表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/41

第12話 聖女が嫌いな理由


 俺は、聖女が嫌いだ、大嫌いだ。


 もちろん生まれた時から嫌いだったわけじゃない。

 むしろ俺は、十二歳くらいまでは聖女は大好きだった。


 なぜなら、俺の母が聖女だったからだ。

 母上は優しく、笑顔が絶えない、とても素晴らしい人だった。


 俺は小さい頃から母上が好きだったし、尊敬していた。


 しかし俺の父上は、母上が嫌いだったようだ。

 なぜならルンドヴァル辺境伯は、代々聖女を嫁に迎えないといけない。


 父上は他に恋人がいたらしいが、家の決まりで聖女と結婚しなければならなかった。


 それで嫁いできたのが、俺の母上だ。


 父上は母上を蔑ろにし、城下街にいる、結婚する前からの愛人と逢瀬ばかり繰り返していた。


 小さい頃の俺ですらすぐにわかったくらいだ、母上も承知の上だっただろう。


 母上はほとんど無理やり嫁がされたのに、その仕打ちだ。

 普通の女性だったら辛くて仕事や人付き合いなど出来るものじゃない。


 しかし母上は聖女としての仕事もしっかりやって、領民からも尊敬されていた。

 優しくて強い、そんな母上が大好きだった。


 だが、俺が十二歳の頃、母上が死んだ。


 聖女として、魔獣との戦いで最前線に立ち、魔獣に殺された。

 仕事が忙しくて体調が悪かったのもあった。


 兵士達を回復魔法で癒し、魔獣を浄化魔法で倒して……その繰り返しで、母上は衰弱したところを、魔獣に殺された。


 とても悲しかった。

 俺は聖女としての母上も好きだったが……ただ優しい母上が好きだったのに。


 死んでほしく、なかった。

 聖女だから、死んだ。


 だから俺は、聖女が嫌いになった。


 俺は悲しみに暮れていたのに、父上は。


『チッ、聖女が死ぬなよ……また新しい聖女を呼ばなければ』


 母上の葬式の時に、隣でそんなことを呟いたのが聞こえた。


 初めて、人に殺意を覚えた瞬間だった。

 父上は、母上のことを聖女として、道具としてしか扱ってなかった。


 その後、父上は本当にすぐに新たな聖女を国に要請した。


 あの時は本当に怒りが湧いたが、今考えると、辺境伯としては妥当な判断であった。

 辺境伯領のために、聖女を呼ぶのはとても正しい手段だ。


 しかしその後に来た聖女が、最悪だった。


『なんで聖女である私がこんな田舎に派遣されないといけないのよ』


 聖女はとても特別な存在で、聖女の才能が芽生えた女性は国から手厚く保護される。

 大事に大事に育てられて、特別扱いをされるからこそ、聖女は性格が悪い人が多いらしい。


 ほとんどの聖女が王都から出ず、王族や貴族のために、大金を払って「治してください」と縋る人々のために、聖女は力を使う。


 だから聖女は人の上に立つことに慣れて、人のために聖女の力を使うことはない。


『はぁ!? なんで私が金も払ってない平民のために力を使わないといけないのよ。魔獣にやられたんだか知らないけど、私の崇高な力は有限なの!』


 聖女の彼女を守るために魔獣と戦った騎士に言い放った言葉だ。


 俺の母上とは、全く違う。

 俺の母上は城下街に行けば、道で転んで膝を擦りむいた子供にも、聖女の力を使う。


『大丈夫? もう痛くないでしょ?』


 そんな優しい言葉と笑みと共に。

 そして聖女は人を癒す回復魔法と、魔獣を害する浄化魔法を学ぶが、魔獣と遭遇したこともない聖女がほとんどだ。


『あ、あんな化け物と、戦えるわけないでしょ!? こんな危険な田舎町、さっさと帰りたいわ!』


 本当に、クズだった。

 聖女として、何の仕事もせずにその女は帰っていった。


 父上は他の聖女を要請した。


 順番に五人の聖女が来た。しかし全員が、ほとんど同じようなクズみたいな聖女だった。


 しかもその中に一人、まだ子供の俺に取り入ろうとしてくる聖女がいた。

