第23話 『戦いを終えて ~セルヴィ~』
世の中には、言い訳の利かない状況というものが存在する。
例えば、今この場だ。酒に酔い、倒れた女性を介抱しようと横抱きにしている。その事実をありのまま見てくれる人間なんて、まずいない。
私の腕に抱かれたゾラは眼を瞑ってしまっているし、私はゾラの顔を覗き込んでいた。つまるところ、なんらかの行為の最中であったと見るのが妥当だろう。
厄介なことに、この行為というものの正体に関しては、万人共通でひとつの解答に辿り着くものと考えざるを得ない。
両手を背中側で結び、ニコニコと上機嫌にこちらを見下ろすセルヴィ。
私は背筋に冷や汗を掻きつつも、頬を突っ張って薄ら笑いを浮かべた。
「あの、セルヴィ。これは違うんだ……!!」
「なーにが違うのかなぁ~?」
「いや、その……」
こんな状況、弁解の余地があるはずもない。
あまりの気まずさに眼を逸らすと、待ち態勢だったゾラが眼を開けた。
「クラウス?」
「あ、ゾラ。これは……」
「ああっ! セルヴィがいるじゃないですかぁっ!!」
ぱあぁっと、一瞬でその顔に笑みが甦る。
「セルヴィ~! きてくれたんですね! 一緒に飲みましょう~!!」
両手を伸ばしてひらひらと振るゾラに寄って、セルヴィがしゃがみ込む。
「そうね。でもその前に、その姿勢だと危ないから起きよっか?」
「はい!」
前後不覚のゾラの両手を取って、セルヴィが助け起こす。両肩を支えて椅子にまで座らせると、別のテーブルから椅子を持ってきて私の隣に座った。
「それじゃあ、さっそく3人で乾杯しましょう!」
「ゾラ……その前に、ちょっとだけいい?」
その文言を、言い終えるか否かの速さだった。
セルヴィが私の身体に腕を回して抱き寄せ、肩に自分の頭を乗せた。
「クラウスはあたしのだから、ゾラにはあげないよ?」
「せ、セルヴィ!?」
大胆にも、ゾラ本人を前にして宣戦布告のような物言いである。
内心気が気でない私としても、ゾラの反応を見守るよりない。
ゾラは、ぽけっとした反応を見せた。一瞬の間に顔からすべての表情が抜け落ちたかと思うと、にへらっとまたしても酔っ払い特有の笑顔を浮かべる。
「あ~? そういえばクラウスはセルヴィの旦那様でした~」
頭をふらふらさせながら私の方を見て、ノンデリカシーにも続けた。
「残念です~。どーやら、口説くのが8年遅かったみたいですね~?」
「待ってくれ。そういった意味じゃなく……」
「そうね。先に口説いたのはあたしだから、ゾラは素直に諦めてね」
率直に言おう。このとき怖くてセルヴィの顔が見れなかった。
恐怖に怯える私を差し置き、ゾラの心にその主張は響いたらしい。
「はい! わかりました! それでは改めて乾杯をば!」
「クラウス、準備して。それじゃあ乾杯」
「か、乾杯……」
音頭とともに順繰りにグラスを合わせるものの、これほど気まずい乾杯がかつてあっただろうか。
程なく、ゾラがダウンした。さっきから語尾が伸び伸びになっていた辺り限界は近いと思っていたのだが、その直感が証明された感じだ。
「…………」
私は無言で、セルヴィの様子を窺った。
ワインをグラスに注ぐと、一気に飲み干す。それを何度も繰り返している。
グラスに唇を当てた状態で、ふとその瞳がこちらを向いた。
ちょうど流し眼のようなかたちで、セルヴィの視線とぶつかる。
「……なにか、言うことあるんじゃない?」
「ごめん」
申し開きより謝罪の方が先決だ。
思い切って頭を下げると、セルヴィはいたずらっぽく笑う。
「ゾラってばかわいいもんね。年下で、まるで妹みたい。それでも、まさかクラウスが手を出すなんて思ってなかったけど」
「セルヴィ、それだけは誓って違うよ……」
焦って早口になるものの、セルヴィは言葉の刃を納めてくれない。
「どうだかね~。状況証拠、揃っちゃってますけど?」
「うぐ」
