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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第三章 イストリア渓谷の戦い
32/56

3-3.別れ

南部の団結の日、名家の者たちはみな酒に酔い、素晴らしい料理に舌鼓を打った。失って久しい平穏な夜は、にぎやかに、そしてあっという間に更けていった。


夜半を過ぎるとほとんどの者が酔いつぶれて大広間の床に伏して朝を待つのみとなったが、第二騎士隊の面々だけは違っていた。モエナの手前、みなの前で剣を抜くことはなかったが、隊長を失って間もない彼らはとても騒ぐような気分にはなれなかった。


夜が明け朝日が昇ると、みなそれぞれ軍を率いて一時的にそれぞれの家へと帰っていった。進軍は三ヶ月後と決まった。キスタミア要塞にはセントディリッヒの兄妹とロラン達だけが残った。


「ロラン殿、我々の戦に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」


モエナはあの戦いの前のように静かなふるまいに戻っていた。戦の最中に見せた騎士たちを率いるあの猛将の姿はすっかり身を隠してしまっている。


「我々こそお役に立つこともできず申し訳ない。すっかりモエナ殿の食客におさまってしまった」


「何をおっしゃいますか、あなた方は私の客人です。それにアルヴィン殿は我々を大いに助けてくれました。彼の活躍無くしては我々は敗北していたかもしれません。本当に感謝しています。この後のことについてですが、いかがなさるおつもりですか?できれば我々と共に戦っていただけると大変うれしく思うのですが…」


傍に立つイルーカも小さく会釈するとともに是非に、と付け加えた。しかし南部の治安が一時的に安定しているいま、ロランの目的を果たすのには絶好の機会だ。これを逃し、もし南部が教皇庁に蹂躙されるようなことがあればもう二度と南部の遺物を入手する機会は訪れないかもしれない。


それどころかロランのみならず、すべての考古学者からその機会が永久に奪われる可能性すらあるのだ。ロランはモエナ達の申し出を断った。ただし、モエナによるグレゴリオの弾劾が成功すれば世界中の考古学者たちに対する風当たりが弱まるのも事実。戦況に何らかの変化があれば協力するつもりでいた。


ロランたちは南部の遺跡群を調査すべく、キスタミア要塞を後にした。


「ロラン先生、よかったのですか?彼らのもとを離れて。確かに遺跡は大切ですが、この戦争は世界を変えるかもしれない。その渦中に飛び込むチャンスを逃してしまうかもしれませんよ」


アルヴィンは少しだけ名残惜しそうに離れゆくキスタミアを振り返りながら言った。ロラン、アルヴィン、ミハイの三人はこれまでの道中とは違い、贈り物の馬で草原に続く踏み固められた土の道を進んでいた。


「私たちは何もしていないけど、全くとんでもない場面に出くわしたものね」


終戦後間もないこともあり、これから向かう各地には戦争の爪痕が残されているだろう。略奪された町も再建はすすんでいまい。さらには敗残兵が賊に転身したことによる治安の悪化も考えられる。


「アルヴィン、ミハイ、これから向かうのは自由都市アークァーリ、海運と商業で栄える都市だ。その点ではエレンディラに似ているかもしれないな。だが暮らすのは南部の人々だ。彼らは頑固で非常に誇り高い人々だ。決して彼らの誇りを傷つけるようなことはしてはならんぞ」


キスタミアからアークァーリまでは大陸東岸沿いに、南に三ヶ月下ることになる。気候もそれほど荒れることはなく、南部の気温を除けばそれほど過酷な道行ではない。気負うことなく進むことができるだろう。


「ロラン先生は南部人の知り合いがいるのですか?イヴァン卿をはじめとする今回出会った人々は別として」


「あぁ、いるよ。他でもないアークァーリにね。古い友さ」


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