1. 4人それぞれの想い人
俺には幼馴染たちがいる
この国、皇国カイレの孤高の皇太子である、
ライモンド・テリオン・カイレ 。
最上位 S級の α 。
そして、
気の強い公爵令嬢、サラシャ・エスカルレ。
A級の Ω 。
常に共に過ごす大切な幼馴染たちだ。
彼女の従者である、
A級の Ω の ルルマル も、
身分の違いから公には出来ないものの
俺の幼馴染といえよう。
そして俺は、
ツェリオ・ソーフィ。
侯爵家の嫡男であり、
S級の Ω 。
そう、どこか遠くの野菜の国の戦闘狂王子がきいたらこういうであろう。
まるで Ω のバーゲンセールだな。と。
この広い皇国といえど、
数える程の……いや、数える程もいない Ω で溢れた奇妙な友人グループなのだ。
極小数の α と Ω は、
どの国でも王族・貴族にしかいないといえるのだが、
稀にルルマルのような特異的な例もある。
だとしても、仲良し4人中3人 Ω は類をみない組み合わせである
そして、それよりも謎めいているのは、
その中でひとつの番も成立していない、という事実である。
実のところ、その展開は、俺的にとても美味しい展開。
だがその展開がもうすぐ終わるということを、
今まさに、目の前の光景で知らしめされている。
俺は、もうずっと、ライモンド こと ライが好きだ。
色っぽく整えられた漆黒の髪、紫紺の瞳、
2つ並ぶ泣きぼくろと陶器のような肌はえらく扇情的で、漢らしいのに、とても麗しくて妖艶なライモンド。が、甘い表情で語りかけているのは、サラシャ。
あぁ、ライはやはり、サラシャが好きなんだな。
以前きいたライの好みが、サラシャにどんぴしゃで当てはまることが、その思考に至ることを助力させた。
ライの好みは、賢く矜恃をもつ強い人。
見た目でいえば、綺麗で華奢な人と言っていた。
ダークブラウンのストレートの長い髪に、深紅の瞳
整った綺麗な顔立ちに大きな目、モデルのような身体
公爵令嬢としての矜恃を持ち、負けず嫌い。
その賢さと巧みな社交で、令嬢達のカリスマ的存在。
対して俺は、
白髪にラベンダーのような薄い紫の瞳
中性的で儚い女神のようだと称えられる容姿だが、
少年や女のように小さくはなく、線は細いが男の身体だ。女と比べたら華奢とはいえないであろう。
それに、Ω と診断されてからは、侯爵家の跡取りを弟に譲り趣味にいきる俺は賢さや矜恃とは程遠い。
大敗だな。
ふたりを傷心の気持ちで眺めながら、
流れそうな涙をこらえる
そして、痛みから目を逸らすように、
ルルマルを視界にいれて、少しだけ、安堵する。
俺と同じく傷ついた顔を、
まるで人形のように感情を殺して上手く隠すルルマルをみると、仲間と思えるからか、見習わねばと思えるからか、俺はいつも少しだけ救われる。
ー 俺と同じ ー
失恋に胸を痛ませるときだけにとどまらず、
そう思うことが度々あるのだ。
なぜだか、彼にだけしかそう思わない。
バース性が診断されるまでは、
絶対的に望みのない恋だと諦めることを前提にライを想っていたあの頃の自分と重ねてしまうのだろうか。
ルルマルは、主人であるサラシャを想っている。
そして互いに Ω だ。
ルルマルの救いのない恋心をおもうと、
なにもしてやれない自分自身を嫌いになる。
なにかしてやりたいと、心から感じる。
それと同時に、
身分やバース性の障害を乗り越えても、
もしかしたら、という期待と欲求で
余計に歯止めのきかない恋心をもち
より大きな怪我をするということを
知らないままで、せめて少しでも楽でいれほしいと感じるのだ。
俺には、身分もバース性もある。
俺がライに嫁ぐことに、なんの足枷もないのだ。
足枷に苦しんでいた過去の俺に教えてやりたい。
それが外れても、ライからの愛がないおまえは、
どこにいくことも不可能なのだと。
愛されない言い訳があったあの頃の方が、
まだ幸せだったのかな。
さらりとした淡い金髪と空色の碧眼を
より一層人形のように感じさせるポーカーフェイスを
してライとサラシャをみつめるルルマルをみて、
そんなことを考える。
少し離れたところから眺めるこの光景は、
本当に大切で、本当に俺を滑稽にさせるのだ。