「ゾラのことは、あたしだって好きよ? あ、そうだ。なんなら3人で一緒に住んじゃおっか?」
「す、済まないセルヴィ。本当に、どう謝罪したものか……」
セルヴィがどこまで本気で言っているのかわからず、さっきから冷や汗が止まらない。身の潔白を証明するため、いっそのことテラスから下に飛び降りてしまおうか。そんな物騒な発想までもが脳裏を過ぎった。
もう1度謝罪しようと頭を下げかけたとき、セルヴィの口元が歪んだ。
我慢しきれなくなったとばかりに噴き出すと、口の前に掌を立てて――。
「ぷっ、あっはははははは!! ごめんごめん、そんなかしこまらないでよ!!」
盛大に笑い声を上げながら、私の肩をぺしぺしと叩いてくる。
さっきまでとの態度の急変に、鈍感な私でもさすがに気づいた。
「さては私のこと、担いでいたな……?」
「そりゃそーでしょ。クラウスがそんなことするはずない。妻のあたしが太鼓判捺しちゃうわよ」
セルヴィはひとしきりケラケラと笑うと、眼元の笑い涙を指で拭った。
「あなたにそんな甲斐性ないってこと、あたしが一番よく知ってるもの」
「か、甲斐性なしって、あのなあ……」
「でも、事実でしょ?」
こてっと首を傾げて、考える間を作る。
「あたしたち、なにか夫婦らしいことしたことあった?」
「それは……」
入籍からの思い出を総浚いして、あまりの内容の薄さに言葉を失う。
「ない、です」
「そうそう。あなたはずっと別の女の人に夢中だったから」
「待ってくれ。君以外の女性になんて……!!」
疑われたのはさっきの今。
本気で否定に掛かる私の唇を、セルヴィが人差し指で塞いだ。
「ちゃんといたわよ。『名無し』の魔女が」
頭を殴られたような衝撃が、私を襲った。その通りだ。
思わず口を噤んでしまうと、セルヴィはおかしそうに微笑して――。
「あなたを焚きつけたのはあたし。でも、まったく妬かなかったと言えば嘘になる。8年だなんて、こんな長丁場になるって知ってたら止めてたかも」
セルヴィは再びグラスにワインを注ぐと、一気に呷った。
そして、テーブルに突っ伏して眠るゾラを慈愛に満ちた眼で見る。
「……この子にも、楽しいお酒の飲み方を教えてあげられなかった」
「そうだな」
くぅくぅと寝息を立てるゾラを、私も見る。
事業の途中から、レッドドラゴンに臨む冒険者たちには輪番で休日を作っていた。王城地下から外に出て、身体を休め英気を養うための時間だ。そんな休日の多くを返上してまで、ゾラは私たちの力になってくれていた。
「身を削って、あたしたちに協力してくれた」
「ああ。今日ここにいる者たちには、本当に感謝してもしきれない」
そう口にすると、彼らとともにいるのはこれで最後なのだという実感がしみじみと湧いてくる。
「少し、寂しい気もするわね」
「だけど、彼らには彼らの道がある。私たちにも私たちの道があるように」
「例えば、どんな道?」
浸ろうとしたところを急に問われて、少し面食らう。
しかし、そうだな……私たちの今後というからには。
「真っ先に着手すべきは『名無し』の魔女の居室についてだ。真実は未だそこに眠っている。私たちの手で掘り起こしたからには、解析しないと」
「クラウスらしいわね」
皮肉じゃない。セルヴィは満足げな眼差しで私を見る。
「そうそう、前に毎日が発見の連続だって言ったけど、今日も大きな新事実が発覚したよ? 聞きたい?」
「もちろんだ……長くならなければだけど」
私は夜風に晒されたままのゾラを眼に入れる。
給仕を呼びつけて、とりあえず上に羽織るものを持ってこさせた。
「それじゃあ、ゾラが風邪を引かないくらいに手短に」
「ああ」
毎夜、帰宅したセルヴィから話を聞かせてもらっていた。毎日が発見の連続。その表現に誇張はない。『名無し』の魔女の居室からセルヴィが持ち帰る情報はいつだって刺激的で、私の知的好奇心を刺激してやまない。
