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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第四章 七人の頭目
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4-3.輪刀鬼

準備は淡々と進められていた。流人連合国軍の中核をなす七人の首領直属の部下たち、盗賊上がりの彼らは毎日を自堕落に過ごしていたが、やる時はやる連中だった。そんな状況を見かねて首領たちは訓練の意味も込めて手合わせの場を設けた。あわよくば自分たちも肩慣らしに戦うべく。


「さてと、手合わせ場を設けたわけじゃが、アンカーソンヒルの者で誰かわしらと戦いたいやつはおるか?」


「アルヴィン・アーヴィン、ロラン先生の従者です。私と一手手合わせ願いたいです」


真っ先に名乗り出たのはアルヴィンだった。やる気満々で槍を振り回している。


「活きが良いのお、若いの。武器の使用は認める。一丁、もんでやるわい、かかってこい」


アルヴィンの喧嘩っ早さに輪をかけて、この紅傘蝶華も血の気が多かった。売られた喧嘩、買わないわけにいかんじゃろうと早速輪刀を抜いた。アルヴィンの初めて見る武器だった。輪刀は、刃が付いた円形の輪の中に自分が入り込む形で構える。いわばフラフープのような状態だ。

唯一手で握れるよう左右二箇所に持ち手が設けられている以外は全周に渡って刃がぎらついているわけだ。


「珍しい武器をお使いですね。初めて見ました、その剣は」


「輪刀という。東国でも使い手はわし以外にはまずいなかろう。なにせ、使い勝手が悪いからのうこの武器は」


カカカっと笑って見せる蝶華だったが、既にその構えには一分の隙もなかった。


「はじめようかの。さ、どこからでもよいぞ」


言い終えるより早く、アルヴィンの槍術が炸裂した。蝶華の輪刀にぶつかって激しく火花を散らす。蝶華は輪刀を器用に回し、体の周りに刃を張り巡らしている。次第にそれは体全体を包み込む刃の衣となり、絶対防御の様相を呈する。


アルヴィンの槍が止まった。攻撃する手がないのだ。隙が無い。どこから攻撃しても必ず受け止められてしまう。下手をすれば反撃を食らう。あれだけ大きな刃だ。おそらく輪刀の反撃は一撃必殺の大技なはずだ。そんな攻撃を正面から受けるわけにいかなかった。


「どうしたんじゃ?わしの輪刀に手も足も出んか?ん?」


蝶華が煽る。


(誘いに乗るなアルヴィン。確実に攻撃できるチャンスが来るまで待つんだ)


見物のロランから見て、アルヴィンが明らかにヒートアップしていくのを感じていた。まだ冷静さを残しているアルヴィンだったが、もう少し蝶華の守りに焦れたらすぐにでも猪突猛進の攻撃を繰り出しそうな表情をしていた。


「これ以上攻撃せんのなら試合を止めるぞ?よいのか?」


アルヴィンの槍が蝶華の輪刀に向けてまっすぐに突き出された。待っていたと言わんばかりに蝶華の輪刀がそれをはじく。青空に向かって突き上げられた槍はその意味を失い、アルヴィンの懐はがら空きになった。蝶華がそれを見逃すはずはなかった。


瞬時に懐に入り込みいつの間にか体を外に出して自由になった輪刀を振るった。


(獲ったな)


しかし蝶華の輪刀は空を切った。アルヴィンの姿は蝶華の視界から消えていた。どこだ、どこにいった。いわば混乱状態のその一瞬、アルヴィンは地面を這うようにして得意の足払いを仕掛けていた。大型の輪刀を振るった後のアンバランスな体制の蝶華はかわし切れずに片足に足払いを受けてしまった。


「なかなかやるのぉ。ただし、その程度の攻撃ではかすり傷にもならんがの」


強がってはいるが、蝶華の左足は緩いしびれを感じていた。


(あの蹴り、徒手でもかなりの腕前じゃのう、こやつ。このままではまずいかの)


アルヴィンは確かな手ごたえを感じていた。いける。勝てる。その感情は確信に変わっていく。しかし次の瞬間だった。なぜか蝶華の輪刀が眼前にあった。すんでのところで躱したアルヴィンだったが、次の一撃が既にアルヴィンに迫っていた。


「まった!降参だ!」


輪刀はアルヴィンの首筋数センチのところでピタリと止まった。


「何だったんだ、最後のあの急加速は…」


「なに、体があったまってきただけじゃよ。本気のわしはもっと早いぞ」


信じられないと言った様子のアルヴィンだったが、これでミハイとの立ち合いと合わせて二度目の敗北。実戦なら命を落としていたと考えると悔しさがこみ上げる。


「まだ…まだ俺は強くなれる。紅傘殿、手合わせ、ありがとう…ございました」


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