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 目を覚ますと、前方に神社らしき建物が見えた。なぜわたしはこんなところにいるのだろう。どうやってここまで来たかも覚えていない。と、いうか何も覚えていない。わたしの名前は薫子。それしか記憶がない。とりあえず立ち上がり、神社の正面に回ってみる。誰もいない。途方に暮れていると、上空にドローンが飛んできた。手を振ってみる。ドローンはしばらくして去っていった。わたしはそれを追いかけた。

 しばらくすると、大きな湖に差し掛かかった。遠くには赤いお城みたいな建物がある。ドローンはそこへ向かっていった。日本にこんなところがあったのか。そんなことを考えていると、「おいお前、知らない顔だな。ひょっとしてゲルフなんとかって奴の仲間か?」見ると、その子は青いワンピースを着て、なんと背中には氷の羽がある。「よ、妖精……?」わたしは唸った。するとその子の隣に控えていたもう一人の「妖精」が言った。「どうやらさいきん幻想入りしたひとのようですね。いかにもわたしたちは妖精。そしてここは幻想郷。わたしは大妖精と申します。そしてこの子はチルノちゃん。タイミングが悪かったですね。いま幻想郷は外界の人間たちに侵略されようとしているんです」わたしは頭を働かせた。「つまり、ここは文字通り幻想の世界で、ゲルフなんとかと戦っていると」「その通りです。それに敵の組織は〈ゲルフ〉。幻想郷の力ある方々はあそこの〈紅魔館〉に籠って戦っているんです」大妖精が受けた。なるほど、この広大な湖を盾にしているわけか。「あなたは人間さんのようですし、よろしければ人間の集落、〈人間の里〉までご案内しますよ」大妖精は親切だ。「ありがとう。大妖精ちゃん。ではお願いするね」チルノはもう飽きたのか、カエルと遊んでいる。「大ちゃん、でいいですよ。ほら、チルノちゃんも行こう?」「うーい」チルノは何を考えているかわからない。

 歩くあいだ、幻想郷のこれまでの経緯を聞いた。ファンタジーのような話だが、みな固有の「能力」を持っていたが、それがとつぜん失われ、いまや河童が量産している銃器で応戦しているらしい。しばらくすると大きな門が見えてきた。「あの門を入ると人間の里です。ではわたしたちはこれで失礼しますね」大妖精が別れを告げた。「ありがとう、大ちゃん。それにチルノ」わたしは門の前に立った。すると門番が「見ねえ顔だな。ゲルフのスパイじゃあるめえな」「さっき幻想入りした者です。ここまで妖精さんにご案内いただきました。ご覧の通り丸腰です。スパイでない証明にはなりませんが」門番は顔を引っ込め、しばらく待つとまた顔を見せた。「いいだろう。開けるぞ」門が開いた。「ありがとうございます」

 人間の里はなかなか賑やかな集落だった。そこかしこに商店があり、人間も多い。わたしは目に付いた人間に訊いた。「すみません。幻想郷の歴史を知りたいのですが、どなたかお詳しい方はいらっしゃいますか」とある人間は言った。「そりゃおめえ、稗田んとこのお嬢ちゃんだろ。さてはおめえ、新参者だな?」「はい。ついさっき幻想入りしたばかりで。稗田さんはどちらにいらっしゃいます?」その人間はあそこだ、と指を差した。わたしは礼を言い、その場所へ向かった。

 「稗田さーん、いらっしゃいますかー?」「はい、ここに。どのようなご用件でしょう」稗田さんは黒髪のショートボブで、着物を着ている可愛らしいひとだった。「薫子と申します。幻想郷の歴史を知りたいのですが。稗田さんがお詳しいと聞いて」「ではわたしの『幻想郷縁起』をお読みください。中へどうぞ。お茶をお出ししましょう」「ありがとうございます。お邪魔します」稗田さんは分厚いハードカバーをどっさりと持ってきた。「貸し出しはしていないのでここでお読みください」「ありがとうございます」わたしは読書に耽った。

 『幻想郷縁起』には、幻想郷の成立、博麗大結界、数々の「異変」、関係者の能力などがつまびらかに記してあった。わたしは二時間ほどで読了した。「『現在』については執筆中なんですよ」稗田さんは言った。能力の消失、ゲルフの侵攻について、大ちゃんと同じことを教えてくれた。詳細については「誰もがよく分かっていない」のだろう。

 ゲルフの目的は何か。それが分からないとわたしの立場も決まらない。でも、大ちゃんやチルノ、稗田さん、そして自分自身は守りたいと思った。「稗田さん、河童さんと会ってみたいのですがどうすればよいでしょう」「なぜです?」もっともな疑問だ。稗田さんはわたしが敵か味方かを問うているのだ。「わたしもみなさんの力になりたくて」そう答えると、稗田さんはしばらく黙考し、顔を上げた。「いいでしょう。河童は毎日ここに買い出しに来るのでその時に会えるはずです。わたしも同席しましょう」「何から何までありがとうございます」

 やってきた河童さんは小さくて可愛い子だった。稗田さんは「こちらは薫子さん。われわれの力になりたくて銃器の訓練をしたいそうです」と紹介してくれた。河童さんはトランシーバーを出してゴニョゴニョ喋りだした。やがて「了解」と言い無線をしまった。「OK、ついてきな」「ありがとう、小さな河童さん」わたしは河童さんの頭を撫でた。河童さんは顔を赤くしてわたしの手を払った。

 わたしたちはまた湖の前に来た。そこにはドローンが待機していて、わたしはまた手を振った。ドローンが去ったあと、迎えの、空を飛ぶ船のような乗り物がやって来た。「これは〈ドダイ〉。見ての通り空飛ぶ船だ」わたしは周囲を見渡し、「索敵よし。オールクリア」と宣言した。河童さんとわたしはくすくす笑いながらドダイに乗った。

 紅魔館。『幻想郷縁起』によると、かつて異変を起こした吸血鬼たちの住処である由。中に入ると、「アンタね。さいきん幻想入りした人間って」と巫女装束の少女が迎えてくれた。「こんにちは、博麗霊夢さん。よろしくおねがいします」「え、なんでわたしの名前を知ってるの?」「『幻想郷縁起』で読みました。そこにいるのは霧雨魔理沙さんですね」「お前、あれ読んだのか! 何巻読んだ?」と霧雨さんが言うので「全部読みました。二時間で」と答えた。「まじかよ、お前本当に人間か……?」ぐるりと周囲を見回すと、幻想郷の「有名人」が勢揃いしている。ただ守矢神社の三人だけがいないことが気になった。みながわたしを見ているので、わたしは背を正した。「薫子と申します。本当にただの人間ですが、みなさんの力になりたくてここまで来ました。以後よろしくお願いいたします」

 

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