セルヴィに話をしてもらうとき、私はきっと、新しい玩具を買ってもらった少年のような眼差しをしていたのだろう。セルヴィはそんな私を見て、いつも満足げに笑っていた。まるで1日の疲れを、それで癒しているかのように。
「『名無し』の魔女の居室が書物庫になってるって話、前にしたよね」
「四方を書棚に囲まれて、隙間なく本が収められているんだろう」
実際に入ったことはないから、セルヴィからの伝聞だ。
しかしその光景を脳裏に思い浮かべない日はなかった。
「そういえば、君の直感で居室にあった魔導書の1冊を王都の魔法協会に送っていたよな」
「さすがクラウス、ちゃんと覚えてる。実はその鑑定結果が出たの」
もしセルヴィの仮説が正しければ、歴史を揺るがす大発見となる。
息を呑んで見守ると、セルヴィが答えに先んじて笑みを浮かべた。
「あたしの読み通り。あの魔導書と同一内容のものが、魔法協会にも保管されていたのよ」
「千年前には既に共通語が用いられていた……つまりその魔導書というのは」
「そう。『名無し』の魔女自らの手で、古代語に書き直されたものだった」
あまりの興奮に、目眩のように眼の前が白くなった。
古代語には謎が多い。その多くは石碑に刻まれたものだが、王国全土を巡っても見つからないブランク文字が数多く存在していた。それが今回の探索により、保存状態良好な書物のかたちで、大量に手に入った。
その上、現存の魔導書と同内容の古代語で書かれた魔導書までもが同定されたのだ。サンプル不足により行き詰っていた古代語研究に風穴を開ける大発見となるだろう。
「すごい!! ブレイクスルーが起きるぞ!!」
「ええ。これまで謎とされてきた古代魔法の封印も解けちゃうかもしれない。でも――」
とここで、セルヴィはビシッと私を指差した。
「その前に、あなたが見つけた宝の山の調査が先決。古代語で書かれた書物の解読は、専門家の手による人海戦術になる。当然、大学始まって以来の古代言語学の俊才と言われたあなたの手も必要だから覚悟しててね」
まるで仕事を押し付けるような口ぶりだが、そんなの願ったり叶ったりだ。
「君が書物を持ち帰れば、私も力になれる……セルヴィ、ありがとう!!」
「許可制だし、あまり多くは持ち出せないだろうし、そこは小声でね?」
思わず口を押さえるも、テラスにはゾラしかおらず通りに人影もない。
ふう~、と長い安堵の溜息を吐く。
セルヴィは、そんな私の慌ただしい反応をすべて見届けたようだ。
「あなたって本当に変わらないわね。興味ごとになると、すぐに眼の色を変えちゃうんだから」
「そうだろうか」
「あ、そうだ。その優れた頭脳と卓越した記憶力で、是非とも答えてもらいたい簡単な質問があるんだけど、いい?」
「もちろんだとも」
上機嫌の私は、全力で首を縦に振った。
「それじゃあ質問なんだけど、あたしたちの結婚記念日っていつ?」
……あとで、固まった。
「ほら言えない」
「そ、そんなことはない。言えるさ……たぶん」
「たぶん?」
「いや、言えます。言うから、待って」
口元に手を遣り、視線を下げてテーブルを真剣に見る。私の頭の隅、記憶野のどこかに、夫婦にとって大切な記念日も保存されているはずだ。というか、そうでないと非常に困る。浚え、ドブ川の中から砂金を探すように、浚え……。
「時間制限、設ける?」
「いや待って……たしか、蒸し暑い季節だったよな」
「それはヒントになっちゃわない? フェアじゃなくない?」
「わ、わかった。私ひとりで考えるから……」
必死に思い出そうとする私の顔を、頬杖を突いたセルヴィが見守っている。
まんじりともせずに数分が経過し、先に耐え切れなくなったのは私だった。
「済まないセルヴィ。お手上げだ」
「ほーら言わんこっちゃない」
「夏か冬かさえ、覚えていなかった……本当に、済まない」
平身低頭とは正にこのこととばかりに、私は深々と頭を下げる。
なのにセルヴィときたら、てんで気にした素振りも見せていない。
