2-7.修道士達
日も暮れてきたころ、ミハイが夕食を作ったと言うので食卓に向かった。昼ごろからロランは一日中書斎で数々の本を漁っていた。そしてようやく日が落ちてきて、太陽光だけでは読書が厳しくなってきたのでようやく切り上げたところだった。夕食はシチュー。美味いシチューだった。
「ところで、これからどうするの?長い目で見て」
彼女はいろいろ考えていたのだろう。意外と聡明だ。それもそうだろう、もともとは貴族の出身だ。きちんとした教育を受けているはずだった。
「よし、今後についてきちんと話そう。モエナのもとでも話した通り、ここを拠点に南部を探索する。護衛もつけてくれるかもしれない。ここを拠点とすることで多少移動について不自由もあるだろうが、南部の探索についてはあらかた目標を達成できるといえよう。しかしもう一つ問題が出てきた。グレゴリオ・ヴァン・イグノスタスだ。あの男、モエナと同じ教皇庁の人間だが彼女と敵対している。研究を続けるためにも、モエナとは今後も関係を続けていくつもりでいる。それには、あの男は邪魔だ」
アルヴィンとミハイは小さくうなずいた。グレゴリオの行いは、目を背けたくなるような残虐なものばかりだ。奴を始末するのに大義名分はそれで十分と言えよう。
「それはつまり、その彼を殺すということ?」
「それはわからない。俺はまだ奴のことを知らないからな。今俺にわかるのは、確かに奴が敵となりうるということだけだ」
ロランたちの今後の方向が決まった。これからはモエナと共に戦う。自らのために。
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一方そのころモエナは、騎士たちと夕食を共にしていた。彼女は必ず騎士団の面々と食事を共にする。彼らは部下であると同時に、共に戦う仲間であり、友であり、そして家族だ。家族と食卓を共にするのは当然のことである。それは大司教モエナといえど変わりはない。
「モエナ様、彼らとは今後どのように?」
第一騎士隊長のコーネリアスはいまだにロランのことを疑っているようだ。彼は用心深い男だ。それもあり、第一騎士隊長を任されている。彼の指揮は常に冷静沈着。どこか俯瞰的に戦場を見下ろしているような指揮だ。人々は彼の冷静さを称え、アイスマンと呼んだ。貧しい出の彼は性を持たず、いつしか彼の性はアイスマンとなった。コーネリアス・アイスマン、それが今の彼の名だ。
「コーネリアス、気にしすぎですよ。彼らなら大丈夫。誠実な人達です」
「なぜ一度見ただけでわかるのです?我々は彼らのことをほとんど知らない。もう少し様子を見てから判断されたほうがよいかと。それに旧時代の遺跡の保護など…」
「まあまあ、コーネリアス、そう斜に構えることはないじゃないか。僕は彼らの一人、ロランと話したが博識で真面目、それでいて柔軟さもある。いい男じゃないか」
第三騎士隊長、パールバラが口をはさんだ。この男も真面目で交換の持てる男だが、コーネリアスとは逆で、陽気で柔らかさも持ち合わせている。仲間に寄り添う彼の隊の騎士たちは彼を真に慕い、彼の為なら命を賭して戦う。それはコーネリアスへの従順な忠誠心とはまた違った種類の忠誠心だった。
「お前には警戒心が足りない。もっとあらゆる事態を想定して発言しろ」
コーネリアスの言うことももっともだと言える。あらゆる事態を想定し、シミュレーションを重ねれば、未来は見たことのある、知っている事象が訪れることになる。そうすればもう驚くことはない。
「確かに君の言うことも一理あるよね。けど、そんな風に人を疑っていたらキリがないよ?なんなら、僕のことやモエナ様のことも疑っているのかい?」
「貴様、言っていいことと悪いことがあるぞ」
コーネリアスは突き刺すように睨みつけた。パールバラも笑顔のまま視線を切らない。
「二人とも、いい加減になさい。食事の場よ。それに私達は家族、仲違いは許さないわ。あなた達だってお互いの素晴らしいところをたくさん知っているでしょう?互いに尊重し合い、助け合いなさい」
優しい口調だったが、そこには厳格さがにじみ出ていた。ぴしゃり、という言葉が適切だろうか。
「モエナ様、食事の場で失礼いたしました」
二人は同じように恭しく頭を下げた。モエナへの忠誠心は本物だ。モエナのカリスマ性がそうさせるのだろう。彼女の言葉はなぜかいつも説得力を纏う。
「わかれば良いのです。お互い意見の食い違うこともありましょう。ですが、一人として同じ人間はいないのですから、意見の食い違いなど当たり前です。それでも人は一人では生きていけないのです。だから手を取り合う。相手の意見を受け入れる器こそ、生きていくためには必要なのですよ」
二人の騎士は改めて彼ら自身の女王に忠誠を誓ったのだった。




