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第25話 シリウスの気持ち



「はぁ……」


 討伐作戦の前日の夜。


 俺は、執務室で深いため息をついてしまった。

 いけない、とても大事な作戦が、明日に控えているというのに。


 明日に向けて、集中して仕事に取り組まないと。


「……はぁ」


 だが俺はまた、気づいたらため息をついていた。

 ダメだ、どれだけ考えないようにしようとしても、考えてしまう。


『私はシリウス様を愛しませんから』


 リリアナに、笑顔でそう言い切られた。

 言われた瞬間、頭を棍棒で殴られたかのような衝撃に襲われた。


 彼女が言っていたのは、契約の内容だ。

 確かに契約書には、『互いに相手を愛さないこと』と記していた。


 あれは俺が大嫌いな聖女が相手だと思ったから、作った契約事項だった。


 聖女なんて大嫌いで、愛したくはない、愛されたくもない。

 だから仕方なく聖女を娶るときに、あの契約事項を書いたのだ。


 それが、まさか……こんなことになるとは。


 おそらく、いや、確実にリリアナは悪気があって言ったわけじゃない。

 むしろ契約内容を守ろうと、律儀にそう宣言してくれたのだ。


 ……俺の表情筋があまり動かない方でよかった。

 動いていたら、酷く傷ついた表情をして、リリアナに伝わるところだった。


「シリウス、大丈夫ですか?」


 執事のレイが、俺のことを心配してそう言ってきた。


「……問題ない」

「問題あるでしょ。私が敬称なしでシリウスを呼んでるのに無視をしているし」


 幼馴染だとしても主人である俺に敬称を外すな、といつもなら言うのだが……それを言う気力もない。


「何かあったのですか? 昨日、リリアナ夫人と騎士団本部に行って帰ってきてから、ずっとその調子ですが」

「……」

「まあどうせ、リリアナ夫人との間に何かあったのでしょう」

「……なぜわかる」

「わかりますよ。最近のシリウスの気分なんて、リリアナ夫人との出来事でしか動かないんですから」


 ……確かにそうかもしれないが。


「リリアナ夫人と何があったのですか?」

「……リリアナに、『シリウス様を愛しません』と言われた」


 自分で口にして、さらに気分が落ち込むのを感じる。

 まさかリリアナに『私はシリウス様を愛しませんから』と言われて、ここまでダメージを受けるとは思わなかった。


 今まで訓練でいろんな傷を負ってきたが、どんな傷よりも深い気がする。


「リリアナ夫人がそんなことを……妙ですね、私の見立てでは……」


 何やらレイがぶつぶつと呟いているが、よく聞こえない。


「シリウス、その前後のお話は?」

「……なぜそんなことを言わないといけないんだ?」

「いいから」

「はぁ……」


 あまり鮮明に思い出したくないから、またため息をついてしまった。

 だがレイにその前後の話などを伝えると、レイは「ああ、そういうことか」と呟いた。


「私はあんな契約書、もう破棄してもいいと思っていますが。もともと私は、あの契約書は反対でしたし」

「ああ、お前はそうだったな」


 俺が聖女嫌いだとしても、あんな契約で結婚するのはダメだ、と言っていた。

 しかしそれを俺が押し切って、リリアナと契約結婚をしたが……レイの言うことを聞いていればよかった。


「だが契約書を破棄するには、お互いの合意が必要だ。リリアナが合意してくれるとは限らんだろう」

「すでにいくつか契約は破ってますよね? 特に聖女のあたりは」

「そうだが……」

「おそらくリリアナ夫人も契約破棄に賛成してくれますよ。なんなら『聖女の事柄についてお互いに破ってしまっているから、契約書を破棄する』と言えば、『互いを愛し合わないこと』と契約も消えますよね」