 それが気味が悪くて、さらに俺の聖女嫌いを悪化させた。


 母上のような聖女は、本当に稀だった。

 母上はその力も性格も、まさに聖女のようだった。


 だが聖女だったせいで、死んだ。


 そして他の聖女は、クズばっかり。


 だから俺は、聖女が大嫌いになった。



 俺が十五歳になった頃、俺の魔法の力が覚醒した。

 どうやら俺には魔法の才能があったようで、特に魔道具を作る才能があった。


 もともとこの辺境伯領には、武器の魔道具を使うことが多かった。


 剣に炎を纏わせたり、矢に氷の属性を乗せたりする魔道具だ。

 しかし魔道具は作るのが難しく、作れる人がほとんどいない。


 だから限られたものしかなかったが、俺が魔道具を量産出来るようになり、魔獣との戦い方は一変した。


 特に風魔法を放つ魔道具、魔獣に当たれば一発でその身体を引き裂くので、遠距離での攻撃で魔獣を殺すことが可能になった。


 父上はそれを喜び、俺に魔道具を大量に作らせた。

 とても大変で魔力を使いすぎて気を失うこともあったが、俺はやり通した。


 俺も、魔道具で魔獣を倒せるようになることは、賛成だった。


 これ以上、聖女を呼ばなくてもいいと思ったから。


 俺が二十歳の頃、父上は死んだ。

 魔道具を信用しきって、魔獣討伐に向かった時に、不意打ちで魔獣に攻撃されて魔道具を落としたようだ。


 普通の騎士なら魔道具がなくても最低限、魔獣と戦えるのだが、父上は魔道具が出来てから全く身体を鍛えていなかった。


 魔道具が手元になくなり、簡単に殺されたらしい。


 俺はその場にいなかったが、父上が死んだと聞いても特に感情は動かなかった。

 俺の中で父上は、その程度の存在だった。


 むしろ面倒だったのは、父上の愛人だ。

 自分がルンドヴァル辺境伯の遺産を貰うべきだ、とワケのわからないことを言い出したのだ。


 愛人だから表向きの父上との関係は全くないのに、頭の悪い女だった。


 適当にそいつの処理をしてから、俺は二十歳で父上の跡を継いで辺境伯となった。


 父上は親としてはクズだったが、辺境伯としては優秀だった。

 領地の経営は父上の残した仕事をやっていけば、すぐに同じように出来た。


 もちろん、執事のレイに助けてもらいながらだが。


 魔道具を量産してから、街への被害がほとんどなくなった。

 しかし領民からは聖女がいないと不安だ、という声が多かった。


 その声を無視することが出来ず、仕方なく聖女を俺は娶ることにした。


 聖女の情報を集めている時に入ってきたのが、「役立たずの落第聖女」という存在だった。


 聖女の力がほとんど使えないから落第したらしいが、一応聖女だ。

 こちらとしては聖女の力がなくてもやっていけるのを証明するために、聖女の力が使えない方がよかった。


 それに……聖女の力が使えるとしても、どうせクズみたいな聖女しか来ないだろう。そんな思いもあった。


 母上のような聖女は一人もいない、特に落第した聖女なんてどれだけ性格が破綻していてもおかしくはない。


 不安はあったが、俺は「役立たずの落第聖女」、リリアナを妻に迎えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を書きました。
『悪役令嬢の取り巻きに転生したけど、推しの断罪イベントなんて絶対に許さない!』
クリックして飛んでお読みください!
― 新着の感想 ―
[一言] こりゃ嫌いにもなりますわな(笑)
[一言] 国も貴族も物のように金で聖女の身柄を買って聖女の力を消費するなら、聖女もそれに対抗して力を温存し自己の安全を図るのは人として当たり前で、別にクズでも最悪でもないのでは。 こう言っちゃなんです…
[一言] ん。面白いです。続き楽しみにしてますね。 応援してます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