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回想(3)


「…………シェミ。シェルミカ、大丈夫ですか?」


 低く、心地の良い声。目を開けると眼前に宝石のように綺麗な紅い瞳があって、意識下のわたしと記憶の中のわたしは同時に声を上げた。


「ふふ。可愛らしい声ですね。もっと聞きたいです」


 その人物はわたしの顎を摘まみ上げて、そのまま口づけをした。最初は触れ合う程度だったのに、徐々に深くなっていく。記憶の回想であるからかその感触は生々しく、落ち着かない。わたしは必死に息をしようとするが、彼の思うままだ。


「これで眠気は飛びましたか?」


 彼はにこりと微笑んでわたしを見る。息が切れて視界も潤んでいるが、彼の顔をじっと見ることができた。


 月の光を反射しているかのように美しい銀髪を揺らし、血のように紅い瞳を持つ、神が創り出した彫刻だと言われても納得できるような端麗な青年。見たことがある。冒涜者と言われていた人だ。


 つまりこの人は、ユイナート様……。


「まだ欲しい、という顔をしていますね。安心してください、すぐに気持ちよくさせてあげますから」


 彼は柔らかく目を細め、わたしの頬を撫でた。こうやって見たら、セシリオ様とユイナート様は髪色や雰囲気は違えど顔立ちがかなり似ている。当時のわたしは、セシリオ様を初めて見た時に疑問に思わなかったのだろうか。


 わたしの状態にも目を向けてみる。依然として手錠は付けられている。服装は薄めのネグリジェ。腰に手を回されていて、密着している彼も軽く服を着ている状態だ。妖艶で色気が凄い。


「あの、ユイト様」


 わたしの口が動いた。ユイト様、と言っている。彼はユイナート様で間違いがない。


「どうしたのですか?」


 彼は優しく微笑んでわたしと目を合わせる。すっと腰の線をなぞるように指を動かされ、わたしの身体はびくりと震えた。


「少し、気になることがあるのです。ですが、些細なことなので……」

「聞かせてください」

「……ユイト様に、ご兄弟はいらっしゃるのですか?」


 これまたわたしはなんてことを聞いているのだ。ひやひやしながら彼の反応を見ていると、彼は小さく首を傾げただけだった。


「どうしてそのようなことを?」


 確かに。わたしはどうして唐突にこのような質問をしたのだろう。


「歴史書を読んでいても、王族の方にはご兄弟が沢山いらっしゃるようなのです。それなら、ユイト様にもご兄弟がいらっしゃるのかもしれない、と少し、気になって……。不躾なことを聞いてしまって、ごめんなさい」


 わたしが俯くと、彼の指が顎を摘まんでくいっと上げた。彼の紅い目がまっすぐとわたしの目を見つめる。


「謝る必要はありませんよ。確かに王族は血縁が多いことが基本ですね。ですがアルテアラはそうとも限りませんよ。王位継承権を持つ者も少ないです。僕には兄弟は、一人しかいません」


 ユイナート様の言葉に記憶の中のわたしは目を瞬く。彼はわたしの髪に触れながら、わたしを見ているようでどこか遠くを見ているような目をした。


「そんな彼の行方も今は分からないのですよ。……もし彼がいたなら、次期国王は彼だったでしょうに」


 ユイナート様が言う「彼」とは、セシリオ様のことだろう。これがいつの記憶なのかは分からないが、わたしは元々彼らの関係性に対する情報を持っていたみたいだ。すべて忘れてしまっていたので、役に立てることはできていない。


「余計なことを話してしまいましたね。忘れてください」


 にこり、と彼は微笑む。そして彼の顔が近づいて、唇が重なった。舌が絡み合う深い口づけをされ、そのままわたしの身体は押し倒される。


「貴女は僕のことだけを考えてください。僕だけを感じて、可愛い声を聞かせてください」


 彼は熱が籠った目でわたしを見下ろし、甘く微笑んだ。



 ……この記憶はいつまで続くのだろうか、と思う余裕もないほどにわたしの意識は快楽に堕とされていく。わたしの思うように体は動かないくせに、感覚はちゃんと伝わってくる。そのせいで、こんなことになっているのだ。


 わたしの嬌声にユイナート様は目を和らげ、もっと聞かせてと敏感な所を責められ、自分で聞くのも恥ずかしいような声が出る。


「シェミ。僕のシェルミカ」


 彼は何度も何度も、耳元でそう囁く。彼の瞳には抑えきれないほどの熱が浮かんでいて、彼が口づけるだびに大きな思いが注ぎ込まれている。そのことは分かるのに、その思いが何なのかを感じ取ることはできなかった。


 これは今のわたしの問題なのか、それとも記憶の中のわたしの問題なのか。


 やはりわたしは、ユイナート様のことを……そしてセシリオ様のことを、全然理解できていないのだと思う。


 その後も行為は続き、わたしの身体から完全に力が抜けた。

 目を閉じる少し前、ユイナート様の紅い瞳が柔らかく細められて、彼の口が言葉を紡ぐ。しかし、その言葉を聞き取ることはできなかった。というよりも……聞かせないようにしているようにも見えた。

 読んでくださりありがとうございます。

 おかげさまで、幕間も含めるとこれで100話目になります!


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