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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第三章 イストリア渓谷の戦い
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3-8.イストリア渓谷の戦い

振り下ろされた刃を、モエナの大剣は鈍い音と共に易々と受け止めた。


「突然攻撃してくるとは、無礼な方ですね。あなたたちでは百人で束になって襲い掛かろうと私を連行することなど叶いませんよ」


その言葉の通り、モエナの大剣はまったく押し返されることなく聖兵の攻撃を受け止めていた。しかしモエナは言動とは裏腹に正直焦っていた。受け止めている、のではなく受け止めさせられている、それ即ちこの聖兵一人を相手取っているがためにほかのことに意識を向けることが出来なくなっているということだ。すでに辺りでは聖兵と騎士団の戦いが始まっている。コーネリアスやパールバラ、ワンヂェンは大丈夫だろうが、ほかの兵たちはこの分では恐らく一対一では聖兵に敵いそうにない。モエナのこめかみに一筋の汗が伝った。


「なんだこいつら…モエナ様、こいつら強い!もっと数を回さないと押しつぶされます!」


パールバラの悲痛な声が聞こえたが、モエナにはそちらを気遣う余裕は無い。このままではいけないとモエナは一旦兵たちの中に下がった。


「我々では連行できないのではなかったのか?私との戦いを逃げているように見えるが」


「いいえ、今は少し驚いただけです。あなたが私の想像よりも剣を使えたことに。ですがあくまでそれは想定の範囲内です。次は私の剣を受け止めてみなさい」


大きく振りかぶられた大剣の切っ先は、モエナの身長を三倍しても届かないほどの高さに達し、そこから一気に振り下ろされた一撃は大男である聖兵の体を防ぐ剣ごと真っ二つに両断した。本来の切れ味が良いとは言えないモエナの大剣でも、重量と振り下ろす速度で鉄をも両断する切れ味を手にすることに成功していた。


そこからのモエナは圧巻だった。まさに一振一殺、ばさばさと聖兵を切り伏せていった。しかしモエナが百人も切ろうかというその時だった。


「前方の部隊が壊滅しました!正面からも敵が!モエナ様、挟撃です!」


その言葉を聞いたモエナの一瞬の隙を、聖兵は見逃さなかった。





深い斬り傷を負ったモエナは大剣によりかかって何とか立っている状態で、意識を保つことがやっとだった。衣は左肩からわき腹にかけて大きく破れている。


「不覚を取りましたね…久しぶりです、戦場で傷を負わされるのは」


駆け付けたコーネリアス達はモエナを中心とした円陣を組んで彼らの団長を守っている。


「モエナ様、今は脱出することを考えましょう。前方、後方ともに敵が迫っています。どちらを抜くかを選ぼうにも、こう霧が多くては敵の総数が測れません」


「後方です。後方にはあれだけの聖兵を隠しておくことは地形的に不可能です。それに前方に進めばそれだけ教皇庁に近づいてそれこそ飛んで火にいる夏の虫でしょう。後方に活路を開きましょう」


もうモエナは戦えない。騎士団に同行している諸家も奮戦はしているが騎士団が苦戦する聖兵相手では一部の指揮官級を覗いては実力不足が否めなかった。


「前線にいた兄はどうなりましたか?だれかケンヴァリーの姿を見ていませんか?」


「兄上の姿はこの後方にいたのでは確認できません。いま兄上のためにも、後方に脱出路を確保しましょう」


決死の戦いが始まった。前方から押し込まれてきた味方も反転して後方からの脱出を目指して一斉に敵の海に身を投じた。切っても切っても霧の中から敵が現れる。騎士団の面々にかかる精神的負荷尋常ならざるものであった。


切り伏せ、また切り結び、また切り伏せ、遠のく意識の中で戦い抜いた先にようやく敵の最後の一列が見えた。終わる、やっとこれで…


届いたと思ったその時、背中が強烈な熱を帯びた。上手く体に力が入らない。倒れる。熱い。そしてそのあとで来る痛み。コーネリアスは切られていた。味方の壁を食い破って後端まで達した、前方の敵によって。


すでに疲労とストレスで限界に達していたコーネリアスは、その遠のく意識の中で彼らの聖女が連れ去られていくのを目撃していた。


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