3-10.ハロルドの苦悩
◆
少し時間は遡る・・・
◆
◆
◆
「モエナ・ローザ・セントディリッヒが拘束されたらしいな」
アンカーソンヒルのハロルド・アンカーソン公爵が議会でつぶやいた。
アンカーソンヒルでは都市内の各方面の専門家を集めて月に一度議会を開いている。ハロルドが自分の治める町の状況を知るために始めたものだ。
「教皇庁の勢力は日々強くなっています。わが町はいまだ教皇庁に迎合しておりませんが、聖都に近い都市ではほとんどの都市が教皇庁の、ひいてはグレゴリオ・ヴァン・イグノスタスの傀儡と化しています。わが町にも次々と迎合を求める使者がやってきております。圧力は増すばかり・・・どうしたものでしょうな・・・」
各地の諸侯を取り込みながらグレゴリオは勢力を伸ばしている。近隣の都市ではこの圧力をいかに処理するかが喫緊の課題となっていた。
「といっても、セントディリッヒ大司教が拘束されたんじゃもう教皇庁内にグレゴリオ卿に反対する勢力はないだろう?今必死になって教皇庁への迎合を拒否したところでつぶされるのは時間の問題じゃないか?」
確かにハロルドの言う通りであった。グレゴリオを止めるものがない以上、一都市が圧力に耐えることができる期間には限界がある。いずれ今よりもっと強大化したグレゴリオに押しつぶされて強制的に傀儡にされるのは火を見るよりも明らかであった。
ハロルドは苦悩した。
どうにかしてこのアンカーソンヒルを独立都市として維持することはできないか・・・
こんな時、ロランの知恵を借りることが出来れば・・・
近隣都市との連携を密にして教皇庁へ対抗するという手段もあるが、それでも一時の時間稼ぎにしかならないだろう。
最後の砦として、東国に助けを求める方法も残されている。しかしその手段を取れば、独立都市としての体裁を保てるかどうかわからない。教皇庁へ迎合するか、東国へ迎合するか、それとも死か・・・
各地方都市は究極の選択を迫られているのだった。
◆
◆
◆
「急報!サンダーランド卿の治めるカーティンキーロック城が陥落しました!」
「カーティンキーロックといえば、ここから南に早馬で二週間のところじゃないか。誰にやられたか情報は入っているか?」
血相を抱えて議会に飛び込んできた伝者はなんとか息を整えながら続けた。
「それが・・・教皇庁の軍のようです」
議会のメンバーに電撃が走った。
ついに教皇庁が全面的な攻撃に出たのか。もしそうなら、ここも標的にされているのか。軍の規模は。戦うべきか。助けを求めるべきか。だれに?
「東国に助けを求めるぞ。早馬の準備だ。急げ!」
ハロルドの決断は早かった。
アンカーソンヒルの住民を守ることが第一、もし東国の傘下に入ることになっても住民の命が守られるのであればそれはハロルドにとって正しい決断だった。
「アンカーソン公、東国といってもいくつか国がございます。どの国に助けを求めるのですか?」
当方には小国を除く主要国家が三つ存在する。アスワン帝国、マハナンディ共和国、流人連合国だ。
「流人連合国だ。三国の中でもっとも東方に位置しているが、協力してくれる可能性が高い。アスワン帝国とマハナンディ共和国とは遠くない過去に戦争をしているしな・・・」
ハロルドが指示を出してからの動きは早かった。すぐに早馬が用意され使節は速やかに出発した。流人連合国まではおよそ一カ月の道程になる。
教皇庁がこのままアンカーソンヒルまで進行してきた場合は間に合わない。なんの前触れも無しに教皇庁が突然全面攻勢に出てアンカーソンヒルを飲み込むとは考えにくいが、あくまでギャンブルだった。
「頼むぞ、間に合ってくれ・・・」
ハロルドはただただ祈りをささげるしかなかった。




