表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

第29話 作戦、成功


 しばらく歩くと、また瘴気が濃くなっていくのがわかった。

 私だけが正確に瘴気がより濃い方向がわかったので、都度伝えながら進んでいく。


 そしてついに……。


「ここがどうやら、瘴気発生源のようだ」


 目の前の地面が割れている。少しだけ割れていて、足がハマってしまうくらいの割れ目だ。

 その割れ目から、紫を超えて黒い霧が出ているのがわかった。


 他の人には見えないようだが、何か不穏なものが出ているのは肌で感じるのだろう。


 私はシリウス様の背から降りて、地面の割れ目のところに立つ。


「ここで浄化魔法を放てばいいのでしょうか?」

「ああ、そうだ。俺の母上は地面に手を触れながら浄化魔法を何度も放っていた」


 確かに地中から瘴気が出ているようだから、地面に触れた方がやりやすい気がする。

 私もそれを真似して、しゃがんで両手で地面を触れる。


 目を瞑り集中して、浄化魔法を放つ。


「『ハイケアリー』」


 瞬間、辺りの瘴気が消え去った。

 これはさっきから同じ反応だが、瘴気発生源は?


 目を開けて地面の割れ目を数秒ほど眺めたが……もう瘴気が出てくることなかった。


「終わり、ましたか?」

「ああ、終わりのようだ。ありがとう、リリアナ」


 シリウス様の言葉に安心し、私は立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。

 や、やっぱり上級の浄化魔法は、身体への負担が大きいわね。


「す、すみません、シリウス様。帰りもまた背負ってもらうことになりそうです」

「ふっ、それくらいはさせてくれないと、俺が来た意味がないからな」


 シリウス様が笑みを浮かべながら私に手を伸ばしてくれたので、私も微笑み返しながらその手を取って――。


「閣下! 上です!」


 ジル隊長の焦った声が響き、驚いて私は上を向いた。

 そこには大きな鳥の魔獣が、私に向かって襲いかかってきていた。


 突然のことすぎて、私は身体が全く動かない。

 いや、動けたとしても、躱すことは出来ないだろう。


 浄化魔法も放つ暇もない、私に出来ることは、ない。


 自分が何をしても無理だと諦めたが、不思議と怖くなかった。

 こんなにも目の前に大きくて凶暴な魔獣が迫っているのに。


 なぜなら――。


「誰の前で、リリアナを傷つけられると思っているんだ?」


 私の手を掴んで引き寄せてくれたシリウス様が、そう言いながら剣を振るった。

 私は魔獣の攻撃をギリギリで避けられて、逆に鳥の魔獣の翼が血を噴き出し地に落ちた。


 強い力で引き寄せられたから、私は体勢を崩してシリウス様に抱きついてしまった。


 そしてシリウス様は私の腰に手を回し、強く抱きしめてくれる。


「俺の前で、攻撃を仕掛けるとは、舐められたものだ」


 シリウス様を見上げると、とても怒っていられるような険しい顔だった。


「閣下、こいつが……!」

「ああ、奇魔獣だろう」


 片翼を失った鳥の魔獣、体長は三メートルを余裕で超えていて、姿形は鷲のような感じで、猛禽の鋭い目には知性が宿っているような雰囲気がある。


 地に落ちたのだがまだ殺気はとても放っており、見ているだけで身が竦む。

 他の魔獣も今まで見てきたが、格が違うというのが素人の私でもわかる。


「多くの魔獣が俺達の周りを囲んでいた時、奇魔獣らしき姿がなかったからな。広範囲の浄化魔法で消し飛んだ可能性もあったが、やはり遠くから観察していたのだろう」


 シリウス様がそう言いながら、私の腰から手を離して、私を守るように前に出た。


「そして一番厄介な聖女のリリアナを空から狙ったというわけだ」


 シリウス様の剣は、刀身が青白く光っていた。

 確か彼だけが使える魔道具の剣で、冷気を纏わせることが出来るらしい。


 魔獣の片翼を失った身体には、少し氷が纏わりついて身体の動きを阻害しているようだ。


「これで最後だ。全員、魔道具を構えろ!」


 騎士の方々が銃の魔道具を構え、奇魔獣に照準を合わせる。


「放て!」


 瞬間、騎士の方々が引き金を引く前に、奇魔獣が空を飛んだ。


「なっ!? 片翼を失っているはずなのに……!?」

「違う、ジャンプしただけだ!」


 素早く動く奇魔獣に照準を合わせられなかったようで、騎士の方々は何発も外して、周りの木々に当たって倒れるだけだった。


 私もほとんど目で追えず、残像しか見えない。まさか片翼を失ったのにあんなに速いなんて思わなかった。

 だけど……私の目の前には、両翼で不意打ちで飛んできた奇魔獣を剣で切ったシリウス様がいる。


「全員動くな、自分の身を守れ。俺がやる」


 彼が剣を右手に持ち、左手に銃を構えた。

 木々を蹴って私達の周りを跳び回っている奇魔獣。


 シリウス様が目だけで敵を追っていき――銃を、私の方に向けた。

 私は驚いたけど、シリウス様はそのまま引き金を引いた。


 瞬間、私の背後で「ギェェェ!」という鳴き声が聞こえて、振り返るとすぐそこに奇魔獣が迫っていた。


「またリリアナを襲おうとするとは、本当に舐められたものだ」


 私もまさかまた気づかぬうちに命の危機が迫っていたとは思わず、冷や汗をかいた。

