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戸惑いと災難

1


「...こいつがあの?」

 巡る。

「ゼノ。貴方だけが私たちの希望」

 巡る。巡る。

「...お前を殺したい。何度そう思ったことか」

 目眩く記憶、覚えのない殺意。

「俺のことはもう忘れろ、忘れてくれ」

 取り返しがつかない。課した重みは払えず、永遠に燻り続けて胸に溜まる。


 あぁ、くそ。気付くのが遅すぎた。泥に塗れて空には届かない。お前らに報えない。


._._._._._._._._._._.



 鈍い痛みと酩酊感に飲まれる最悪の目覚めであった。ゼノは巡る寒気に身を捩らせながら目を覚ました。


「あー、アッタマいてぇ、クソッタレ」


 目覚めの中では最悪の部類である。ゼノは今まで幾多の戦場を駆け抜けてきた。どの土地でもそれなりに眠るよう身体は順応しており、酒自体も比較的強い方ではある。しかし、今回のような国同士の大規模な戦場に駆り出された場合、戦場で酒にありつけること自体があまり多くない。そのため久々の酒は酔いやすく感じるし、ついつい許容量を超えて飲んでしまうものだ。


(あんまり飲んでたつもりはなかったんだがなぁ。昨日の記憶が全くねぇよ)


 見知らぬ空を眺めながら重い身体を起こし、辺りを見渡した。やけに角ばった灰色の石でできた建物のようで、拠点にしていた王都ではないようだ。そしてゼノは自分の姿を改めて確認した瞬間、警戒度を上げることにした。


「何だこの服...」


  ゼノは身につけていた服も護身用の簡易装備も一切なく、裸同然の格好だった。身に纏っていたものは青いサラサラした服のみ、やたら寒いと思い身を捩ると、どうも下着すらも穿いていない。


 酔った勢いで風俗に行った様でもなく、殴られた後も拳に殴った痛みも無いため、喧嘩で負けてこの有様というわけでもなさそうだ。ただ酔っていたとはいえ「宵越し」の名を背負っている以上、喧嘩で負けたとなっては兵団のみんなに示しがつかない。とりあえず安堵の声が漏れる。


「ひでぇ様だが、団長に殺される始末じゃなさそうだな。......まぁ...どっちにしろ面倒事には変わりねぇか...?」


 あまりにも不可解なまでな事態にゼノの頭は疑問符でいっぱいであった。しかし、いつまでも思考を留めるのは周囲に敵がいるかもしれないこの状況下では悪手でしかない。

 とりあえず今ある場所がどこなのか把握しなければとゼノは周囲を改めて見渡そうと腰を上げたところで、


「オイオイオイにいちゃんよォ。いつまでそこで寝てんだぁ?」


 と、不機嫌そうな男に話かけられた。ゼノは目だけを動かしてその声の主を見て、ゼノは確信した。ここは自分がいた王都ではないと。


 不機嫌そうな男の服装も顔つきもゼノの住む文化圏のものとは違うことに気づいた。服はパリッとしたシャツに獣ではない紡糸の上着を羽織っており、かなり仕立てが良く、縫い目が見えない。顔つきは平たく、ゼノと同じ人種ではないようだった。

 最初ゼノは男をとりあえず殴り、いくらか情報を抜き取るつもりであったが、この服装からかなりの良家の人間だと踏み、争い事は話が拗れると考えて穏便に話し合うことにした。



._._._._._._._.



「ずみまぜ....。もうゆるじでぐだざい」


 土台無理な話だったのだ。ゼノは荒くれ者も恐れる傭兵団に所属して日夜戦場、暗殺に駆けて生きてきたのだ。胸ぐらを掴まれた瞬間、条件反射で拳が出ていた。話し合いたかったのだが先に手を出したのはそちらだ。胸中言い訳を作りながら、ゼノは男に話す余裕を残してとっちめていた。


 男はスズキキョウイチという名前らしく、近くの風俗で客引きとして勤めているらしい。いつも通り客引きをしようと外に出たら路地でイビキをかく自分を見て、適当に追っ払おうとしたらしい。

 ゼノは男の名前が王国どころか、周辺国でさえも聞いたことのない羅列だったため、困惑しつつも自身の現状についていくつか仮説を建てた。


 自分は何かしらの理由で王国とはかけ離れた国に飛ばされた、あるいは移動させられ忘却魔法で記憶を消された。というものだ。

 しかしその仮説には穴が幾つもある。金品強奪ならばわざわざ自分にこんな服を着せる意味が分からい。他に考えられる理由として自分個人への恨みだが、自分程の人間に忘却魔法をかけられる人間が思い当たらなく、いたとしてもそんな魔法をかける暇があったら殺すことなど容易であるはずだ。


....忘却魔法を相手にかける際には相手の頭に手を置き、凡そ十分ほど魔力を流し続けないとならず、その間被術者には耐え難いまでの激痛が襲う。接近戦を得手とするゼノにそんな間近で手を翳し続けるなど麻痺魔法も同時に使いこなす程の魔術師でなければ不可能である。


(一応1人だけ心当たりはあるがな....。あいつがそんな真似をする理由が浮かばん)


 と先程まで飲み交わしていた赤髪の同期の顔がチラつき、あり得ないと首を降り考えを打ち切った。


 おいお前とふん縛っていたスズキを見やりゼノは尋ねた。


「今はゴウド・グンゼル3世の聖誕から何年だ」


 ゼノはせめて年を跨ぐほど記憶が消されていないことを祈り、年代を確かめた。


「え....と。ご、う?....お兄さん海外の人ですよね?」


 要領を得ない答えにイラつきもう一度痛い目にあってもらおうかと拳を握ったところで、慌てたスズキから予期せぬ答えが出てきた。


「今何年かってことっすか!?それなら2056年です!!」


 2056年というゼノが知る年の数え方と違う答え、そして国の名前を聞いたゼノは愕然とすることになった。


「ここは狗奴帝国ですよぉ!!」


 それがクナ帝国という聞いたこともない国の名前だったからだ。

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