第24話 契約通り…?
その後、私はシリウス様から今回の討伐の作戦概要を聞いた。
討伐隊を編成するのが明後日で終わるだろうから、二日後に南の山に行って、魔獣の討伐、瘴気の浄化を行う予定のようだ。
いつもなら瘴気が自然に消滅するまで一週間ほど、ずっと魔獣を討伐していないといけないらしい。
だが今回は私がいるから、その期間はグッと短くなると予測される。
「正直、君の浄化魔法がどれほどの効果があるかわからない。だが君の魔力量だと、俺の母上の効果よりも二倍以上の効果があると予測されるから、一日で終わる可能性もある」
「なるほど、浄化魔法は何度もかけて、少しずつ瘴気を消していく感じですね」
「ああ、そうだ。君は浄化魔法に集中してもらい、騎士団が周りの魔獣を討伐して君を守る。絶対にリリアナに怪我などさせない」
「ありがとうございます」
やはりこの作戦の鍵は、私みたいだ。
私が早く瘴気を払えば、魔獣が湧くことも無くなって、騎士団の方々の被害も少なく済むだろう。
「まだ教えてもらってないのですが、騎士団が持っている特別な武器というのは何なのでしょうか?」
ルンドヴァル辺境伯領が開発したもので、魔獣対策にとても貢献しているという武器。
それだけはまだ教えてもらっていなかった。
「ああ、それは魔道具という武器だ。銃のような形をしていて、それに魔力を込めると誰でも魔法が放てるのだ」
「それはすごいですね」
魔力は生まれたての赤ちゃんでも身体の中にあるものだけど、魔法を打てる者はほとんどいない。
魔法を使うのには才能が必要で、どれだけ努力しても届かないものだ。
自分で言うのもなんだけど私は才能があったから、聖女として選ばれた。
「魔道具の開発で一発で魔獣を倒せるようになったから、被害も少なくなったんだ」
「そうなのですね。魔道具に込める魔法はどのようなものなのですか?」
「いろいろとあるが、狙った方向を切り裂く風魔法が多い。魔力消費も少なく、効率的に魔獣を倒せるからな」
「いろいろある……魔道具にはどんな魔法も込められるのですか?」
「ああ、俺がいればな」
「シリウス様がいれば?」
「騎士団が使っている魔道具は、全部俺が作った」
「えっ、そうなのですか?」
「ああ、俺は魔道具を作る才能があったみたいでな。数年前に大量生産し、もうほとんど作ってないがな」
「作れない、というわけではないのですか?」
「ああ、作りすぎたら他の領地などに渡り、悪用される可能性があるからな。魔道具の数は完璧に把握し、管理している」
「なるほど……」
確かにそれだけ破格の性能を持った武器だ、戦争などに使われてもおかしくはない。
だけどこれは、今回作っておいた方がいいものがある。
「シリウス様、今から作って明後日の討伐作戦に間に合いますか?」
「魔道具となる媒体があれば出来る。確か武器庫に魔法をまだ込めていない予備が何個かあると思うが……何をするんだ?」
「それは、聖女の魔法も込められますか?」
「っ! なるほど……」
回復魔法、浄化魔法、どちらでも構わないが、その二つを込められる魔道具が作れたら、とても役立つだろう。
「試したことはない。だがやってみる価値はあるだろう。今から大丈夫か?」
「はい」
「では騎士団の本部にある武器庫へ向かおう」
討伐作戦の実行は明後日、試すなら早い方がいいだろう。
すぐに私とシリウス様は馬車に乗り、騎士団の本部へと向かった。
馬車から出て本部に入ると、多くの騎士と廊下ですれ違う。
シリウス様がここに来ることは多いのか、騎士達は一礼するだけだが、私の姿を見て驚いてる人が多い。
まず武器庫の鍵を取りに行かないといけないので、私は会議室で待たされて、シリウス様が部下の人と一緒に取りに行った。
会議室には何人か騎士の方がいて、お茶を出してくれた。
「こちらをどうぞ、女神様!」
「ありがとうござ……女神様?」
「はい! 昨日の奇跡を、私は目の当たりにしました! ご自身が倒れるまで騎士に尽くしてくれたその献身的な御心を、騎士一同が感動し、忠誠を誓っております!」
お茶を運んでくれた騎士が、目を輝かせてそう言ってくれた。
周りにいる騎士の方々も賛同するように、大きく何度も頷いている。
いや、確かに倒れたけど、あれは私が未熟だっただけなんだけど……。
「そこまでではないですよ。皆さんが無事でよかったです」
「ありがとうございます! それよりも女神様、お身体は大丈夫でしょうか? 昨日は倒れてしまいましたが」
女神という呼び方はやめてほしいのだけれど……。
「はい、もうすっかり元気になりました。ご心配をおかけしました」