 奇魔獣は首を撃たれて風魔法でバッサリと切られていて、地面に伏していた。


 少し動いているので、まだ生きているようだ。

 シリウス様がまた私を背にするように奇魔獣の前に出た。


「これで、終わりだ」


 シリウス様は剣を振りかぶり、奇魔獣の首に向かって斬り抜いた。

 頭と身体が離れた奇魔獣は、もう動くことはなかった。


 そしてついに、討伐作戦は成功した。



 その後、私はやはり魔法を使って山道を歩くことは出来なかったので、シリウス様に背負われて下山した。

 とても恥ずかしかったのだが、どこか嬉しい気持ちもあったのは内緒ね。


 下山してネリーが待っている拠点まで来ると、ネリーが嬉しそうな笑みを浮かべて迎えてくれた。


「お疲れ様です、リリアナ様! 背負われているようですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。ちょっと疲れただけで、怪我なんて全くしてないから」

「それはよかったです。あっ、シリウス様も、お疲れ様です」

「……ああ、ついででも心配をしてくれて嬉しいぞ」

「心配はしてませんでしたよ。シリウス様はお強いですから」

「そうか、まあそれならいいが」


 あっ、それでいいんだ。

 普通は主人のシリウス様の心配をするのが当たり前だと思うけど。


 でもシリウス様は騎士の方々が束でかかっても勝てないくらい強かったし、奇魔獣も一人で倒してしまうくらい強かった。


 ……カッコよかったなぁ。

 はっ! い、いけない、こんなことを考えては。


 確かにすごくカッコよかったし、私のことを守ってもらってすごく感謝してるし、とてもカッコよかったし、横顔が素敵だったけど……!


 決して、決して好きになっちゃいけないんだから!


 うん、大丈夫、私は正気よ。

 シリウス様の背から降りて、私は馬車に乗った。


 しばらくここで休憩をしてから、屋敷に戻るようだ。


 ネリーが服を用意してくれて、汗をかいてた身体などを拭いてくれた。


「ありがとう、ネリー。やっぱり山道を歩くのってすごい大変ね。シリウス様や他の騎士の方々はすごいわ、息もほとんどあがってなかったから」

「リリアナ様もすごいです、丸一日かかるかもと言われていた作戦を、たった数時間で終わらせてしまったんですから」

「それはシリウス様や騎士の方々のお陰よ」

「いえ、同行した騎士の方々が口々にリリアナ様の、女神様の賞賛を言っていますよ」

「それは誇張された表現が多いから……」

「たった一つの大魔法で何十体の魔獣を倒した。何度も魔法をかけないと消えない瘴気発生源を一回の魔法で完璧に消し去った。などとお聞きましたが、どこが誇張されているのでしょうか?」

「えっと……」


 残念ながら、今回は全く誇張されてなかった。

 そういえば前に回復魔法で身体を治した時も、誇張されたような噂は聞かなかった。


 辺境伯の騎士団はしっかり報連相が出来ている組織ということね、すごいわ。


 ……という現実逃避をしている場合じゃないわね。


「やっぱりリリアナ様は素晴らしいお方ですね」

「あ、あまり褒めないで」

「ふふっ、かしこまりました」


 ニコニコと笑って何も言わなくなったネリーだけど、なんだかくすぐったい空気ね。

 着替え終わって馬車の中で休んでいると、シリウス様がノックして乗り込んできた。


「リリアナ、体調はどうだ? 大魔法を連発したから、疲れただろう」

「お気遣いありがとうございます。もう十分回復しましたので、大丈夫です」

「そうか、ではこれから屋敷に戻る。着くのは夜になるだろう」

「はい、わかりました」


 シリウス様が馬車の窓に軽く指を振ると、馬車が動き始めた。

 どうやら今の指示で、屋敷へと出発したようだ。


 あっ、そうだ……。


「シリウス様」

「ん? なんだ」

「私を守っていただき、ありがとうございました」


 私は感謝の気持ちを込めて、微笑みながらお礼を言った。

 シリウス様は私に「傷一つつけさせない」と約束してくれて、それをしっかりと守ってくれた。


 奇魔獣に襲われて危ない場面もあったが、全く傷などついていない。


 それにあんな強く腰を抱き締めて、後ろに庇ってもらって……って、それは思い出さない方が私のためね。


 とにかく、まだお礼を言ってなかったので、言いたかったのだ。


「っ……いや、当然のことだ。礼には及ばない」

「そうですか。ですが守っていただき、とても嬉しかったです。ありがとうございます」

「……ああ」


 シリウス様は照れてしまったのか、私から目線を逸らして馬車の外をずっと眺めている。

 耳が赤いのが見えるので、とても愛らしく思ってしまう。


 いけない、これ以上シリウス様に想いを寄せては……私が悲しくなるだけなんだから。


 そして数時間後、日が沈んだ頃にルンドヴァル辺境伯地に戻ってくることが出来て、今回の作戦は大成功に終わったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を書きました。
『悪役令嬢の取り巻きに転生したけど、推しの断罪イベントなんて絶対に許さない!』
クリックして飛んでお読みください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