第27話 瘴気発生源へ
「明日は日が昇ってすぐに山を登るように、瘴気発生源へと向かうことになる。明日のために、今のうちに寝ておいてくれ」
「わかりました。私はどこで寝ればいいでしょうか?」
「馬車の座席が倒せる。ここだったら野宿よりかは快適に眠れるはずだ」
そう言われて今座っている座席の背もたれを倒すと、人が一人は余裕で寝れる分のスペースが出来た。
この馬車、すごい快適だし、すごい高そうね……もしかしたら豪華な馬車よりも高いんじゃないかしら?
「ネリーにも馬車で寝てもらうので、支度などは馬車の中で行ってくれ。俺以外に男で入る奴はいないだろう」
「わかりました。何から何まで、ありがとうございます」
「このくらいは当然のことだ。では、また明日」
「はい、おやすみなさい、シリウス様」
「おやすみ、リリアナ」
柔らかい笑みをして馬車を出るシリウス様。
だけどドアが閉められる直前、軍を指揮する者としてのキリッとした顔が見えて、それがまたドキッとしてしまった。
い、いけない、好きになってはダメなのに。
聖女のことは仕方ないとしても、他の契約はしっかり守らないと。
そういえば、帰ったら大事な話があるって言ってたけど、一体なんだろう。
なんかネリーは察している風だったけど、あとで聞いてみようかしら?
いやでも、シリウス様は自分で話したいみたい感じだったし……。
うん、やっぱり帰ってから、しっかりシリウス様から聞こう。
とりあえず、この作戦をしっかり無事に終えないといけないわね。
そう思っているとネリーが馬車に戻ってきて、寝る準備をしてくれた。
もちろんお風呂などはないので、お湯などをもらってきてくれて、身体を拭いてくれた。
「いえ、このくらいしか出来ずにすみません」
「大丈夫よ、むしろすごい助かるわ。ありがとう、ネリー」
「そう言っていただけて光栄です」
おそらくまだ日が沈んでから一時間ほどなので、寝る時間にしては早い。
だけど明日は起きるのも早いので、もう寝ることになった。
「リリアナ様、こちらで眠れますか?」
人が眠れるスペースは確保出来ているが、屋敷でのベッドのようなふかふかした感じはほとんどない。
「もちろん。言ったことなかったけど、私は寝るのが得意なのよ。固い床でもすぐに眠れちゃうわ」
「まあ、そうなのですね」
ネリーは私の言葉が少し誇張したように思ったのか、クスクスと笑った。
だけど私は本当に固い床でも寝れるし、実際に伯爵家でも寝てきた。
屋敷のベッドが極上すぎるけど、私にとってはこの馬車の座席を倒しただけのベッドでも、とても上等なベッドなのだ。
「じゃあおやすみなさい、ネリー」
「はい、おやすみなさい」
私達はそれぞれの座席に寝転がり、眠りについた。
私は言った通りに、すぐに眠気が来て夢に飲み込まれていった――。
翌朝、天気は快晴だけど森は少し霧がかかっている。
朝の山だから仕方ないかもしれない。
「よく眠れたわね」
「……それはよろしゅうございました」
ネリーはそう言ったが、どうやらネリーはそこまで快適に眠れなかったようだ。
私は本当に眠るのが得意だから、余裕だったわね。
「リリアナ、これからすぐに出るが、準備は大丈夫か?」
馬車から降りた私に、シリウス様がそう話しかけてきた。
シリウス様もしっかり眠れたのか、顔色は悪くなさそうだ。
「はい、私はいつでも行けます」
特に準備することもないしね。
「よし、昨日も言った通り、ここからは歩いて向かう。山道なので、足元に気をつけてくれ」
「はい、わかりました」
「……リリアナ様、どうかお気をつけて」
ネリーは瘴気発生源には向かわず、ここに残ることになっている。
馬車や馬などもここに残すので、騎士の方も十数人ほどここで見張りをしているようだ。
「ええ、ネリー。帰ったらとびっきり美味しいお菓子とお茶を頼むわね」
「っ、はい、もちろんです」
暗かったネリーの表情が少しだけ明るくなった。
心配をしてくれるのは嬉しいけど、そんな重苦しく見送られるほどのことではない。
ただ私は聖女の仕事をするだけだから。
「行きましょう、シリウス様」
「ああ……リリアナ、俺の後ろにいろ。絶対に守る」
「はい、よろしくお願いします」
もとからそういう陣営を組んでいたから、言われなくてもそのつもりだったけど。
改めてそう言われるとすごい心強いし、安心出来た。
「では、討伐隊! ここからは瘴気発生源だ! 心してかかれ!」
シリウス様の言葉に、騎士の方々が「はっ!」と一斉に返事をした。
そして、討伐隊は森の奥へと進行した。




