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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第二章 キスタミア要塞攻防戦
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2-9.決死

「やぁ!いけ!!走れ、止まるな!!」


白馬の蹴り上げる砂が土煙を朦々と上げる。アルヴィンのはるか後方には数十騎の騎兵が後を追っている。この分なら追いつかれる事はない。キスタミアまではもう少しだ。あの丘を越えれば城壁が見える。


陽は地平線に姿を隠してしまったが、まだ空は名残惜しそうに燃えている。暗くなって自分の姿を見つけてもらえるだろうか。アルヴィンを一縷の不安が襲っていた。とにかく今は進むしかない。丘に差し掛かり勾配がキツくなってきた。ペースも落ちる。


まだ中腹、後を追う騎兵から矢が飛んでくる。距離もあって命中からは程遠い地面に突き刺さった。もう少し、もう少しで頂上だ。頂上から頭を出そうというその瞬間、白馬の左足から鮮血が流れ出した。数打てば当たるが、今起きてしまった。つまづいた衝撃でアルヴィンは頂上を目前に落馬した。


「もうこいつは走れないか…くそ、ここまでか…」


騎兵は次の矢をつがえる。距離もさっきより縮まっている。そして、矢は放たれた。この距離では、当たる。放物線を描き、数本の矢がアルヴィン目掛けて飛ぶ。


(すみません、先生)


アルヴィンが目を瞑った次の瞬間。盾が彼を守った。丘の向こうから数頭の馬が飛び出してきた。瞬く間に彼の周りを固める。馬上には甲冑をつけた騎士。ヴォルデルネの騎士達だった。


「アルヴィン殿、待たせてしてしまい申し訳ない!」


パールバラは飛んでくる矢を剣で払い落とした。


「パールバラ殿か!なぜここに!?」


「アルヴィン殿が狩りに出た方角で敵を発見しましてな、まさかとは思いましたが最悪の事態になるところでした。我々がきたからにはもう大丈夫です」


戦場でこれほど他人を心強いと思った事はない。五人の騎士は向かい来る二十余名の兵に真っ直ぐに剣を向けた。猛烈な勢いで敵兵が迫る。槍の穂先がこちらを、まっすぐに見つめていた。


「来るぞお前ら、必ずアルヴィン殿を守れ!」


応!と答えた騎士達の剣を握る手により一層力が込められ、眼光は鋭さを増していく。そして、彼らの剣先と穂先が交わった。ヴォルデルネの騎士達は圧倒的だった。体を大きく反らせて槍を躱し、その体制のまま相手の首を刎ね飛ばした。


次に迫る敵の槍は首を刎ねた剣を返して払い除け、柄をつかんで投げ飛ばす。その精密な剣技と豪腕っぷりはまさしく大陸最強と謳われるにふさわしいものだった。しかし、5人で20もの敵を相手にするとさすがに手が回らない者が出てくる。


「アルヴィン殿!危ない!!」


落馬した敵兵がのそのそと起き上がり、アルヴィンに襲い掛かった。騎士達も間に合わない。まずい!パールバラの心臓はキュッと縮み上がった。しかしパールバラの予想した最悪のシナリオとは真逆のことが目の前で起こった。


アルヴィンの拳は敵兵の鎧を砕き、その体に深々と突き刺さった。悶絶している敵兵に膝を着かせるより素早く、アルヴィンの次の一手、顎を打ち上げる左が地面すれすれから放たれる。ガゴン!と骨の砕ける音がしてその敵兵は顔から血を流して倒れた。


「これは、驚きました。我々の助けは必要無かったですかな?」


「そんな事はありませんよ。ナイフしか持っていない私一人ではどうやってもこの人数は捌き切れませんよ」


そうこうしているうちに、敵兵はすっかり地面に伏していた。傷ついていない馬を引いて、アルヴィンとパールバラ達はキスタミアへと無事に帰還した。


「アルヴィン、無事か!」


ロランが群衆から飛び出してきた。アルヴィンは知らないが、さっきロランはアルヴィンを心配している余裕はないと豪語していた。しかし心中穏やかで無かったのだろう。よほど心配していたと見える。


「先生、ご心配をおかけして申し訳ありません。パールバラ殿に助けていただきました。彼は命の恩人です」


アルヴィンがパールバラに目をやると、ロランもそれに従い、礼を述べた。


「ロラン殿、アルヴィン殿、客人であるあなた方に危険が及ぶような事態になりこちらとしても大変申し訳ありませんでした。我々の哨戒に穴があったと言わざるを得ません」


アルヴィンを助ける事はできたものの、ヴォルデルネ騎士団は反省の残る結果になったと捉えているようだった。


「パールバラ殿、そんな事はありません。敵が一枚上手だったのです。それに、定常であればあの一帯は哨戒の範囲外。ヴォルデルネ騎士団に非はありませんよ」


ロランはできうる限りのフォローをした。顔では笑顔を取り繕っていたが、パールバラの気持ちが晴れたようにはどうしても見えなかった。


「パールバラ、あなたも無事で何よりです」


モエナが声をかけると群衆が二つに割れ、彼女はこちらに歩み寄った。


「私たちのせいで、アルヴィン殿には大変危険な思いをさせてしまいましたね。ヴォルデルネ騎士団の代表として、ここに謝罪させてください。申し訳ありませんでした」


モエナは深々と頭を下げた。ロランもアルヴィンも、次第に自分たちが悪いような気になってきた。


「ほら、もうこの話はここで終わりだよ!みんな無事だったんだからそれでいいじゃないか」


淀んでいた空気を吹き飛ばしたのは意外にもミハイだった。互いに謝ったところでこの事件は無かったことにはならない。ならばミハイの言う通り、皆無事でよかった。それでいいじゃないか。


「それもそうですね。ミハイさんの言う通り、この話はここでお終いにしましょう」


パンッとモエナが手を叩くと、皆に晴れやかな笑顔が戻ってきた。


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