「ま、予想はしてたからね~。あなたにとって、あたしが1番だったことなんてこれまでにもないもの」
あっけらかんとした物言いとは裏腹に、その言葉は私の胸の奥深くを抉った。
「事業に血道を上げていたとはいえ、今のは言い訳が利かない失態だと思う。セルヴィ、こんな言い方をして申し訳ないんだが、よくこんな男と結婚する気になってくれたね……」
ワインを飲むペースを落とさず、セルヴィはつまらなさそうにこちらを見る。
「それ、どういう意味?」
「求婚の話、私以外にも何件かきていたと聞いた」
「お父さんね……まったく、あれほど内緒にしとけって言ったのに!!」
謝罪する私にではなく、実父に対して怒りだすのも変な話ではある。
「そう怒らないでほしい。次期公爵の座を返上して、それでも君との結婚を許してくれたんだ。君の御父上は私にとって恩人だよ」
「その御父上とやらが、あなたを今回の調査から外したんだけどね」
本人がいないのをいいことに、チクリとやる。
セルヴィは昔から身内に厳しい。特に御父上には。
「クラウスの実家って大きいから、それでも縁を結ぶメリットはあるって踏んだんでしょうよ。あの人、損得勘定だけはちゃんとやるから」
心中に堅物で鳴らしたアルヴァイン伯の顔が浮かんだのかもしれない。
セルヴィは心底うんざりした感じで、ふはあっと溜息を吐いて――。
「で、それだけ?」
「へ?」
「あたしに言わなきゃならないの、それだけ?」
先程までのアンニュイ感が一転、刺すような視線で私を睨む。
そんな急に言われても、私に心当たりなんて……。
「『やめて』って言った」
あ。
しまった、と思う時間すらなかった。セルヴィが眼に涙を溜めている。
「忘れてた、とか、聞こえなかった、とかいうのもナシなんだからね」
「済まない」
「謝るのもナシ」
どうしろと……。
困惑の渦中に沈む私をよそに、セルヴィは涙を拭って切り替えたようだ。
「こういうの、きっとジレンマっていうのよね。あたしが好きなあなたは、夢を見ているときのあなた。『名無し』の魔女の居室に辿り着くために、誰より一生懸命だったあなた」
セルヴィの表面的な笑顔の裏に、寂しげな影が兆す。
「だからずっと、あたしが1番じゃなくていいって思ってた」
「セルヴィ……」
「でも、あのときは、怖かった」
セルヴィが俯く。明るい性格の彼女の顔が、翳って見える。
「あなたはあたしたちを優先してくれた。自分の身を擲って、レッドドラゴンの前に立って。でもそれは、自分自身のことを勘定に入れていなかったからでしょ。あなたが死んでも、他の誰かが事業を引き継ぐ。開かれた扉の先の、真実に日の光を当ててくれる。そんな思惑がどこかにあったから、自分を犠牲にできた」
熱に浮かされたような行動の意味は、後になって見つかるものだ。
あの危機的状況で、私の脳裏にそんな打算が働かなかった根拠はない。
だから私はなにも言えない。その資格もないと思う。
「クラウス・カールゼンの旅はここで終わり。それでいいって思った」
「それは」
「あたしたちは、まだ始まってもいないのに」
言い返せない。セルヴィの言うことはもっともだった。8年もの間、私はこの事業に没頭し続け、大切な妻をないがしろにしてきた。なのにセルヴィはいつも笑顔で、傍で私のことを励ましながら、最大限の協力を惜しまなかった。
それが彼女の本懐だったかといえば、きっとそうじゃない。
私は夫らしいことをしていない。今までに、なにも。
面と向かって、セルヴィの想いを聞いてみたこともなかった。
「クラウス」
「ん?」
「手を、出して」
テーブルの上に手を差し出すと、手の甲をセルヴィの掌が覆った。
「もう、あんなことしないって、誓える?」
嘘偽りのない願い。潤んだ瞳が私の心に波風を立てる。
もちろんだ、と安請け合いしたい。けれど今は、嘘が許されない状況だ。
