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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第二章 キスタミア要塞攻防戦
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2-5.疑いと勧誘

「モエナ様、先ほどの通達の、グレゴリオ・ヴァン・イグノスタスとはどのような人物なのでしょうか?肩書きは特級審問官とのことですが…」


特級審問官という肩書き、審問官ならロランも聞き覚えがある。決して馴染み深い存在ではないが、一部の教区では彼ら審問官が徹底した異教徒弾圧を行っていると聞いたことがある。時として拷問による自白の強要も辞さず、嘘の自白をさせられる例も少なくないと言う。


さらには、異教徒であると確定した訳でもないのに、少しでも疑いをかけられると逮捕し、拷問にかけた。拷問も、実態は処刑であった。水に沈めて浮かんできたら有罪、火にかけられて生きていたら有罪等。少なくとも、いい噂は一度も聞いたことがなかった。


「彼は…各地で強引な改宗をしてまわる宣教師です。シャルアスタ教の版図を次々に拡大した功績から、特級審問官という特別な肩書きを与えられました。しかし彼のやり方は、その、強引すぎると私は思うのです。宗教は、人々に苦痛を与えるためのものではありません。救いであり、安らぎであり、拠り所でなければならないのです。私は、彼はその根幹を捻じ曲げているような気がしてならないのです」


なるほど、モエナを少し誤解したところがあったかもしれないとロランは思った。彼女はどこまで行こうとも、神と、そして民に忠実な人間であるのだ。全ては力無き民衆のため、そして心から救いを求める者のために祈る。彼女こそ、宗教の体現、あるべき姿なのだろう。


「なるほど…強制的な改宗、確かにそれは神の名を騙る暴漢にすぎないでしょう。しかしモエナ様、特級審問官の地位を与えられたということは、教皇庁はこのやり方を認めているということでしょうか?」


ロランの言う通りだ。教皇庁は確かに彼の功績を評価している。


「その点に関しては、私も疑問に思っておりました。教皇様はそのようなやり方、決して認めないと考えていたのですが…」


なるほど、教皇庁内でも意見が分かれている可能性があるか。もしくは既に教皇に実権が無いか…。どちらにせよ、教皇庁は既に審問官のやり方を奨励しているというのはまぎれもない事実だ。


「教皇庁の上層部に、彼を推薦する何者かが紛れ込んでいるのでしょうか…モエナ様には心当たりはありそうに無いですね」


「ええ。私の知る限りでは」


アルヴィンとミハイはすっかり置いてきぼりになっていた。教皇庁内のかなり根の深い話をしている2人を前に、そもそも教皇庁とは何かすらおぼろげなアルヴィンとミハイがついていけるわけもなかろう。


「この件、我々の考えているより深い話のようですね。モエナ様、くれぐれもお気をつけください。教皇庁の中にはあなたを引き摺り下ろそうとする者もいるようですから」


モエナをこのキスタミアにぶつけることは、南への強引な布教の他におそらく、戦闘であわよくば命を落とすことも狙っているのではないかとすら考えられる。教皇庁から遠く離れたこの地では、援軍も期待できない。モエナは事実、孤立している状態にあるのだ。


「ロラン殿、ありがとう。今後も是非私に力を貸していただきたいのですが、いかがですか?」


ロランは宗教家ではない。ましてや聖人などでもない。対価なく、見境なく人を助けるほどお人好しではない。人並みに優しい、というだけの話で彼は皆から優しい人間であると言われてきた。そういう点に関していえば、彼は人からの評判を集めやすい能力のようなものがあるのかもしれない。


「もちろん、私の様な俗物の微細な力でよろしければ何なりと。ただし、私は宗教家ではありません。ヴォルデルネ騎士団に入団しろ、ということであれば私はこの話、辞退させていただきます」


すかさずモエナは返す。


「当然、あなた方を我が騎士団に入団させようなどと考えてはおりません。ただ、戦争が終結するまでは我々と行動を共にしていただけないでしょうか?」


雌雄決することなくここまで続いてきた戦争だが、この戦争を続けるだけの体力は諸侯には既にないだろう。つまり、今後長期にわたって戦争の終結が見送られるということは無いだろうとロランは踏んだ。しかしながら、自分の真の目的である研究材料の保護も捨てがたい。そこでロランはこんな提案をした。


「戦争中ヴォルデルネ騎士団と行動を共にするのは了承致しますが、我々には研究材料の保護という本来の目的があります。そこで、我々はここキスタミアを拠点に南部を探索する、そういうことで了承いただけませんか?もちろん、長期的にキスタミアを離れることはありません。それでは行動を共にしているとは言えませんからね」


最大の妥協案だ。ロランにとっては、研究材料もモエナを教皇庁から離反させるのも、どちらも重要事項だ。しかしながら、研究材料は今も刻々と失われているだろう。それを考慮すれば、モエナとの関係は繋いでおきつつ、研究材料も回収する、というのが最も合理的であるとの結論に至った。


「いいでしょう。その条件で締結としましょう」


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