翌日(2)
侍女の方々に新しい服を着せられてから、ニーナ様が部屋を出て二、三会話をしてからミハイル様を連れてきた。
「お疲れ様です。では、ついでなので健康診断を行っておきましょう」
ミハイル様はわたしの目を見たり喉を見たりと、色々な検査を行う。わたしはただ言われるがまま従い、診断が終わるのを待つ。
「……健康状態は問題ないですね。喉が腫れているのはユイナート殿下の所為でしょう。シェルミカ様の身体を診て思いましたが、あの方はちょっと度が過ぎています。私が注意しておきますよ」
ありがたい。わたしからユイナート様にそのようなことを言うと、余計に酷いことをされてしまう。そんなわたしの内心を知ってか知らずか、ミハイル様は穏やかな笑みを浮かべた。
「今日は決して貴女様に手を出させないようにします」
「……ありがとうございます」
ミハイル様が救いの天使のように思える。彼はユイナート様が子供の頃からの付き合いらしく、ユイナート様は彼の言うことには割と素直に従うらしい。そんな姿想像も出来ないけど。
その後もミハイル様から薬をもらったり体調のアドバイスをもらったりした。その途中、彼は真剣な顔でわたしを見た。
「いいですか、シェルミカ様。本当に嫌になったら、私に言ってくださいよ。あのお方はいつか貴女様の身体を壊してしまうかもしれない。普段は貴女様のことをとても大切に思い、大切に扱っておられます。しかし彼の欲は尋常でないほど高く、異常なほど執着心が強いです。何度も言ってますが、あのお方は本当に融通が聞きませんし……」
彼の言葉を聞いて、ほとんどの内容に賛同したが、少しだけ反論もしたくなった。
「……でも、悪いのはユイト様だけではないです。わたし、知らない間にユイト様のことを焚き付けてしまっているようなのです。気をつけているのですが、自分じゃ分からなくて……」
ミハイル様は驚いたようにわたしの目を見て、そして目を和らげた。仕方がない子供を見るような目だ。
「……主な理由は貴女様のそういう所でしょうね」
彼の言葉の真意が分からなくて問い直したが、彼は誤魔化すだけで教えてくれなかった。
「それでは、体調が悪くなった時にはまた呼んでください」
「はい。ありがとうございます」
ミハイル様は柔らかく微笑み、部屋を出た。
その後にお粥が運ばれて来て、わたしはニーナ様に手伝ってもらいながら食す。直ぐに満腹になったが、お粥は全て食べた。
「それでは、私達は出ますね。何かありましたらカイト様よりお伝えください。……忘れるところでした。何か欲しいものはございますか?」
「今日の新聞と……新しい本が欲しいです」
「かしこまりました。今お持ちいたします」
ニーナ様達が頭を下げて部屋を出る。彼女達の姿が見えなくなると、カイト様が顔を覗かせた。
「おはようございます、シェルミカ様。本日私はこちらの部屋に待機しておりますので、何かありましたらお声かけください」
「……よろしいのですか?」
カイト様にはわたしを監視する役目があるはずなのに、その部屋にいたら見張ることができない。わたしの言葉にカイト様は微笑んだ。
「ええ。流石にそちらにお邪魔するのは……。貴女様の体調が悪化した時に直ぐに対応出来れば充分です」
カイト様はそう言って顔を引っ込めた。わたしから彼の姿は見えないが、寝室の扉の隣に立っていらっしゃるのだろう。普段は閉まったままの扉は、今日は開いている。
しばらく待っていると、カイト様が新聞と本を持って入ってきた。
「一応紙とペンもお持ちしました。こちら、机に置いておきますね」
「ありがとうございます」
カイト様はベッドの隣の机に新聞と本を置き、にこりと微笑む。
「お手洗い等何かあれば私にお伝えください」
わたしはもう一度感謝を伝え、カイト様が寝室を出るのを見る。そして彼の姿がこちらから見えなくなった時、わたしはクッションに背を預け、新聞を手に取る。大きな見出しには、魔導騎士大会で優勝したのはアルビー様であり、ユイナート様とシェンド様の戦いはユイナート様の勝利で終わったと書かれていた。
普段アルビー様と話すことは少ないけど、ユイナート様の護衛をしている位なら相当強いのだろう。最終試合がアルビー様とカイト様の戦いだということには驚いた。わたしの周りには強い人が多すぎる。
そして、ユイナート様。シェンド様がどれ程の実力を持っているのかは知らないけど、本当に勝ってしまうとは。
体を乗り出して紙にメモを取っていく。そうしていると疲れてしまったので、少しだけ寝ようかな。ご飯を食べてから時間も空いたので問題ないだろう。
枕の位置を調整し、わたしはベッドに横になって目を瞑った。