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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第二章 キスタミア要塞攻防戦
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2-13.幕営にて

気配を消して敵の陣に近づいていく。見張りの兵がいるが数は多くない。松明の明かりが届かない暗がりなら見つからずに潜入することも十分に可能だろう。


「あそこだ、いくぞ」


少しずつ、慎重に近づく。幸い、敵陣にはテントが多く張られている。姿を隠すことはできそうだ。敵の見張りに目をやると、あくびをして空を見上げていた。それもそうだろう。これだけの大軍で包囲しているのだ、まさか敵が出てこようとは夢にも思わない。


無論、ここよりさらに北側の包囲軍であれば、撤退するヴォルデルネ騎士団を見逃すまいと気を張っているだろうが。この見張りなら潜り込むのは容易だった。七人はすんなりテントの影に隠れられるところまで進むことができた。手信号で合図をする。巡回の兵三人を瞬く間に無力化。


こちらの気は張り詰めているが敵はすっかり緩んでいる。死体が見つかる前に決着をつけねばならない為、七人の影は先を急いだ。薄い包囲軍の中で指揮官のテントを見つけるのはそう難しくはなかった。一際豪奢な装飾の施されたテントが見える。中から話し声は聞こえない。深夜だ、寝ているのだろう。


騎士の一人が右手の人差し指でテントの方を指差して合図した。二人の騎士が忍び込んで数秒後、微かに呻き声が聞こえ、やがて再びあたりは静寂に包まれた。撤退にはそこまで気を使う必要はない。ここに来るまでの道をそのまま辿ればいい。


それにもはや静かに抜ける必要も無い。七人は全速力で走った。テントの間を一つ、二つ、三つ抜けた所で目の前の光景にハッとした。死体の周りに敵兵が集まっている。その数おおよそ十から十五。七人の騎士と、十五の兵の目がバチっと合った。


まずい、まずい、まずい。アルヴィンの心臓が早鐘を打つ。戦うか、このまま逃げるか、投降は恐らく受け入れられないだろう。戦えばここは敵陣のど真ん中、時間をかければかけるほど、兵が湧いて出るだろう。ならば逃げるしか無いか…逃げるのも、全員が逃げ切るのは無理だろう。しかし全員がここで果てるよりは、少しでも兵力を残した方がいい。


「逃げるぞ!そのまま押し通れ!」


数秒だった。アルヴィンたちは剣を抜き十名余の敵兵の中に飛び込んだ。逃がすまいと敵兵が前に立ちふさがる。もはや殺す必要はない、ただ自分の前の敵を押しのけて通るだけだ。ひとり、またひとりと目の前の敵を押しのける。


時間がとても長く感じた。心臓は相変わらず早鐘を打っている。自分の後ろで仲間が一人倒れるのと同時に、アルヴィンは敵の群れを抜けた。他の仲間も続いてくる。


「走れ!あと少しで砦だ!振り返らずに走れ!」


死に物狂いで走った。敵も追ってくる。仲間は何人ついてきているだろうか。しようと思えばできないことはなかっただろうが、アルヴィンに仲間を気づかう精神的余裕はなかった。馬の蹄が大地を蹴る音が聞こえる。一瞬、ここまでかと考えたが、よく聞くと音は前方から聞こえてくる。それまで闇の中で下を向いていたアルヴィン達が、顔をあげたのとほぼ同時にその声が聞こえてきた。


「皆無事か!そのまま走れ、あとは我々に任せろ!」


アイスマンの部隊だった。アルヴィン達と交差すると、追う敵兵をすれ違いざまに斬り伏せた。こちらの増援を見るや、徒で追う敵兵たちはクモの子を散らすように、やがて幕営へと逃げ帰っていった。アルヴィン達、暗殺部隊はなんとか命を繋ぐこととなった。城門をくぐるとたくさんの兵たちが出迎えた。隊長、モエナもいる。


「無事なようだな。よかった。すまないな、いつも危険な役回りを頼んでしまって」


ロランとミハイもその中にいた。2人の姿を見てようやく死地から戻ってきた実感が湧いた。


「いえいえ、私に頭を使う仕事はできませんから」


時間にしてほんの数十分の間の出来事だったが、アルヴィンには数時間にも感じられる時間だった。


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