君との旅立ち
たとえば僕が君を好きにならなかったら。
たとえば僕が魔法使いにならなかったら。
たとえば僕が男じゃなかったら。
たとえば僕が愛逢月の生まれじゃなかったら。
こんな魔法を、使わなかったのかもしれない。
こんな過ちを、犯さなかったのかもしれない。
こんな後悔を、思わなかったのかもしれない。
たとえ死が二人を別つとも。
僕は、何度でも繰り返そう。
幾度の魔法を繰り返し。
幾度の過ちを繰り返し。
幾度の後悔を繰り返し。
たった一つのハッピーエンドを手繰り寄せるまで。
僕はきっと、何度でも。
愛する君に口づける。
僕は薬が欲しかった。
愛しいルーチェの病気を治すための薬が欲しかった。
彼女の病気は医者も匙を投げ出したほどの珍しい病気で、薬の原料になるといわれていた『カルクス』という植物が絶滅してしまったために、不治の病と言われているような病気だった。
ルーチェはいつも明るくて、笑顔がお日様のように温かくて、村のいじめっ子から僕を守ってくれるくらい強い女の子だった。
そんな女の子が、病気になって、治らないかもしれないって言われて、両親にすら笑って「大丈夫だよ」って言っていたのに、一人でこっそり泣いていたのを見た時、僕が何とかしてあげたいと思ったんだ。
泣き虫だった僕だけど、ルーチェのために幼いながらも必死でない伝手を細々とたどって、ようやくその植物があるという噂を見つけたのが十六の歳。
その頃には既に、同い年のルーチェは二十の歳を数えられないと言われるようになっていた。
時間がないことを悟っていた僕は、一生に一代の大告白をかましてみせた。
『ルーチェ、僕は君と添い遂げたい。君の笑顔が見ていたい。病気はきっと僕が治してみせるから。だから君の三年間を僕にください。君の命を僕に預けてください。きっと君が死ぬ前に、僕は君にカルクスの花を捧げてプロポーズをしてみせるから』
普通ならこんなプロポーズにもならないプロポーズ、受けてはもらえないと思う。
ましてや余命宣告をされている相手なら。
でもルーチェは、僕のこの先行きの見えない告白を、泣き笑いで受け取ってくれたんだ。
病気のことがあるとはいえ、発作さえ起きなければ普通の人のように過ごせるルーチェ。
僕はルーチェと一緒に、カルクスの花を探す旅に出ることにした。
周りの皆は口々に無謀だと、無駄だと、せめて静かに余生をと僕らに言ったけれど、そんな言葉は全部、彼女には似つかわしくないとどうして分からないのかが不思議だった。
そんな周囲の反対を押しきって僕がルーチェを連れ出せたのは、ひとえにルーチェが僕の知るルーチェだったからこそ。
彼女はやっぱり狭いところに閉じ籠ることを良しとはせず、その生の輝きを最後まで瞬かせるかのように、僕と一緒に生まれ育った村を出る決意をしてくれた。
そして村を出て、決して楽ばかりではなかった道のりの果てにたどり着いたのが、この街。
噂通り、僕らはこの街でカルクスの花の種を見つけた。
だけど見つけた種はたったの一つだけ。
その上、普通に土に植えるだけでは芽がでないという魔法の種ときた。
栽培しようにも、失敗したらおしまい。
そしてその種を育てることは、当時の僕には不可能で。
その事を指摘され、あわやその種すら譲ってもらえないのではと一時は途方にくれた。
でも、そんな僕らに手を差しのべてくれたのが、その種を持っていた魔法使いであり、今の僕の魔法の師匠だった。
師匠は街外れの森に住んでいるから、僕らはこの街に小さな家を借りた。
このつかの間の生活を、ずっとこの先も、未来もきっと、続けられるように。
そしてようやく。
師匠に師事し、魔法使いになった僕は、ルーチェに未来を捧げるためのその一歩を、ようやく踏み出せる。




