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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第四章 七人の頭目
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4-4.白拳の瑠璃忍


「アルヴィン殿、気に病むことはありません。蝶華は特別ですから」


鵠はアルヴィンの肩に手を当てて優しく言った。


鵠の言った通り、蝶華は特別だった。輪刀鬼と呼ばれた彼女はかつては誰も手が付けられない最強の盗賊だった。


"鬼"という名の通り、彼女の戦いは非情そのものだ。敵と認識したものには一切の容赦なく、手心なく、完膚なきまでに叩きのめした。


そうしてついた名が輪刀鬼だったのだ。


「鵠さん、ありがとうございます。俺はまだまだです。でもまだ伸びしろがあるってことだ。精進しますよ」


それを聞いた鵠は再びアルヴィンに優しく微笑みを見せた。





「俺も誰かとやりてえ!誰か俺とやろうってやつはいねえか!?俺は素手だが武器使ってもいいぜ!」


血気盛んな瑠璃忍はうずうずした様子で言った。彼女はその性格とは裏腹に、小柄でかわいらしい見た目の女性だ。美しい銀髪に額当てを結んでいた。


「じゃあせっかくだし私と一戦どう?私も徒手が得意なの」


ミハイのこの申し出を忍は二つ返事で承諾した。


素手同士の戦い、早速手合わせが始まる。


「手加減はしねえからな!怪我したくなかったら早いとこ降参するんだな!」


言い終えると同時に忍の空気が変わった。それまでとは打って変わって静謐な雰囲気になった。


彼女の使う武術は白拳。古い東方武術の一種で、その歴史は二千年以上に遡る。しかしその長い歴史の中で様々な流派に枝分かれし、今では源流白拳の師範は世界にただ一人、瑠璃忍こそその一人だった。


源流白拳は相手の攻撃を受け流し、美しく舞うように見えるために舞踊拳とも呼ばれる。そして隙を見せた瞬間に、残酷なほどに鋭い一撃を相手の弱点に正確無比に打ち込むのである。


それまでの荒々しい忍の雰囲気とは違い、穏やかな水面のような今の彼女に、場の空気が急激にびりびりと緊張していく。


ミハイの額に緊張からか脂汗がにじむ。それでもミハイはひるまなかった。


得意の掌底を繰り出す。その掌底の切れ味に忍も一瞬驚いた様子を見せたが、最小限の動きで受け流した。掌底を繰り出したミハイに隙は無い。


その後も次々にミハイが攻撃を打ち込むが一向に命中する気配はない。すれすれのところでなぜか躱されてしまう。それどころかミハイには自分の攻撃が自然に逸れているようにすら見えていた。


すさまじい速さでの攻撃にさすがのミハイも肩で息をしている。


「これだけ、やって、一発も当たらなかったのは、、あなたが初めてよ」


「かなりの速さだな。それに隙もない。お前の拳法、俺は見たことないがかなり洗練されていることはわかるぜ」


ありがと。と同時に再びミハイの掌底と旋風脚が繰り出される。これも見事に忍はいなした。そして大技を繰り出した相手にできたほんの小さな隙を見逃さなかった。


それまでの静かな水面とは一転、まさに荒波だった。


弛緩した状態からの急激な緊張。それにより生まれる爆発的なパワーとスピード。ミハイの体に向けて忍の硬く硬く握りしめられた拳が飛ぶ。よけられるはずがなかった。


が、その拳は弱点を的確に射貫くことはなかった。


「なに!?動けるはずがない!」


反応などできるはずもないスピードの拳に、確かにミハイは反応していた。いや、むしろ予測していたと言った方が近いだろう。


みぞおちを狙ったはずがわずかに外された。それに衝撃も吸収された。


今度は明らかに忍に動揺が見られた。穏やかな水面を手で掻いたようにさざなみが広がっていく。


忍がハッとした時にはミハイの掌底は忍の顔を掠めて後ろへと抜けていた。左耳に風切り音がこだまする。


同時にミハイの左耳を掠めて忍の白拳も炸裂していた。無意識に忍が繰り出した右拳だった。


「相打ち、かな?」


「当たっていたらお互いただじゃすまなかったな。それにしても、お前凄いな!ここまで俺と素手で対応にやりあえるやつは初めてだぜ!」


忍はこれまでにない好敵手の出現に喜びをあらわにした。ミハイも同じく、二人はお互いの健闘を称えあった。


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