3-9.聖都ベルベディアでの日々
「モエナ・ローザ・セントディリッヒ、反逆主導の罪で極刑を言い渡す」
グレゴリオ・ヴァン・イグノスタスの口から冷たく、そして淡々と言い渡された。
聖兵に捕えられたモエナは聖都ベルベディアに連行され、数カ月にわたって地下牢に収監されていた。
その間、数々の拷問を受けて衰弱したモエナは既にグレゴリオの言い渡した判決に何ら反論することすらできなかった。
目の光は失われ、巨大な鉄球につながれた手足は力なくだらりと垂れ下がっている。
モエナがここまで精神的に衰弱した理由は拷問のほかに騎士団の壊滅があった。
ヴォルデルネ騎士団はイストリア渓谷の戦いで壊滅的打撃を受け、主要なメンバーを含むほとんどの団員が命を落とした。
南部諸侯たちも同じ運命をたどった。
生き残った数少ない団員と南部諸侯残党たちの行方はケンヴァリーやイヴァン含め分かっていない。
収監後、モエナは気丈にも拷問の日々に耐えていたが、最後の最後で彼女の精神を叩き折ったのはその報告だった。
共に各地を転戦し、同じ釜の飯を食った仲間たちのほとんどが死に、自分の使命を果たすこともできず、教皇の助けも得られない。
彼女は尊厳を失ってしまったのだ。
それからの日々は苦悩と後悔の日々であった。
自分が南部諸侯を巻き込んでしまったという罪悪感と、そして押し寄せてくる後悔に溺れていた。
極刑を言い渡されて彼女は、これでようやく終わると思った。
「教皇様、力の無い私をお許しください。奪われた教会組織を取り戻すことが、私には出来ませんでした・・・」
グレゴリオは彼女に極刑を言い渡してほくそ笑んでいた。ようやく教会内で目障りだった女を始末できる。彼の権力は教会内でも日増しに強くなっており、教皇ですら彼の意見を無下に扱うことはできなくなっていた。
教会内では彼に表立って反対する勢力はモエナを除いて皆無であり、確立された権力を持ってもはや誰にも止められない状況であった。
(モエナ、すまない。私が権力を奪われてしまったばかりに、君にまでこんな苦労を強いてしまうとは・・・)
教皇も心底後悔していた。教皇はモエナが幼少の頃より彼女を大切に見守ってきた。娘のように見守ってきたその彼女が、今自分の目の前でぼろ雑巾のような姿でひざまずいているところを見て胸の奥が痛くなった。
現教皇は元来大変優しい心の持ち主で、教皇庁のみならず多くの人々から慕われている。しかし教皇庁内ではその優しさが仇となり、グレゴリオの台頭を許してしまった。
グレゴリオの持つ権力は金を生む。そうして彼の周りには利権を求めて教皇庁内外から多くの協力者が集まった。
教皇派と呼ばれる一派もはじめのうちはグレゴリオの派閥と拮抗していたが、次第にその数を減らし今では表立った教皇派はモエナを残すのみとなっていたのだった。
「刑の執行は一週間後だ。それまでせいぜい最後の余生を楽しむと良い」
それだけ言い渡してグレゴリオは聖堂から姿を消した。
モエナは再び聖兵に連れられて地下牢につながれた。




