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第38話 言い返しと知り合い聖女


 その後、私達はまた会場の中央あたりに戻っていろんな方と話す。

 また私とシリウス様が少し離れて、それぞれの輪を作って話している。


 多くの人は私達に友好的な態度を取るけど、中には見下すような態度の人もいた。


「ルンドヴァル辺境伯領は隣国の中でも田舎の貴族で、あまり立場がないと聞きますがね」

「魔獣退治しか脳がない兵士達が多いとか。治安が悪いとも聞きますね」


 私にそう問いかけてくる、ニヤニヤした貴族男性が二人。

 ここまであからさまとムッとしてしまう。


 でもあちらも、こちらの失言を狙っているようだから冷静に、作り笑顔で対応する。


「それらはただの噂かと」

「そうですかな? ですが私の調べですと――」

「ほう、私にも教えてほしいですね。サカーキナリ伯爵様」


 私の後ろからシリウス様がそう言って、私の隣に並んだ。

 名前を呼ばれた伯爵様は、目を見開いてたじろいだ。


「な、なぜ私の名をご存じで?」

「ラウリーン王国の伯爵様の名前は知っておりますとも。それとも、それらを把握していないほどの田舎の貴族だと思っておりましたか?」

「っ……」


 サカーキナリ伯爵は少しだけ驚いたような表情を見せるが、すぐに取り繕う。


「ルンドヴァル辺境伯領は、たしかに魔結晶で利益を上げていると聞きますが、それもいつまで続くかわからないでしょう。辺境地帯にすぎない領地で、王国の中心にある我々と張り合えるとは到底思えませんがね」


 その言葉に同調するように、周囲の貴族たちは得意げな顔をした。

 伯爵の挑発を放置するわけにはいかない。


 シリウス様が静かに一歩前に出た。


「サカーキナリ伯爵様。大変興味深いご意見ですね。ですが、その情報はどこから得られたものか、確認させていただけますか?」


 伯爵は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「ほう、それを聞いてどうするのですか?  まさか、自分の領地の現実を知らないわけではないでしょう」


 シリウス様は眉一つ動かさず、冷静に言葉を続けた。


「確かに、私の領地は辺境に位置しています。しかし、それゆえに魔獣への対応能力は屈指のものです。被害を最小限に抑えることで、民は安心して生活を送り、貴族や商人たちとの取引も安定しています。それに対し、伯爵様の領地はどのような強みをお持ちでしょうか?」


 伯爵は顔を引きつらせながらも反論を試みようとしている。


「そ、それはもちろん……我が伯爵領でも兵を……」

「具体的にどれほどの兵士がいらっしゃいますか? 数は? 武器は? しっかり訓練成されていますか?」

「っ……」


 そこまで聞かれたら、何も言えなくなったようだ。


「具体的な例が挙げられないのであれば、私の領地に対する評価もまた推測に過ぎないのではありませんか?  貴族たる者、根拠のない発言は品位を欠く行為です」


 その言葉に、周囲の貴族たちがざわつき始めた。

 シリウス様の冷静な対応に感心する者もいれば、サカ―キナリ伯爵の様子を見て興味深げにしている者もいた。


 彼は嫌われているのだろうか、私にはわからないけど。


 わかるのは、シリウス様が圧倒しているということだ。


「さらに申し上げるならば、魔結晶の利益が途絶えるかどうかは我々が判断すべきことです。それを外野から口出しされる筋合いはないと考えますが」


 伯爵は完全に言葉を失い、周囲の視線を感じて顔を真っ赤にした。


「……その、ですが、辺境伯領が過去に魔獣の被害を受けたという噂もありますがね」


 だがそれでもまだ反論してくる気概はあるようだ。

 それをシリウス様は笑みを浮かべて受け止める。


「もちろん、被害がゼロとは言いません。しかし、それを教訓にし、効率的な防衛策を構築してきました。さらには魔武器の開発もいたしました。噂話を鵜呑みにせず、現実を見ることが必要ではありませんか?」


 伯爵の額に汗が浮かび、言葉を探すように口を開けたり閉じたりしている。


 周囲の貴族たちからも彼への視線は冷たくなり始めていた。


「そ、それでは……魔結晶の利益が減少しているという話については……!」

「それはまったくの誤りです。もし事実と違う情報をお持ちであれば、誤解を招く前にその情報源を正すべきでしょう。伯爵様、ご自身の領地の経済状況と比べてみてはいかがですか?」


 シリウス様の言葉は鋭く、冷静さを保ちながらも相手を圧倒していた。


 伯爵はついに耐えきれなくなったようで……。


「じょ、助言に感謝する……私は、これで失礼する!」


 アタフタとしながら逃げ出した。

 その背中を見送りながら、シリウス様は軽く肩をすくめて私に視線を向けた。


「不快な思いをさせてしまったか?」

「いえ、むしろすっきりしました。ありがとうございます、シリウス様」

「当然のことだよ、リリアナ」

「それに……とてもカッコよかったです」

「っ、それは……頑張った甲斐があったというものだ」


 そう言って笑うシリウス様は、カッコよくて可愛らしかった。



 その後、会場の別の場所で見覚えのある顔を見つけた。


 あの顔は……。


「まあ、リリアナじゃないの」

「ライム、かしら?」

「ええ、ライムよ。あなたの同僚の」


 それは、かつて聖女見習いとして共に修行していたライムだった。

 彼女は華やかな衣装を身にまとい、取り巻きの女性達を連れている。


 聖女だったらもう少し落ち着いた服を着べきだと思うけど……。


 ライムは嫌味たっぷりの笑みを浮かべながら近づいてきた。


「久しぶりね。まさかこんなところで会うなんて思わなかったわ。あなた、たしか『役立たずの落第聖女』だったわよね?」

「っ……」


 隣にいるシリウス様がそう息を呑んだのがわかった。


 周りにいる貴族達も少しざわつき始め、取り巻きたちが笑い声を漏らし、私を値踏みするような視線を向けてきた。


 その嘲笑にも私は動じなかったが、彼女との過去の記憶が蘇る。


 かつて、聖女見習いとして学校に通って厳しい修行の日々を送っていた頃、ライムは常に私の成績を嘲笑し、周囲にも私が落ちこぼれだという噂を流していた。


 私は見習いとして学んでいた期間、一年目は成績優秀だった。

 ライムよりも上で、彼女に妬まれていた記憶がある。


 しかし二年目以降で妹に魔力を奪われてからは、成績がガクンと下がって、落第した。


 その際に、一番喜んでいたのはライムだったかもしれない。


「リリアナ……」

「大丈夫です、シリウス様」


 心配そうに声をかけてきたシリウス様に、安心させるように微笑んだ。


 シリウス様に伝わったようで、頷いてくれた。


 今の私はルンドヴァル辺境伯夫人だ。


 もう役立たずの落第聖女なんて、呼ばせるわけにはいかないわ。



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