緑の瞳と勇気と感謝
私は生まれて初めてこんなに怖いと感じた。
森にはアンリくんが言っていた危険なお化けが、大きな鬼がいた。
怖くて、怖くて、逃げようとしても足が動かない。
座りこむ私を守るために、アンリくんはたった1人で鬼に立ち向かった。
「風よ」と叫ぶとアンリくんの周りには風がビュウっと吹く。
「アンリくんって魔法使いだったんだ.....」
お父さんは私に5才になったら魔力が安定して魔法が使えるようになるって言ってたから、アンリくんは私より年上みたい。
何度も「風よ」と叫んでも、何回風が吹こうとも、鬼はびくともしない。
それどころか、跳び回るアンリくんに目が追いついていってるみたいだった。
このままじゃアンリくんの体力は持たないし、私の足は言うことを聞かない。
何か.....何か.....
私たち、死んじゃうのかな.....
そう思った瞬間、大きな大きな風が私に吹き込む。
アンリくんの青い目が爛々と輝き、だんだん緑色に染まっていく。
これはまるで、
「絵本に出てきた風の王子様みたい.....」
私はお母さんが寝る前に読んでくれた話を思い出した。
「精霊使いの王子様、目がキラキラと緑色。」
そう、それはまるで今のアンリくんのようなーー
「風よ!!」
アンリくんが叫ぶ。
周りには風が吹き荒れて、紡がれ、刃の様になっていた。
そしてそれは、鬼の腕を切った。
ーーーーー
「ウガァァァァァァァアアアアアアア!!!!」
オーガは腕を切られて激昴している。
鋭い目つきで僕を睨み、今まで以上の速さで左腕を薙ぎ払い、大きな木をへし折る。
スピードだけではなく威力も段違いだ。
今みたいな攻撃を避けながらさっきの魔法、名付けて【風刃】を打つのは時間がかかりそうだ。
ひたすら避けて魔力を込めよう。
集中だ。
オーガは学習したのか、薙ぎ払うだけでなく掴みに来たり、殴りに来たりと、色々と当てようと模索している様だ。
僕は何とかそれを見切る。
イメージを確かにするんだ、より鋭く、より強く!
よし!
僕は右腕をオーガに構えて叫ぶ。
「風っ!?」
いつの間にか僕の体は、オーガの拳に打ち付けられていた。
僕は慌てて受け身をとる。
高校の柔道の授業に初めて感謝した。
「油断した.....」
身体強化と受け身のお陰で重症では無いが、前に出していた右腕の骨は確実に折れている。
不味い。
何か、何か隙を作れればもう一度.....
「ちくしょう.....」
コツン、と音がした。
音の方を見ると、アリスが僕の風で落ちた木の枝をオーガに向かって投げていた。
「ダメだ!アリス!!」
オーガはアリスの方に跳びかかる。
一瞬でイメージを作るんだ。
あの巨体を切り裂く程の強い風を!
「うぉぉぉぉ!!!!風刃っ!!!!」
届け!
届け!!
届け!!!
「きゃあ!」
鬼は、アリスの1歩手前で倒れ込んだ。
やった。
できたんだ。
僕はやれたんだ。
「アリス!大丈夫!?」
直ぐにアリスの元に駆け寄る。
「うっ、うっ.....」
アリスは大粒の涙を浮かべて僕に抱き着いてきた。
アリスから嗚咽が聞こえる。
無理もない、小さい子が化け物に襲われたんだ。
「アリス、ありがとう。君がいなきゃ僕は今頃大怪我さ」
僕はアリスの背中を擦る。
何か泣き止ませる方法は.....
そうだ。
「アリス、花は好き?」
「うん.....」
「じゃあ、これをあげよう」
僕はアリスと会った時に渡しそびれた花をポケットから取り出して手に取らせる。
アリスの髪と同じピンクのガーベラ。
アリスは、涙を浮かべながらも、精一杯の笑顔で笑った。
「ありがとう.....!」
戦闘描写って難しいですね.....
たった1400文字程度で死にかけです