがとうございます。アルビーに負けてしまったことは、悔しいですけど。殿下の戦いも素晴らしいものでしたよ」


 ……彼の戦いを見てみたかった、という思いは少しある。彼の剣舞のような剣捌きは、今でもはっきりと思い出せる。シェンド様とはどのように戦われたのだろう。試合の途中からは魔法の使用もあるので、より混戦したものになったのだろうか。


「……ユイト様は、どうしてそこまでお強いのでしょうか?」


 わたしは思わず問いかけていた。王族であるユイナート様の周りには常に鍛えられている騎士がおり、安全は確保されているだろう。それなのに、彼は騎士よりも強い力を持っている。それが不思議に思えた。

 カイト様は少し間を開けて答える。


「それは……お伝えすると、恐らく私は殿下に睨まれますね」

「あ、も、申し訳ありません。聞かなかったことにしてください」


 わたしの質問のせいでカイト様に迷惑がかかるのは嫌だ。直接ユイナート様に聞くことにしよう。


「……ただ、あのお方は強くなるしかなかった。それだけはお伝えしておきます」


 これは内緒にしてくださいね、とカイト様はわたしに顔を見せて人差し指を口の前に当てた。わたしは彼の悪戯な笑みを見て、思わず口元が緩んだ。わたしが頷くと彼はいつもの穏やかな笑みに戻り、顔が見えなくなる。

 強くなるしかなかった。ユイナート様の微笑みの裏には、きっと幾つもの過去を抱え、闇が潜んでいるのだろう。……わたしには、どうすることもできない。


「ありがとうございます、カイト様」

「貴女様のためなら」


 何に対しての感謝かは言わなかったけど、カイト様には伝わったのだろう。彼は簡潔に返事をした。

 その後もユイナート様の事を考えながら、わたしは本を開いた。


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