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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第一章 南へ
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1-2.ロラン研究所

飛行艇は海沿いの小さな建物のそばの平地に降り立っていた。建物はレンガ造り。隣家がぽつぽつと見えているが、それも数軒だ。小さな建物は、外観から見てもおそらく有って10畳ほどの広さしかないだろう。簡素な扉と、小さな窓が一つ。窓枠にはすりガラスがはめられている。

中に入るとベッドと簡単なキッチン、質素なテーブルと椅子が2脚あるのみ。とても研究をしている人間が住んでいるようには見えない。


「さて、アルヴィン君。なぜこんなにも私のもとに来るのに時間がかかったのか、聞かせてもらおうじゃないか」


ロランがアルヴィンの方を見ずに何か作業をしながら言った。


「先生、あの砦に潜入するのは確かに簡単だった。ですがそれは私一人ならの話です。先生が一緒となれば話は別だ。安全に、かつ確実にあそこから逃げる手段が必要だったのです。そこであの飛空艇が必要でした。あの飛空艇を手配するのに時間がかかったのです」


言い終えるか終えないかというところで玄関から一人の女性が自ら鍵を開けて入ってきた。


「あいつが止まっていたから帰ってるんだろうと思ってたよ。全く、あんたがへましたせいでうちの金がいくら飛んでったと思ってるんだい。あの飛空艇だって、いくらしたかあんた知ってんのかい?」


女性はさらにまくしたてる。


「大体あんたはね、なんであんな連中につかまったんだい。アルヴィンがいたからよかったものの、もう少しでほんとに危ないところだったんだろう?研究ばかりしているから、体がなまってるんだよ。少しは自分のみぐらい自分で守るって気概を見せな」


これにはさすがのロランもしゅんとしてしまっている。言い返す言葉もないといった感じだ。


「まあまあクローラさん、先生も無事だったことですし、今回は一件落着ということで…」


アルヴィンが仲介に入ったおかげでクローラ・ヘディンの気も少しは落ち着いたようだった。アルヴィンは続けてロランに石板を保管しに行こうと提案した。


「それもそうだな。確かにここに長いこと置いておくべきではない代物だからな」


ロランもアルヴィンの提案に同意した。のっそりと立ち上がってベッドの横の壁に埋め込まれている小さな本棚の中の一冊に手をかけた。本は手前に少し傾いたかと思うと、コトンと音を立てて元の位置に戻った。とたんにベッドが重そうに動き、壁との間に人1人分ほどの隙間を作った。隙間の下には階段が続いている。


「さぁアルヴィン、行こうか」


2人は慣れた調子で階段を下って行く。一度階段が折り返し、少し平らなスペースに出たところでロランが壁に空いた穴の中に溜まる油に火を灯した。灯された火は体をくねらせながら、穴の奥に向かって進んで行く。やがて大炎となったそれは2人のいるスペースから見て正面の垂直穴を煌々と照らし出した。研究所、と聞いておよそ多くの人が想像するものより、はるかにファンタジックなものだった。


「何度見てもやはりここは胸が震えますね」


アルヴィンが嬉しそうに言った。ロランのいない間、アルヴィンは勝手に研究室に入ることはしなかった。ロランの居場所を突き止め、淡々と奪還する手を考えていたのである。なんと忠実な助手であるか。自分は恵まれた環境で研究ができていると改めて感じる瞬間であった。

「今回の石板、お前はどう思う?」


垂直穴の周りを螺旋状に降りていく階段を歩きながらアルヴィンに問うた。アルヴィンはひとしきり考えたのち、


「いつもの石板とは、確かに少し違う気がしますね。見覚えのない文字も多い」


気づいていたか。アルヴィンならこれを見れば気づくだろうか、とは感じていたが、やはり。ロランは10代の頃から古代文字の研究を始めて、はや30年になる。自分が気づくのは当然だが、10年ほど前に私の元を訪れたアルヴィンにはまだ、と思っていたが、自分の想像以上にアルヴィンは成長していたということだ。ロランは、アルヴィンには見せずに口の端をわずかに持ち上げた。


「さて、保管庫だ、着いたぞ」


ロランが観音開きの戸を奥に押し開けた。部屋の中には油の灯りが引かれており同じように照らされている。大型の本棚のようなものが3列並べられており、中にはたくさんの石板が立てられていた。


「C-1-1に置いてくれ」


アルヴィンはロランに指示された通り、石板に一つの傷もつけないようそっと棚に立てると、用の済んだ2人はそそくさと保管庫を後にした。


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