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第32話 幸せ



 あの作戦の前にも言われていた大事な話というのが、契約の話だと聞いて、すぐに聖女についての契約だと思った。


 あそこは私も何度も破っているし、シリウス様も受け入れてくださっていた。

 だからそこだけの契約を変えるという話かと思いきや、あの契約書を全面的に破棄する話だと聞いて驚いた。


 そして……。


「リリアナ……君が好きだ。愛している。どうかあの契約を破棄して、俺にリリアナを愛する権利を、くれないか」


 シリウス様がとても真剣な表情でそう言ったのを聞いて、頭の中が真っ白になった。

 驚きすぎて、言葉が出てこない。


「俺が契約書を作っておきながら、リリアナを愛してしまった。君はとても素晴らしい聖女で、心優しき女性で、美しい女性だったから」

「っ……」

「俺は君が聖女じゃなくて、優秀じゃなくても、リリアナが好きだ。いきなり言われて困惑していると思うが、これが俺の本心だ。どうか、契約を破棄させてほしい」


 シリウス様の言葉に、心臓の音がとても大きくなり、耳まで聞こえてくる。


 顔が赤くなって、泣きそうになってしまう。


 シリウス様が私のことを好きなんて、考えたことなかった。

 だって彼は聖女が嫌いと公言していて、契約でも「互いに愛さないこと」と記していた。


 だから私は、この気持ちを表に出さないように、必死に我慢していた。

 シリウス様を好きになってはいけない、好きになっても辛いだけだから。


 だけど、もうそんな我慢は、しなくてもいいのね。


「シリウス様……私も、愛しております」


 私の言葉に、シリウス様はとても驚いたように目を見開いた。


「私も優しくて、カッコよくて、可愛らしいシリウス様が、好きです」

「え、な……ほ、本当か?」


 信じられない、というような顔をするシリウス様。

 そんな面白い反応をされるとは思わず、私はクスリと笑ってしまう。


「なぜそんな反応を?」

「だって君は……その、俺のことを愛さないと、言っていたではないか」

「っ、それは……」


 確かに、シリウス様にそう言ったことがある。

 私でも少し忘れかけていたことだが、シリウス様は覚えていたとは。


 そういえばその言葉を言った後からしばらく、シリウス様の様子がおかしくなっていた気がする。

 そう思うと、申し訳ないことをしたわ。


 だけど……。


「正直に言いますと、その言葉を言った時にはもうすでに……私は、シリウス様に心惹かれていました」

「っ、それなら、なぜ……」

「あれはシリウス様というよりも、自分が傷つかないために、自分に向けて言っていたように思います」

「どういうことだ?」

「契約であった通り、シリウス様のことを愛してはならないと自分に言い聞かせていました。愛しても自分が傷つくだけで、愛されるわけがないんだから」

「っ、それは……申し訳ない」

「いえ、いいんです。だって……もう私は、我慢してなくても、いいのですよね?」


 私は少し感極まって、涙声になりながら言うと、シリウス様は優しく微笑んでくれた。


「不安な思いをさせて申し訳なかった、リリアナ。俺は君のことが好きで、愛している。どうかあの契約を、破棄させてほしい」

「はい……私も、シリウス様を愛しております」


 私の目から涙が溢れて、視界が滲んでしまう。


「ど、どうした? 大丈夫か?」

「すみません……こんな幸せなことが起こると思わず、涙が……」

「悲しいわけじゃないのか?」

「はい……幸せでも、涙は溢れるのですね……」


 知識では知ってたけど、実際に経験するのは初めて。


 涙を流すのも、何年振りだろうか。

 お母様を亡くして、一人で布団にくるまって泣いたのは覚えている。


 久しぶりの涙がこんなにも温かい涙で、本当に夢のようだ。


 シリウス様が私の頬に手を添えて、涙を軽く拭いてくれた。


「俺も、とても幸せだ。まさかリリアナに好かれているとは、思わなかったから」

「私もです。シリウス様に想われていたなんて、全く気づいていませんでした」

「だが俺はわかりやすいようだ。レイやネリーには気づかれていた」

「えっ、そうだったんですか!?」

「ああ、早く契約破棄のことをリリアナに話せと言われていた」


 もしかしたら、私の気持ちも気づかれていたのかしら?

 あの二人ならありえるかも、なんだか恥ずかしいわ。


「……抱きしめてもいいか、リリアナ」

「えっ……は、はい」


 そんな真っ直ぐと要求されて断れるわけがなく、小さく返事をした。

 二人掛けの椅子に座りながら、シリウス様は私のことをそっと抱きしめた。


 とても優しく大事なものを扱うように、だけど力強く離さないような、温かい抱擁。


 私も彼の背に手を回して、離れないように抱きしめる。


「……愛した女性と抱き合うだけで、ここまで幸せな気持ちになれるものなのだな」

「シリウス様……私も、同じ気持ちです」

「契約で始まった歪な夫婦だったが、これから本物の夫婦になれるよう、リリアナを幸せに出来るように努力する」

「私はもう幸せですよ、シリウス様」

「それならもっと……」

「それよりも、一緒に幸せになってください、シリウス様」

「っ……ああ、約束する。今度は契約なんかじゃなく、君と俺の心に誓う」


 ああ、本当に嬉しくて、幸せで、さらに涙が溢れる。

 だけどこの幸せが溢れないように、私は強くシリウス様を抱きしめ続けた。




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