魔導騎士大会(2)
ユイナートは騎士達が剣を交わす様子を微笑を浮かべながら無感情に眺めていた。騎士達の荒を探し、指導する方法を考える。
「殿下。そろそろ出番です」
「……もうそんな時間ですか」
側近に声をかけられ、ユイナートは椅子から立ち上がる。刃がない剣を持ち、彼は会場に向かう。彼の前の試合はまだ続いている。アルビーとカイトが剣を交わしている。これは最終試合で、会場は大盛り上がりである。彼はその様子を壁に寄りかかりながら見ていた。
——魔導騎士大会。それは、アルテアラ王国での大きなイベントの一つだ。アルテアラ王国の騎士だけでなく、全国の騎士も参加する大規模なものであり、観客も多い。ユイナートやシェンドのように、一国の王子が参加することもあるのだ。大会はトーナメント制であり、勝ち上がり戦となっている。前半十分は剣のみ、それ以降は魔法の使用を許可されている。この大会に参加し、優勝することは騎士達の憧れであり、誇りだ。ちなみに、ユイナートとシェンドがそのトーナメントに参加すると確実に二人の内一人が優勝するので、彼らは特別出演となっている。
アルビーがカイトの剣を弾き飛ばし、試合が決着を迎えた。会場に歓声の波紋が広がり、観客が二人の騎士の勇士を称える。
アルビーとカイトがユイナートの元へやって来る。彼は二人を労わるように笑みを浮かべた。
「お疲れ様です。見どころの多い、良い試合でした」
アルビーとカイトは一度顔を見合わせ、右手を胸に添えて頭を下げた。
「ありがとうございます。光栄です」
「殿下のご活躍をお祈りします」
信用する二人の騎士の言葉を聞いて、ユイナートは口角を上げた。そして剣の鞘を外し、それをアルビーに手渡した。一振りし、彼は歩みを進める。
会場にユイナートが姿を現すと、最終試合の興奮から冷め始めていた観客達から一斉に歓声が上がった。彼は微笑みを浮かべ、小さく手を振る。正面からはシェンドが彼の元へ歩んでくる。
会場の中心で二人は立ち止まり、互いに笑みを浮かべる。
「久しぶりにお前と戦えるな」
「ええ。楽しみにしていました」
お互いの剣を重ね合わせ、二人は神聖な誓いの言葉を述べる。そして一定の距離をとると、それぞれが剣を構えた。歓声が静まり、静寂が訪れる。
二人は機会を伺いながら足を動かし、同時に地面を蹴って剣と剣が重なる鋭い音が響く。何度も打合せ、二人は近づいては離れる。
ユイナートの剣が振り払われ、その体に向けシェンドの剣が襲い掛かると、彼は後ろに跳び跳ねて避ける。手に汗握る攻防の中、魔法の使用が許可される十分の鐘が鳴る。
鐘の音が聞こえると同時に、ユイナートは氷柱を生成しシェンドに向け放つ。シェンドは炎で相殺し、距離を詰める。
その後も二人は一瞬の気も抜けない状況で、それでも二人は楽しそうに本心からの笑みを浮かべていた。
どれ程か時間が過ぎた後。ユイナートは頬に水滴が落ちてきたことに気が付く。そのまま雨は勢いを強め、一気に大雨となった。
「……雨か」
シェンドは舌打ちをしてユイナートから離れた。ユイナートは挑発するように笑み、シェンドは嫌そうに顔を顰めた。
「さあさあ。天候は僕を味方しましたね」
シェンドは再び舌打ちをして剣を構え直し、魔力を纏いながらユイナートに近づいた。しかし全方位から氷が襲い掛かり、彼は足止めを喰らう。炎で相殺するも氷の量は尋常でない。
「氷魔法使いに雨はダメだろう」
シェンドは小さく呟き、大きく跳んで上空からユイナートを狙う。その勢いのままユイナートの剣は弾き飛ばされるが、彼は氷の剣を作成し対応する。そしてシェンドの一瞬の隙を突いて、彼の剣を弾き飛ばした。
シェンドは首に剣先を突きつけられ、両手を上げた。
「降参だ」
観客が湧く。ユイナートはいつもの微笑みを浮かべ、シェンドと固く握手をすると、黄色い歓声が上がった。
「雨が降るなんて、ついてないよ」
「運も実力の一部ですよ」
ユイナートとシェンドは笑い合う。そして小さな声で話す。
「これで貴方はシェルミカの相手をすることはできませんね」
「……墓穴を掘ったなぁ。ただ、シェミに会わせるだけ会わせてほしい」
「気が向いたら」
ユイナートは笑みを深め、シェンドの肩を叩いてから待機場に歩いて行った。シェンドは何とも言えない表情で彼を見送り、彼もまた笑みを深めて待機場に去って行った。