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ロラン・ヘディンと運命の聖女  作者: K.S.
第一章 南へ
13/56

1-13.旅の仲間

「だいたいこんなところかね、ブランデンブルク家の歴史ってのは」


正直、ロランも学問として知る知識ではあったが、当事者から聞くのとではまた迫力がちがった。


「その、あんたの家が滅んだのは、10年前だろ?あんたがいくつの時の話なんだい?」


「女性に歳を聞くのは感心しないね。まぁいいさ、私が17の時だよ。あの時のことは一生忘れられない。あの皇帝は私が必ずかの手で殺す。何があってもね」


ミハイは握る両の手に込める力をより一層強くした。


「やはり、憎んでいるのか?皇帝を」


ミハイの目つきは鋭い。先ほどまでの余裕のある女性といった雰囲気とはまるで別物、殺意すら感じるほどに鋭く、熱く燃える目をしている。


「ここだけの話、私は皇帝のせいでみんなには言えないようなことも経験してきたさ。それに、他の家族だった生きているかどうかさえわからない。貴族落ちってのはどこに行っても冷遇される。たしかに、市民からしたらそうかもしれないな。自分たちから搾取する側が、同じ立場に落ちてきたら虐め倒すさ。自分だってそうするかもしれない。だから私は、生きていくためにはなんでもやるしかなかったんだ。これも全て、皇帝のせいさ。あいつが、あいつさえいなければ…」


目は燃えているが、その目には大粒の涙が溢れていた。キラキラした筋がミハイの頬に跡を残している。当時17の少女が、生き延びるためになんでもやるしかなかった、しかも1人で。その事実に普段は冷静なロランでさえ憤りを覚えた。


「復讐する気は?ブランデンブルク家を再興する気はあるのか?」


アルヴィンは皆が思うことを代弁して言った。確かにみんなそれは思っただろう。これほどの恨みを持って、復讐を考えない方が不自然であるから。


「ない、と言ったら嘘になる。だけど一介の貴族落ちの私に、しかもこんな小娘に一体何ができるのさ…」


ミハイの言葉に先ほどのような力はなかった。何もできない自分への苛立ち、絶望、無力感が全て詰め込まれた一言だった。


「ミハイ、私たちと来ないかね?私たちと旅をすれば復讐のきっかけになるような出会いや出来事もあるかもしれない。といっても、君は今このバーを営んでいるから、今すぐにはここを離れられないかもしれないが、どうかな、考えてみては」


ロランからの申し出は意外だった。ロランはなかなか人を信用することをしない。共に旅をするなんて考えられない。まして初対面なら尚更だ。アルヴィンは心底驚いたろう。


「あんたたちは、いつまでこの街にいるんだい?」


「あと2週間はここにいるつもりだ。短いかな?」


「いや、十分さ。私もいくよ。この店に足繁く通ってくれるみんなには悪いが、うだつの上がらない毎日よりは刺激的だろうからね」


ミハイは白い歯を見せて悪戯っぽく笑う。


「ミハイ姉さん行っちまうのか…」


「じゃあこの店もたたむんだな」


「なんだよ、飲みに来る場所無くなっちまったじゃねぇか」


顔を真っ赤にした大人たちが、それぞれにぼそぼそとつぶやいている。


「みんな、すまない!私はこの人たちと旅に出ることにしたよ。あと2週間でこの店もたたむ。今までありがとう、ぽっと出の私を支えてきてくれて、みんながいたからなんとかこの店はやっていけてたんだ。感謝しているよ」


ミハイの口から改めて店をたたむと聞いて、客たちは本当に寂しそうだ。中には涙を流しているものさえいる。そんななかで、


「おい、俺たちでこの店守っていけねぇかな?」


誰かがこんなことを呟いた。たちまちこのアイデアは客たちに伝播し、いいじゃねぇか、やろうやろう、一気に燃え上がった。


「ミハイ姉さん、俺たちがこの、大衆酒場ミハイ、守っていきますぜ!姉さんがいつかもしこの街に帰ってくることになった時、居場所がなきゃ困るじゃねぇか、そうだろ!お前ら!」


わぁっと、客たちは今日1番の盛り上がりを見せた。ミハイも涙ぐんでいる。


「わかった、あんた達にこの店は任せる!私の店、潰したら許さないかよ!」


こうして、大衆酒場ミハイはエレンディラに存続することとなった。この店が酒場通りでも有数の人気の店に成長していくのはまた別の話。

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