「いえ、それならいいのです! 閣下も昨日は女神様が倒れてから、とても慌てていました」
「シリウス様が?」
そうだったのね。だけどあんな夜更けに心配してくださって部屋に来てくれたぐらいだから、倒れてしまった時は本当に心配をさせてしまったのだろう。
「はい、閣下があんなに女性を優しく抱きかかえているのを、初めて見ました」
そりゃ女性を抱きかかえる機会なんて、そうそうないでしょうね。
「あっ、だけど俺は前に閣下が女神様を横抱きしている姿を見たことがありますよ」
……そうだ、前にあったわ。
すっかり忘れていた、というよりも恥ずかしくて思い出していなかっただけね。
「あ、あれも私の身体を心配してくださったのです。シリウス様はお優しいので」
「おそらく女神様にだけですよ。閣下はいつも強くて頼もしいですが、厳しくて怖い方ですから。もちろん尊敬しておりますが」
「ふふっ、そうなのですね」
「はい。女神様は閣下に愛されているようですね」
騎士の方の言葉で、私は少し心が冷めたような気がした。
……私は愛されてない。
だって契約で「お互いに愛さないこと」とあるのだから。
「? どうかしましたか?」
「あっ……いえ、なんでもありません」
私が少し黙ってしまったから、騎士の方が首を傾げていた。
いけない、私とシリウス様の契約結婚は、他の人には知られてはいけない。
しっかり取り繕わないと。
「シリウス様はとてもお優しいので」
「閣下が優しいなんて、想像出来ないですね。だけど女神様のような女性だったら、誰でも優しく接しますよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
伯爵家では本当に酷い扱いを受けていたけどね。
あっ、シリウス様が帰ってきて……。
「閣下が羨ましいですよ。女神様に愛されていて……」
「おい、お前ら」
「あっ!? か、閣下!?」
「誰がここで休憩、雑談をしていいと言ったんだ?」
「も、申し訳ありません!」
シリウス様は厳しい目でその騎士の方を睨む。
騎士の方々は青い顔をしていた。
「シリウス様、彼らは私の話し相手をしてくださったので、悪いのは私です」
「……そうか。お前、次はないぞ。もう行け」
「は、はっ! 承知しました!」
私が庇っているとわかりながらも、不問にしてくれたシリウス様。
やっぱりお優しい。
騎士の方々は慌てて出て行って、二人になった。
「リリアナ、待たせたな」
「いえ、大丈夫です」
「騎士の奴らと何を……」
「はい?」
「……いや、なんでもない。では武器庫へ向かおうか」
シリウス様は何かを誤魔化すようにそう言って、早足に武器庫へと向かう。私もそれについて行った。
武器庫に入ると、本当にいろんな剣や盾、槍などの武器があるが、一番目に引くのは銃のような武器だ。
片手で持てるような小さい武器で、一見すると小さいから弱そうに見える。
「これが魔道具だ。魔力を込めながら引き金を引くと、魔法が発射するようになっている」
「そうなのですね」
「魔力効率はそこまでいいわけじゃないから、普通の騎士だったら連発出来ない。出来ても二発が限界だ」
「なるほど、シリウス様は連発出来るのですか?」
「俺が作ったから他の騎士よりも魔力効率はいいし、魔力も高い。だが五発が限界だな」
それでも他の騎士よりも倍以上の数を撃てるのは、とてもすごい。
「予備は……あった、これだ。では早速作ろうか」
「はい、どうやるのですか?」
「リリアナは回復魔法をこの魔道具に放ってくれ。俺がそれを魔道具に込める」
「わかりました」
私が回復魔法を放つと、シリウス様も何やら魔力を操作して、魔道具に回復魔法を巡回させていた。
「これで終わりだ」
「えっ、もうですか?」
「ああ、これで魔力を込めて引き金を引けば、おそらく回復魔法が放てるだろう」
「素晴らしいですね!」
「試しにやってみるか」
シリウス様はそう言って、懐から短剣を出して、手の平を軽く切った。
「っ! シ、シリウス様、いきなり何を……!」
「試しに傷を治さないといけないだろう?」
「そ、それでも、いきなりやらないでください! ビックリしました……」
「す、すまない、次から気をつける」
多分シリウス様は、これくらいの怪我は問題ない、と思っているのだろう。
だけどシリウス様が怪我をするところを見るのは初めてなので、本当に心臓がキュッと締め付けられた。
「では、撃つぞ」
シリウス様が魔道具を持ち、傷ついた手に向けて引き金を引いた。
瞬間、シリウス様の手が淡く光り、傷が治った。
やった、成功してる!
