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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第二章 キスタミア要塞攻防戦
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2-1.エレンディラ南門より

高い城壁に囲まれた街が後方に見える。入ってきた北門とは違い、南門の周りは土と岩の目立つ景色。しかし、右手には海が見えている。たくさんの交易船が、北に向かって帆に風を受けているが遥かに見えた。正面には森や多少の起伏以外丘は見えない。吹きっさらしの乾いた大地を生温い風が吹き抜けていた。


「私も南門から南は初めてよ。北門側とは随分景色が変わるんだね」


彼女は物珍しそうに辺りを見回す。と言っても何もないのだが。


「南は乾燥した土地だ。キスタミア地峡に差し掛かれば多少は枯れた草なんかが生えているとは思うんだがね」


学者の男は御者台から荷車を振り返って言った。一行はエレンディラを発つ時に馬と荷車を手に入れていた。


「しかし先生、なんだか日差しが強くないですか?南ってのは、行けば行くほどこんな風に暑いんですか?」


この男はどこにでもいるような格好をしているが、どこか鋭い気と目を持った男だ。


「お前は南は初めてだからな。これからもっと暑くなるぞ」


すでにぐったりしているところに、ロランの追い討ちをかける一言だ。


「なんだいアルヴィン、だらしないじゃないか」


「ミハイこそ、なんでそんなにピンピンしてられるんだ…育ちは西の方じゃねぇのかよ」


ミハイは生まれ育ちこそ西の方だが、エレンディラに来てからが長かったお陰か、ここらの気候にはすでに体が馴染んでいた。乗り心地の悪い荷車はゴトゴトと音を立てながら街道を進んでいく。時折石に乗り上げてガタンと大きく揺れる。


「キスタミアはそう遠くないさ。少しの我慢だ」





夜になった。地平線は見渡す限り土と岩。枯れた寂しい大地をあざ笑うかのように無数の星達が見下ろしている。パチパチと焚き火が弾ける音、明かりは自分たちの焚き火以外どこにも見えない。世界から自分たち以外全て消えてしまったのではないかと錯覚するほど、静かだった。


「はぁ〜、食った食った。ミハイ、お前やっぱり料理上手いんだな」


「当たり前だろ。酒場やってたんだ、料理くらいできなきゃ話にならないよ」


ミハイが作った料理は牛もも肉のビール煮だ。塩胡椒で下ごしらえをした牛もも肉に、薄力粉をはたく。オリーブオイルで薄く切った玉ねぎをきつね色になるまで炒めたら、肉も加えて焼き色をつける。あとは水、ビール、コンソメを適量、具材がビールに浸かってくたくたになるまで煮込んだら完成だ。口に入れた途端、ほろほろと肉の繊維が解けていく。頬が落ちるとはまさにこのこと、アルヴィンは心底感心した。


「人気料理なんだ、牛モモのビール煮は」


ロランと二人だと料理のバリエーションも少ないし、何より美味しくない。ミハイが旅に同行するメリットは、案外これが一番なのかもしれない。


「さて、雲一つない夜は名残惜しいが、明日も暑くなるだろう、私は先に休むことにするよ。2人とも、あまり夜更かしはしないようにな」


「先生、おやすみなさい。明日は私が御者をやりますから」


「あぁ、ありがとう。おやすみ」


ロランは焚き火から少し離れたところの寝袋に入り、少しもぞもぞしていたがすぐに静かになった。


「さて、俺たちも寝るとするか」


「ねぇ、アルヴィン、あんた私と戦った時、あの時本気だった?」


意外なことを聞くなとアルヴィンは思った。


「手を抜いたつもりはねぇよ。ただ、俺の本領は武器を持たせた時発揮されるからな。苦手とは言わねぇが、格闘じゃ本気とは言えないかもな」


たしかに、アルヴィンは短剣、槍、なんでも使いこなす。格闘ではミハイに軍配が上がったが、武器を使った実戦ではどうなるかわからない。


「なるほどね。武器を使ったら私より強いと思ってるんだ?一度私に意識飛ばされてるのにね?」


ミハイの悪戯っぽい笑い。この女、煽りの天才である。


「こいつ、年下のくせに調子に乗りやがって!」


「あはは、その年下に負けたくせにぃ」


「いつかお前、思い知らせてやるからな」


こんな風に誰かと話すのは久しぶりだ。ロラン先生は真面目な人だから。これからしばらく楽しくなりそうだな。とアルヴィンは思っていた。


「何ニヤついてるのよ、気持ち悪いわね」


ふっ、と鼻で笑って一蹴して、彼は寝袋に入った。静かな夜が更けていく。


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