アルテアラ王国
アルテアラ王国。海に面し、二つの国と隣接している。人口も多く、各都市が発展している大国である。現国王ルーフェンの働きにより下町の環境も整備されており、市民達は王族に対し好意的な印象を抱いている。
『月華の王子』こと王太子のユイナートも父王に継いで、孤児院や医療機関等の整備、新たな事業への莫大な資産の投資を行っている。市民達は皆ユイナートに信頼を寄せ、彼が国王となることを望んでいる。
ルーフェンはもうじきユイナートに王座を継ぐと公言しており、彼の正妻サラの懐妊も相まって彼の戴冠は確実である。
そんなアルテアラ王国と隣接するのは、世界の貿易の中心地でもあるリゼッテル王国。最大面積を誇り、各国から行商人が訪れ、商業が盛んに営まれている。
また、『陽光の王子』ことシェンドは、その交渉力と人間性を民から敬され、まるで家族のように好まれている。
リゼッテル王国とアルテアラ王国は昔対立しており、両国間で戦争も行われていた。しかしユイナートとシェンドの曽祖父が協定を結んだことにより終戦し、今では良好な関係を維持している。
アルテアラ王国、リゼッテル王国と並んで語られる大国である、ノースリッジ王国。実力主義を掲げ、強き者が上に立ち、弱き者が搾取されている。攻撃魔法の開発に力を入れており、魔導具が発達している。しかし、近年は環境不順により農作物が大打撃を受け、人々が貧困に嘆き、憤っている。
ノースリッジ王国の現国王は、食糧難を解決するため、アルテアラ王国とリゼッテル王国に対し食料の供給を望んだが、高圧的な態度であったため二国は拒否。国王は怒り、二国間との貿易を停止すると表明した。
三大国以外の小国は、アルテアラ・リゼッテル二国、もしくはノースリッジ王国のどちらかに付き、世界間の緊張が高まっている。
――アルテアラ王国とリゼッテル王国の重鎮達が集まって会合を開いている。
「ハルージ王国はこちら側に付くことを認めました。未だ我々の勢力はノースリッジ王国連合を上回っております」
「昨日の魔導騎士大会により、騎士達の実力を把握しました。強化が可能です」
「食料の備蓄を増やし、国境付近の民を安全区に避難させる必要があるのではないでしょうか」
様々な案や意見が飛び交う中、ユイナートは変わらぬ微笑を浮かべながら文官から受け取った資料に目を通す。
「……ノースリッジの刺客が民に誤った情報を流しているようですね。まずは民の混乱を収める必要があります」
「ああ、その通りだな。民の不安を払拭し、安全を確保する。次いで騎士の強化。民の中でも街を守りたいと警備隊への入隊を望む声が多いから、そのような者達への指導もするべきだろう」
ユイナートの正面で同じように資料に目を通していたシェンドは彼の言葉に頷いて同意を示した。
ノースリッジ王国はまだ宣戦布告をしていない。しかしアルテアラ王国とリゼッテル王国は既に彼の国と戦争になると想定し、対応を急いでいる。
「ユイナート殿下。恐れながら、タンダ王国の要求はどう致しましょうか?」
「武器が足りないから送れ、というものでしたっけ。タンダはノースリッジと組んでいることは確実です。要求を呑む必要はありません。あちらの王には僕が対応しましょう」
「シェンド殿下。こちら、現在確認できる避難民の予想数です」
「かなり多いな。アルテアラの安全区に人が入り切らなければリゼッテルに来れば良い。まだまだ住む場所は開いている」
「感謝します、シェンド」
ユイナートとシェンドの的確な指示と民を案ずる心に、その場にいる貴族達は心強く思い、彼らの指示を待つ。古参貴族であれば若い二人を良く思わない者がいることも多いが、二人が持つ実績と能力は別次元だ。そのため二人はこの場にいる全ての貴族に信頼を置かれている。
アルテアラ王国の貴族、リゼッテル王国の貴族関係なく話し合いに参加し、対応が進んでいく。
「失礼ながら、ユイナート殿下、シェンド殿下。我々ルディー公爵家が警備隊の指導と強化を行いましょうか?」
「貴殿達が行ってくれるのか? それは心強い。是非お願いしよう」
「ありがとうございます、サリール殿」
ユイナートとシェンドに提案したのは、サリール・ド・ルディー。サラの父であり、アルテアラ王国でも指折りの有力な公爵である。ルディー公爵家の騎士隊は、近衛騎士隊に次ぐ実力を持つ。
「騎士達の強化指導は僕が直接行いましょう。リゼッテルの騎士も参加させ、合同訓練を行うのはどうでしょうか」
「それはいいな、是非お願いしよう。俺も都合が合えば参加するよ」
その後も重要な決定がされ、会合は長引いた。