第34話 ファースト…
「急に来てすまない、リリアナ。俺はそろそろ自室に戻って……」
私が恥ずかしい勘違いをしてしまったから、シリウス様も気まずくなって出て行こうとしたのだろう。
シリウス様がそう言って立ち上がろうとした瞬間、私は思わず彼の服を掴んでいた。
「あっ……」
もっと話したい、一緒にいたいと思った瞬間に、身体が勝手に動いてしまっていた。
「す、すみません……その、もう少し一緒にいたいと思ったら、引き留めてしまって」
「……そうか。俺ももっと一緒にいたいから、ここにいていいか?」
「は、はい、もちろんです」
なんだか恥ずかしくなって一度俯いてから、視線を上げる。
すると、シリウス様と目が合った。
お互いに座っていて、さっきまで抱き合っていたのでとても距離が近い。
シリウス様も急に目が合ったのに驚いたのか、一瞬だけ目を見開いた。
「リリアナ……」
「シリウス様……」
いつもよりもシリウス様の視線が熱を帯びているような気がして、心臓が高鳴る。
するとシリウス様は私の頬に手を添えた。
大きな手で温かく、優しい。
シリウス様の顔が少し近づいてきた。
彼が何をしようとしているのか気づき、ドキドキしながら……私は目を瞑った。
シリウス様の息遣いが徐々に近づいてきて……柔らかな感触が、唇に触れた。
結婚式では頬にキスしてくれたので、これが私達のファーストキスだった。
唇が触れているだけなのにとてもドキドキして、だけどその甘い幸福感に痺れるようだった。
ゆっくりと唇を離し、目を開ける。
シリウス様がまだ私の目を真っ直ぐと見つめて、今にも二度目をしそうなほど熱が帯びている気がして、まだドキドキが治らない。
「結婚式の時にまだ早いと思って、しなくてよかった」
「えっ?」
「こうして心が通じ合い、愛し合った状態で口づけが出来て、本当に幸せだ」
「っ……私も、とても幸せです。ありがとうございます、シリウス様」
「俺の方こそ、ありがとう」
そう言ってシリウス様はもう一度、瞳を閉じてゆっくりと唇を塞いできた。
私もそれに応えるように、目を閉じてその甘美な時間を味わった。
――どれくらい時間が経ったのか。
日付が変わる鐘の音が部屋に響き、私達はハッとして身体が離れた。
いつからやっていたのかわからないが、ずっと夢中になってしまっていたわ……!
私が恥ずかしくて両手を頬に当ててシリウス様を見ると、彼も口に手を当てて恥ずかしそうにしていた。
「すまない、長居しすぎていた……」
「い、いえ、私もシリウス様を離さなかったのがいけませんし……」
やばい、なんかとても恥ずかしいことを言っている気がする……!
「そ、そろそろ部屋に戻る。また明日」
「は、はい、おやすみなさい、シリウス様」
「おやすみ、リリアナ」
シリウス様が部屋を出て行って、私は冷めたお茶を片付けた。
この屋敷に来て初めて、お茶を残してしまったわ。
私は熱くなった身体を落ち着かせるように、ベッドにダイブして布団に包まる。
しかし頭に思い浮かぶのは、さっきまでの記憶。
うぅ……すごい恥ずかしいし、まだ心臓がうるさい。
いつもならベッドに入ったら数分以内に夢の中へ入れるのに、今日は無理ね……。
だけど……とても心地よかった。
今日は房事じゃなかったけど、あと一ヶ月経ったら房事の日よね。
……あれ? 待って、一ヶ月に一回の房事という決まりは、契約破棄したからなくなった。
つまりいつでも……!
ま、待って、落ち着いて私、もうこれ以上そういうのを考えたら、本当に寝られなくなっちゃうから。
うん、寝よう、もう寝ましょう、おやすみなさい。
…………寝られないわ。
その後、ベッドの中で三十分以上は悶々と過ごした。