私がそう思って喜ぼうとしたら、シリウス様がいきなり膝をついた。
「くっ……!」
「シリウス様!? ど、どうかしましたか!?」
「はぁ、はぁ……これは、とても多くの魔力を使うようだ」
「そ、そんなにですか?」
「ああ、俺でも一回が限度だ」
まさか魔道具を作ったシリウス様でも、一回が限度なんて。
その後、他の騎士の方を呼んで、魔道具を試してもらった。
しかし回復魔法は、発動しなかった。
「申し訳ありません。しっかり魔力を込めたのですが」
「いや、仕方ない。おそらく魔力が足りないから、発動しなかったのだろう。隊長のジルを呼んでくれ、あいつは俺の次に魔力量が多い」
そしてジル隊長にも試してもらったが、やはり出来なかった。
「申し訳ありません、閣下」
「ふむ、これはどうやら俺しか発動出来ないようだな」
まさかここまで魔力消費が激しく、魔力効率が悪いとは……もしかして、私の回復魔法のせいかしら?
「すみません、シリウス様。私が未熟だから……」
「いや、おそらくもともと魔力消費が激しい回復魔法で、魔道具に込めたことでさらに魔力効率が悪くなってしまったのだろう。リリアナのせいじゃない」
確かに回復魔法は魔力消費が激しいし、しっかり怪我した箇所を意識しないとさらに魔力効率が悪くなる。
「だけどこれじゃあ、量産は無理ですね」
「もともと量産はする予定はなかったが、そうだな。俺一人分でいいか」
「浄化魔法の魔道具も作りますか?」
「……一応作っておくか。お願いしてもいいか?」
「もちろんです」
その後、予備の魔道具に浄化魔法も込めた。
ジル隊長にまた試しにやってもらったが、やはり発動は出来なかった。
これもおそらくシリウス様しか発動は出来ないのだろう。
「リリアナ、ありがとう。俺一人でも回復と浄化魔法が出来るようになったのは、とても大きなことだ」
「はい、よかったです」
用事は済んだので、私とシリウス様は騎士団本部を出て、また馬車に乗って屋敷に戻る。
馬車の中でシリウス様と話をする。
「明後日の朝、討伐隊を組んで南の山へと向かう。それまでしっかり休んでくれ」
「はい、わかりました」
「……それと、これは今回の討伐のことについて、全く関係ない話なんだが」
「なんでしょう?」
シリウス様は少し聞きづらそうにしているが、なんだろう。
「会議室で、騎士達と話していたのは、なんだったんだ?」
「? なんだった、というと?」
「その、どんな会話をしていたんだ。最後の方だけしか聞こえなかったが、俺が女神に愛されて、みたいな話をしていたようだが……」
なんか聞きたいけど、聞いてもいいのか迷ってる、みたいな反応をするシリウス様。
私はそれが可愛らしいと思いながら答える。
「昨日のことで、騎士の方々が私のことを女神と言っているようで。私には全く合わない名称で、それが少し肩身が狭い気がしました」
「そうか。だがリリアナがやったことは、確かに女神が起こしたかのような奇跡だった。もっと自信を持っていいだろう」
「あ、ありがとうございます」
まさかシリウス様にもそう言われるとは思わず、なんだか恥ずかしい。
「女神が君なのはわかった。だがその、女神が閣下を愛している、みたいなことを話していたと思うんだが……」
「ああ、確かに騎士の方がそう言っていましたね」
馬車の外の景色を見ているようで、チラチラと私の方を見てくるシリウス様。
どうやら私がシリウス様を愛しているのか、気になっているようだ。
誤解を与えないように、しっかり伝えておかないと。
「シリウス様」
「っ、なんだ?」
「安心してください。今度はしっかり契約を守りますから」
「……契約?」
「はい。契約通り、私はシリウス様を愛しませんから」
笑みを作って、私はそう言い切った。
聖女の力が必要ないというのに、私は昨日、それを破って使ってしまった。
それについて後悔はないけど、今度こそしっかり契約を守らないとね。
私の言葉に、シリウス様はとても驚いたように目を見開いた。
「そう、か……」
「はい」
「……」
「……」
えっ、なんでこんなに気まずいんだろう。
なんかさっきまでソワソワしていたシリウス様だけど、今は一周回って落ち着いているように見える。
シリウス様はほとんど表情が変わらないタイプだから、どんなことを考えているのかわからない。
だけどなんか、落ち込んでいるように見えるけど……気のせいかしら?
「あ、あの、明後日も契約を破って聖女の魔法を使うと思うのですが、それは……」
「それは俺が頼んだことだし、全く気にする必要はない。むしろ契約を違反しているのは俺の方だ」
「そ、そうですか」
「ああ」
……なんか本当に気まずい雰囲気が流れてる気がする。
な、何か私がいけないことを言ったかしら?
気まずい雰囲気が霧散することはなく、そのまま屋敷に着いて私とシリウス様は別れた。




