表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/41

第20話 『ハイヒール』



 女の子のお使いを手伝い、綿飴を買ってあげて、家まで送り届けた。

 彼女のお母様はとても恐縮そうにしていたけど、優しそうなお母様だった。


 ……なんだか、私のお母様を思い出してしまったわね。

 私のお母様も、あんな風に私のことを心配してくれて、抱きしめてくれた。


 そのことを思い出させてくれたあの女の子やお母様には、感謝しかない。

 そうしてちょっとしたハプニングがあったものの、城下街への視察は無事に終わった。


 私としては綿飴という食べ物があって、あんなに面白くて美味しいものだと知れたのがよかった。


 私の好きな食べ物のランキングが久々に動いた気がしたわ。


「とても楽しかったですね、シリウス様」

「ああ、そうだな」

「領民の方々もとてもいい人ばかりで、このルンドヴァル辺境伯領がもっと好きになりました」

「そうか、それならよかった。おそらく領民達も、君の人となりを見て、君のことが好きになっただろう」

「えっ、そうですか? 特に何もやってませんが」

「ははっ、そうか。まあ意識してないなら、それでもいいと思う」


 またシリウス様が少し声を上げて笑った。

 不意打ちで可愛らしくもシリウス様らしいカッコいい笑みをするので、ドキッとしてしまう。


 私とシリウス様は馬車に乗り、屋敷に戻ってきた。


 本当にとても楽しかったので、また行きたい。


「また城下街に行きたいですね、シリウス様」

「ああ、そうだな。今度は……二人きりで」

「えっ?」


 シリウス様の言葉に、また胸がときめいてしまった。

 今日は視察ということで、レイやネリー、騎士の方々が後ろに控えていた。


 だから二人きりではなかったけど……。


「は、はい。次は、二人で行きましょう」

「ああ、それだとさらに楽しいだろう」


 シリウス様にまさかそんなことを言われるとは思わず、顔に熱が集まる。


 い、いけない、これ以上シリウス様に心を乱されたら。

 好きになっちゃいけないんだから、うん。


 いつも通り馬車を出る時に手を差し伸べてくれて、私は彼の手を取って降りる。

 最初は私も彼もぎこちなかった気がするけど、今では慣れたものね。


 ……ドキドキするのは変わらないけど。


「なんか騒がしいな」


 私が馬車から降りると、シリウス様がどこか遠くの方を見ながらそう言った。


「えっ……本当ですね」


 私も耳を澄ますと、確かにシリウス様が見ている方向から、騒いでいる声が聞こえる。

 どうしたんだろう?


 私とシリウス様がそちらの方を向かうと、何やら騎士の方々が慌てているのが見えた。


「何があった?」

「閣下! 調査隊のメンバーが帰ってきたのですが、酷い怪我をしていて……!」

「っ! 医務室で手当てはしたのか?」

「もちろんしましたが、何人かはもう助からないと……」


 騎士の方が暗い顔でそう言って、悲しそうに俯いてしまった。

 シリウス様も眉を顰めて、悔しそうに顔を歪めた。


「私が治します」


 考えるより先に、私は言葉を発していた。


「っ、リリアナ……」

「奥様、治せるのですか!?」

「わかりません。ですがやってみないことには、騎士の方々が亡くなってしまいます。案内をしてください」


 私が騎士の方にそう言って動こうとすると、シリウス様が私の手首を掴んだ。

 いつもの優しい握り方ではなく、少し荒々しい掴み方で驚く。


「シリウス様……?」

「っ、すまない、取り乱した……リリアナ、聖女の力を、貸してくれるか?」

「はい、もちろんです」


 そのために私は、騎士団の訓練所で回復魔法を練習していたんだから。


 騎士の方に案内され、医務室に来た。

 全身を痛々しい包帯に包まれている人もいるが、それ以上に危ない人もいる。


 手足が欠損している人も多く、そこから出血が止まらないようで、包帯も赤黒く染まっていた。

 私が見てきた中で怪我の中で最も痛々しく、見ているだけで気分が悪くなってしまう。


 だけど、私が気分を悪くしてどうするの。


 この人達を救えるのは、私しかいない。


「この方からやっていきます!」


 私は右足がなく、お腹にも傷を負っているのか、血だらけで今にも死にそうな人の側に立って手をかざす。

 通常の回復魔法じゃ足りない、私にも負担が激しいけど、ここは上級魔法の――。


「『ハイヒール』」


 それを唱えた瞬間、私の中の魔力がグッと持っていかれたのを感じた。

 ヒールも本来なら魔力消費が激しいが、それの数倍。


 私は魔力量には自信があったが、これを何度もやるとマズイかもしれない。

 だけどその甲斐もあって、魔法を受けた人はとても強い光を纏い、光が晴れると……。


「足が、治ってる……!?」


 騎士の方が思わずといった感じで、そう呟いた。

 何事もなかったかのように右足はあり、お腹の傷も塞がっていた。


 私もそこまでの効果があるとは思わなかったので驚いたが、驚いている暇もない。


「次の方を!」


 私が騎士の方に声をかけると、同室にいる怪我人を見せてもらった。


「はぁ、はぁ……!」


 その方は意識が朦朧としており、右目が潰れていて、胸の辺りに深い傷跡があった。

 今にも意識を失い死んでしまいそうだ。


「『ハイヒール』」


 私が唱えると、彼の身体は光り、傷がみるみるうちに治っていく。


「えっ……目が見えるし、痛くない……?」

「大丈夫ですか?」

「お、奥様!? 奥様が治してくださったのですね!? ありがとうございます! 命の恩人です!」

「それはよかったです。では次の方を!」


 同室にはもう重傷者はいないようで、隣の部屋に移動する。

 その際、歩く時にフラついてしまった。


 やっぱり『ハイヒール』はすごい魔力を持ってかれてしまう。

 一気に持ってかれたから、身体への負担もすごい。


 だけど治せるのは私だけなんだから、頑張らないと……!


 その後、いくつかの部屋を回って、六人の重傷者を治した。

 欠損した身体も治せるとのことで、騎士の方々からは「女神様……!」と呼ばれていたのが聞こえたけど、訂正する余裕もなく。


 とりあえず重傷者、今にも死にそうな騎士の方々は助けられた。

 まだ目が覚めてない人もいるが、おそらく大丈夫だろう。


「はぁ……」


 最後の一人を助けた後、私は医務室のソファに座っていた。

 騎士の方がお茶を入れてきてくれるというので、それを待っていた。


 なんだかすごい尊敬の目というか、神様を見るような目で見られていてすごい居心地が悪いけど、善意を無下には出来ない。


「リリアナ、大丈夫か?」

「シリウス様……はい、少し、魔力を使いすぎたみたいです」

「だろうな。あんなに高度な大魔法を連発したのだ。少し休め」

「はい、ありがとうございます」


 確かに無理をした感はあるけど、今回は無理をしないといけない場面だった。

 そうしないと、人の命が失ってしまっていたから。


 ただ……想像以上に、身体に負担が……。


「――リアナ?」


 あれ、なんだか……シリウス様の声が、遠いような……。


 シリウス様の焦っているお顔が見えて、そして――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を書きました。
『悪役令嬢の取り巻きに転生したけど、推しの断罪イベントなんて絶対に許さない!』
クリックして飛んでお読みください!
― 新着の感想 ―
[気になる点] >私が騎士の方に声をかけると、同室にいる怪我人を見してもらった。 見せてもらった。ではないでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