 確かにレイの言う通りだ。

 しかし……それではリリアナを騙すように、契約書を破棄することになる。


 あの契約自体、こちらが一方的に押し付けたようなもの。

 これ以上、こちらの都合でリリアナを振り回したくはない。


「そんな契約の破棄の仕方はしない。するのであれば、しっかり一から理由を説明し、それに合意してもらうだけだ」

「まあ私が提案してなんですが、それがいいでしょう。だけどシリウスは言えるのですか?」

「何をだ?」

「『好きになってしまったから、あの契約を破棄したい』って」

「……」


 真っ直ぐとそう問いかけられて、一瞬だけ固まってしまう。

 そうか、リリアナに契約破棄のことを伝えるとなると、それを言わないといけないのか。


 というよりも……。


「俺がリリアナのことを好きになったと言った覚えはないが?」

「はっ? 何言ってんの、こいつ」

「おい、一応お前の主人だぞ、俺は」


 もう敬称だけじゃなく、敬語もなくなってしまった。


「失礼しましたー。だけどもう、認めましょうよ。私もネリーも、なんなら使用人や騎士達もわかってますから」


 そんないろんな奴らに知られている、というよりも察せられているのか。


「ん? 待てよ、それならリリアナにも……!」

「いや、リリアナ夫人は気づいてないと思いますよ。気づいていたら、『愛しません』なんて言わないですよ」

「そうか……」


 リリアナにバレてないのは安心した。

 だがそれ以外の者に知られているのなら、もう隠す必要もないか。


「……俺は、リリアナのことが、好きだ」


 初めて、自分の気持ちを口に出した。

 思いの外、すんなりと言葉になってしっくりきた。


 最初は聖女はいらないから、「役立たずの落第聖女」というリリアナを娶った。

 全く期待はせず、今まで来た聖女の中でもまともだったらいい、くらいだった。


 しかし初めて会った時からワガママで身勝手な聖女らしくないと思い、共に食事をするようになってから、彼女が他人のことを思いやれる優しい女性だと知った。


 そして彼女がこの屋敷に来る際に、怪我をした騎士を迷うことなく治したと知り、彼女は俺の母上と同じような素晴らしい聖女だと知った。


 それからも、彼女が訓練所で騎士達の怪我を治す度に彼らに向ける優しい笑みと視線。

 初めて生々しい怪我を見せ続けてしまい体調が悪くなり、だけど誰にも迷惑をかけないようにしようとした強さ。


 それら全てが、リリアナの魅力であり、俺が惚れたところだった。


 騎士達に向ける笑みがどれほど騎士達を魅了しているかわからないところは、俺がしっかり守らないといけないと思ったが。


「はい、そうでしょうね。それを、リリアナ夫人にも伝えるように」

「……ああ、だがまず契約書を破棄してからだ。そうしないと誠意が見せられない」

「そうですか。シリウス、それは先延ばしにしたいと思っているわけじゃないですね?」

「……もちろんだ」

「それならいいのですが」


 受け入れられるかわからない。

 この関係が終わってしまうのではと思って、少し怖いのは確かだ。


 だが決して、先延ばしをしたいというわけじゃない、うむ。


「明日……は討伐作戦の実行日だから、無理か。作戦が終わってからすぐに、リリアナと話そう」

「シリウス、もう一度聞きますが、先延ばしにしたいと思ってるわけじゃ」

「そうじゃない、断じて。明日は危険な討伐作戦、リリアナは今回の作戦の要と言っても過言ではない。そんなリリアナに、無駄な考え事をさせたくはない」

「まあ、確かにその通りですが」


 なぜか納得していないようで、レイは俺に冷たい視線を送ってくる。


「……レイ、契約書破棄の手続きを進めといてくれ。帰ってきてすぐにその話をするから」

「かしこまりました。では今、シリウス様はサインをしましょうか」

「……わかった」


 ようやく冷たい視線が終わったので、俺はため息をついた。



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― 新着の感想 ―
[一言] >討伐作戦を前日に控えた夜。 方言でしょうか?すごく違和感があります。 関西だと討伐の翌日の夜の意味に。 ・討伐作戦を翌日に控えた夜。 ・討伐作戦の前日の夜。 なら理解しやすいんですが。…
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