3-2.南部戦争講和会議
要塞内の大食堂で、両陣営が顔を突き合わせた。そこかしこで旧知のもの同士が語り合っているのが見受けられたが、大抵のものはその場の誰かしらと因縁のあるもの同士だった。エール入りのジョッキをゴンゴンと机に叩きつける音が響き渡るとしんと静まり返った。モエナが、静かだがよく通る声で語り始めた。
「今日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。皆さまも既に今日の会議の目的は聞き及んでいるかとは思いますが、改めまして。我々の戦争は現在泥沼化し、死ななくても良い者たちが数多く命を落としています。各家は疲労し、戦いを続ける必要は既に失われているかと我々は考えます。そこで今日は、両陣営間のの争いを恒久的に取りやめると共に、新たに迫る脅威に対して肩を並べるべくお集まりいただきました」
御託はいい、とヤジが飛ぶ。そうだそうだと皆から声が上がる。ノートン家当主のウルド・ノートンが声を張り上げた。
「そもそもロースター家が我々ノートン家に、ありもしない権利を振りかざして一方的に開戦したのがこの戦いのはじまりだ!ロースター家から相応の対価をもらわねばこの戦いが終わる事はない!」
「だまれ小さきノートンのガキめ!貴様らの土地は元来我々ロースター家の土地だ。その土地の交易で稼いだ金で軍を雇ったか?ん?エレンディラがなければ貴様らは吹けば飛ぶような小さな家でしかないだろうが。どうした?何か反論があるか?」
「エレンディラが無ければ?面白いことを言うジジイだ、耄碌したか?エレンディラなら我々の手中に有るぞ。エレンディラで稼いだ金で軍を雇い、その軍でお前の家を潰す。待っていろ、そう遠くないうちに必ず…」
ケンヴァリーが立ち上がり両者を遮った。
「いい加減にしろ、ノートン卿、ロースター卿。今ここで罵り合おうと状況は全く変わらん。ご覧の通り我々は互いにいがみ合っている。今もそうだ。これまでも、殺し合い、奪い合い、互いを、その家族を傷つけあった。しかし今、我々に共通の敵が迫っている。北部の教皇庁だ。奴らは自らの神々のために、我々の古い神々を殺しにやってくる。女子供にも容赦はない。我々がここでいがみ合うのは簡単だ。だがこのままでは、やつらに我々の土地も、神々も、家族すらも、全て奪われてしまう。この蛮行をそのまま見過ごすつもりか?」
先ほどまでの喧騒がまるで嘘であるかのように広間はしんと静まりかえっている。どこからか水の滴る音が聞こえるほどにだ。さらに彼は畳みかける。
「我らは、互いに手を取り合いこれに立ち向かわねばならない。我々の先祖は互いにいがみ合った。それが今の南部を作った。ならば我々がその歴史を変えよう。いや、新しい南部の歴史をつくろうではないか!共に戦おう!我らの信仰と、守るべき全ての者のために!」
広間は一転して歓声につつまれた。勇猛な男たちの、少ないが勇敢な女たちも、皆そろって歓声をあげた。幾多の剣が天井を向けて何度も突き上げられた。皆足を踏み鳴らし、歴史的なこの瞬間に立ち会えることを喜ぶ。この講和会議は吟遊詩人たちによって詩として後世へと語り継がれるだろう。
こうして南部は一つにまとまった。かつて互いに争った名家は多少の禍根を残してはいるものの、同じ方角を向いて兵を並べた。ケンヴァリー・セントディリッヒを盟主とした南部連合軍は総勢二十万弱の兵を擁する。モエナをシンボルに掲げた南部連合は、教皇庁の浄化を事由に、グレゴリオ・ヴァン・イグノスタスの弾劾を宣言した。




