3-6.モエナの行方
「お茶、入ったわよ」
シリーンは慣れた手つきで紅茶をみんなの前に置いた。
「それで、まずは聖女様のほうからいこうかしら。あなたも知っていると思うけど、あの戦争のあと彼女は一路北進して教皇庁に反旗を翻したわ。南部諸家とともにね。すでに各地で戦いが勃発しているわ。もっとも、大陸最強と謳われるヴォルデルネ騎士団をそう簡単には止められないでしょうから、大方の予想は聖女様が反乱を成功させて決着、との見方が強まっているわ。それにして、南部での戦争が終わったと思ったら、今度は大陸中心部での戦争がはじまったってわけ。本当に、戦争ばかりでいやになるわね、この世界は…」
すでに戦いが勃発していることにロランは少し驚いた。停戦からわずか1カ月しか経っていないのに、すでに戦いが起こっているということは烈火の如き速さで進軍しているということになる。教皇庁の軍隊はほとんど大陸中心部に固まっているからだ。
「恐らくいま聖女様はロックスフォートの辺りね。文字通り、エレンディラから一直線に北進しているわ」
ロランはこのシリーンの情報に違和感を覚えた。
「まてよ、ロックスフォート?まだロックスフォートなのに戦いが起こっている?教皇庁の軍が出てくるには早すぎないか?」
そのとおりである。大陸中心部に配備されている教皇庁の軍隊と衝突しているならかなりのスピードだと考えたが、まだロックスフォートとなると、大陸中心部までは普通の進軍では2カ月はかかる。それだけ辺境部にモエナと戦う軍があるとなると、これは全くロランの想定からは外れていた。彼の額に一筋の冷や汗が伝い落ちた。
「教皇庁の軍隊だけじゃないみたい。正体はつかめていないけれど、要所要所で衝突が起こっているわ。緒戦ではもちろんヴォルデルネ騎士団が勝利しているけれど、多少の損害は出ているようね」
まずいかもしれない。ロランの鼓動が早くなる。
「モエナのこの後の進路は?情報は入っているか?」
ロランの焦る様子を見てアルヴィンとミハイは不思議がっている。モエナが緒戦で勝利して順調に進軍しているという良い情報ではないのか?と。
「この後の進路はこれまでのことを考えるに…ファストラッシュ城を経由してフルカ川を渡り、イストリア渓谷に入るルートかしら」
「そこだ!イストリア渓谷だ!」
ロランの大声に従者の二人は少し体をびくっとさせた。
「わかってるわ。でも考えてもごらんなさい。あのヴォルデルネ騎士団がなんの策も講じずに渓谷地帯に入ると思う?それにもし挟撃を受けるにしても、両側は数百メートルの切り立った崖よ。誰がそんなところから攻撃できるの?ぶつかるとしたら正面からぶつかるしかないわ。もっとも、正面からぶつかって損するのは一方的に教皇庁の側だと思うけどね」
ロランが危惧しているのは渓谷内で身動きが取れなくなったところを一斉に攻撃されることだった。しかし確かにシリーンの言った通り、断崖絶壁に囲まれた渓谷は逃げ場も無くなるが攻めどころも無くす。杞憂で終われば良いが…ロランの不安は今一つ拭われたとは言えなかった。