この期に及んで、表面を取り繕うだけの答えなんて伝えられない。
セルヴィとずっと一緒にいたいのは本当だ。だから私は、首を振った。
「できない」
「……え?」
セルヴィの眼元に涙が浮かぶ。それは、早合点だ。
私は大きく首を振って、もう1度言い直す。
「そうじゃない。もし今、時があのときに戻ったとしたなら、私はもう同じ行動を取ることができないという意味なんだ」
「なによ、それ」
「君が大切だって気づいた」
私はセルヴィの眼を直視する。
掌を裏返して、彼女の手を握り返す。
「仲間を、君を救えるならそれでいいと思った。現に、あのときの私は満足していたように思う。打算がはたらかなかったとは言わない。私がいなくなっても、誰かが事業を引き継ぎ真実に至ればそれでいいと、まったく思わなかったといえば嘘になる。けれど――」
セルヴィから一瞬も眼を離さず、息継ぎをして。
「最期の瞬間、しあわせそうな君の顔を見た。瞼の裏に浮かんだんだ。他のなにかじゃなくて、この事業のことでもなくて、君の顔が。自分の、本当に大切なものに気づいた。そして今夜、仲間のみんなの顔を見て回って、確信するに至ったんだ。私は君を手放せない。だからもう、同じことはできないって」
私は想いの強さとともに、セルヴィの掌を握り込む。
セルヴィは驚いた顔で私の顔を見ていた。そして、自分が泣いていたことに気づいたのだろう。空いた手で涙を拭って、洟を啜り上げた。
「……それだと、みんなドラゴンブレスで焼け死んじゃうかもね?」
「謝るさ、あの世で」
「その必要はないんじゃない。絶対にあなたを許してくれる」
「気のいい連中だからな。清々しくて、真っ直ぐで」
「無謀な事業に手を出してるあたしたちに、最後まで付き合ってくれた」
セルヴィのもう一方の手が、私の掌の上に重なった。
ふふっと笑って、それからいつもみたいないたずらっぽい笑顔で。
「ねえクラウス。さっきの、求婚されたときよりキュンときちゃったんだけど、どう責任取ってくれるわけ?」
「どうって……セルヴィは私に、どうしてもらいたいんだ」
「あたしの口から言わせるなんて、とんだ甲斐性なしじゃない?」
からかうように言われて、私は頭を捻る。
夫として、この場でもっとも妻になすべきことは。
「セルヴィ、君を愛してる」
「まあ嬉しい。それってどのくらい?」
「世界中の誰よりも、君のことを愛している」
「それで?」
問い返されて本気で困る。
それ以上のことが、なにかあるのか……?
無言のままでいると、今度はセルヴィが悪意なくぷっと吹き出した。
「そういうの、言葉じゃなくて態度で示すものでしょ」
「あ、そうか。すま……」
「だから謝らないでって。でね、あたしならこうやるっていうの、聞く?」
そういう前振りをされると、好奇心が疼くタチだ。
頷くと、やっとアルコールが回ったのか、セルヴィは頬を赤く染めた。
「実はね、今夜は飲み会があるから、明日の調査は休みにしてあるの。1日ゆっくり羽を休めて、英気を取り戻すだけの時間がある。だからもし、クラウスがよければなんだけど……」
なんだろう、らしくなくセルヴィが言いあぐねる。
モゴモゴと口を波打たせて、私を見上げて、躊躇を振り切るように言った。
「……今夜はずっと、あたしと一緒にいてほしいかな」
まるでいたいけな少女のような物言いに、私の顔にまで笑顔が兆す。
やれやれ、まったくもって手の掛かる夫もいたものだ。妻にここまで言わせないと、己がやるべきことすらわからないとは。
このお願いに、返答なんて最初から求められていない。私は両手を差し伸ばし、セルヴィの両肩を抱き寄せると、自らの腕に抱くようにした。
やがて眼を瞑り、無防備となったセルヴィの唇に、自分の唇を静かに重ねたのだった。
一言:ゾラは爆睡ちゃんをかましているため、夫婦のイチャイチャは見ていません
これだけはお伝えしたかった……。




