些細な事から大きくなっていく誤解と、涙が出ちゃうような恋の話
空に浮かぶ丸い月を見ながら、聖奈は手元のガラス瓶をゆらゆらと傾けた。
両手に余る位の瓶の中で、カラリと軽い音が転がる。
地球で見慣れた黄色い満月とは違う暗いオレンジ色。
その月が浮かぶ日に、瓶の中の飴を1つ食べるのはもはや聖奈の習慣になっていた。
ーけれど。
残り少なくなった飴。
飴が少なくなる前には、いつも必ず、絶対に安全に次の瓶が届けられていたはずなのに、今回に限っては未だに届かない。
聖奈は眼差しを月から瓶へと落とし、もう一度手の中で揺らした。
カラリ。
残り3粒になった飴。
今日これをなめてしまえば残りは2粒。
飴が一目で数えれてしまうようになった頃から浮かんできた焦燥は、今にも腹の中を突き破って聖奈自身を食い尽くす様な恐怖になっていた。
裏切ったのか、見捨てられたのか…
それとも、何か事情があってー
脳裏に浮かんでくる、豊かな黒い髭を蓄えたあの屈強な男が飴を片手に朗らかに笑いながら聖奈を訪ねてくる姿。
不安を振り払うように、何か些細な事情で届けられないせいなのかもしれないと、すがりつくような気持ちでそう答えを決めて、聖奈は飴を一粒口に含んだ。
甘くて、ほんのりとフルーツを感じる慣れた固い感触。
私は脳味噌を切り替えるべきだ。
いつからこんな弱くなったのか。
届かないのだ。
取りに行こう。