第93話 囚われの四ツ子
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アヴァルート王国のアドルシーク領の国境沿いに続く森の中、五台の荷馬車が薄暗い森を走り抜ける。
荷馬車の周りには、馬に乗った傭兵が約20名護衛をしていた。護送にしてはかなりの大掛かりである。これは某国での非合法な商品を極秘に輸送していることに関係があった。
この世界では、こういったアヴァルート王国では犯罪でも、違う国では商売となる。
その日の明け方、荷馬車の商隊は野営地から出発前の準備をしていた。
繁みから数名の薄汚れた男達が出てきて、
「おい!貴様ら、荷物を置いていくか、死ぬか、どちらかを選べ。」
「クックックッ……」「オラオラ、ど~すんだ? あぁ?」
約30人はいるだろう盗賊に荷馬車の商隊は囲まれていた。
しかし、歴戦の傭兵達があっさり退ける。
外れに潜んでいた別動隊が盗賊を背後から蹂躙し、と同時に本隊が襲い掛かったためだ。
この盗賊は、最初の選択を誤った。
問答をするのではなく、商隊に奇襲で攻撃すればまだ勝機があったかもしれない。
苦し紛れに逃げる盗賊が、粉が入った袋を荷馬車に投げ、それが降り掛かる。
傭兵は、毒を掛けられたかと警戒したが、馬も特に何の症状もあらわさなかったので、問題ないと出発の準備を始めた。
盗賊を殺し、あるいは追い払ってしばらくしたのち、遠くから魔物の気配がしてきた。
「どうやら、魔獣に見つかったようだ… 。」
と傭兵団の団長は判断した。
逃走する荷馬車に数十匹の魔獣が押し寄せ、時間が経つごとに増え始める。傭兵が、最初は凌いでいたが、だんだんと追い立てられてきた
団長が魔獣の群れの行動を観察すると、一台の荷馬車を集中的に襲っているように見える。先ほど盗賊に粉を掛けられた荷馬車だ、ここに至り、魔獣を呼び寄せる粉だったのではと思いつく。
荷車の主に、傭兵団の団長が声を掛け、
「ベリウードさん、その荷馬車に魔獣をおびき寄せる秘薬が掛かっている。放棄しないと魔獣に襲われみんな全滅するぞ!そいつを捨てよう」
魔獣を引き寄せる粉が振り掛かった荷馬車を囮に、他の荷馬車を逃がすことを提案する。
「なっ、馬鹿を言うな‼この中の商品は、この中で、いや、今までの中で一番の目玉の商品だ!捨てられるわけがないだろう!お前たちに高い金を払っているんだ‼何とかしろ!」
荷車の主は、高価な品が入っている荷馬車の放棄に難色を示す。
「しかし、魔獣はどんどん増えているんだ‼俺達だけじゃあ限界がある!途中で俺たちが抜けてもいいなら、魔獣たちと仲良くやってくれ」
「くっ、何とか捨てずにできんのか?」
「その荷物は後で取りにくればいいだろう?運がよかったら生き残る。他の荷物をまずは死守だ。」
荷車の主奴隷商は、渋々承諾、粉が掛かった一台の荷馬車から、御者が逃げ出す。
荷馬車は、御者がいないまま別方向に走り抜ける。
その荷馬車の中には、数十名の少年少女の奴隷がいた。
差し掛かった丘から、荷馬車は奴隷達を乗せたまま、坂をくだる
魔獣の3分の2が追いかけて行く、残り3分の1が奴隷商と護衛本隊を追いかけ、離れて行く、主を失った荷馬車が、坂の途中の大きな木にぶつかり横倒しになった。
魔獣が横倒しの荷車を取り囲む。
魔獣はどんどん増える。
荷車の中の奴隷はぶつかった拍子にもうろうとするが、魔獣の叫び声で意識が覚醒する!
「はっ!もうダメ!」「イ、イヤァ‼」「ママ!」「・・・っ‼」
「「「「だ、誰か、助けて…。」」」」
バキッ‼‼
「こっちを見ろ‼」
ズガガガガッ‼!
◇◇◇
時は数刻遡る
リースは、王都の隣り街バルジルドからアドルシークに向かっていた。
実家の領主邸に戻る前に、奴隷商が指し示していた地域を2日ほど空から巡回捜索していた。
アドルシークより東に広がる魔の森を抜けて違法密輸団が移動するという事だった。
リースは崖上に座り、魔の森をぼんやり見ていた。
ちょうど朝の鍛錬が終わって一休みしている時だった。
「ファディ、なんかあのあたりに魔獣が集まってきているな?」
「ピィー(魔獣が150頭はいる、興奮状態だぞ。)」
神鳥は、リースの上空100メートルから、念話で報告する。
「ガウゥ(なんか辛い匂いだよ!ヒリヒリするよ。)」
神狼は、魔獣のいる方向に顔を上げ、匂いを嗅ぐ
「ああ、恐らく魔物興奮剤か、誘引剤を使ったんだろう。そこの商隊が襲われてる」
創造と破壊を司る聖魔が思い当たる可能性を進言する。
「なっ、誰がそんなものを!行くぞ!テン、ローガ!
このままじゃ、魔獣の大量発生を起こして人が死ぬ‼神豹!は王都の領主邸に置いてきたか……、ファディは周りを警戒してて!」
神猿は、モモと胸を叩きドラミングとハカを足した様な高揚を促す踊りをする。
普段は身長50㎝のリス猿に近いが、移動の際は少し大きくなり、闘いの際は2メートルくらいの大きさになる。
一人と二匹は、崖から飛び降り、木とわずかな足場をクッションに進んでいく。
「なんだ?二手に分かれるのか?」
「リース様、魔獣に追われている荷馬車の中には人間の子供達が乗っています」
光と闇を司る聖魔が告げる。
「なに?どういうことだ?」
リースは怪訝な顔で訝しむ。
「多分囮に使ったんだろ?」
空中で付いてきた聖魔が、商隊行った考えを示す。
「何だと‼ …くっ‼助けないと‼」
大量の魔獣が荷馬車に襲い掛かる。
「ほとんどの魔獣がこっちに向かっているな?」
別れた荷馬車には魔獣は少ない。囮に興奮剤が撒かれているという事だと理解した。
「荷馬車が止まった!まずい‼」
((((だ、誰か、助けて…。))))
「…っ‼この声はっ⁈」
リースの頭に助けを呼ぶ叫びが響く‼
神猿と一緒に、木々を飛びながら移動し、神狼は地を蹴って神速で移動する。神鳥は、周囲を警戒していた。
リースとローガは、数瞬のうちに、荷馬車と魔獣の間に立つ。
テンは荷馬車の上に陣取り取り付いていた魔獣を排除する。
「こっちを見ろ‼」
魔獣の上へ飛び越しながら、魔獣に対し威嚇する。全ての魔獣が、リースを見たとき、リースは、アースニードルの魔法を放つ‼
20メートル四方の魔獣の足元から、土魔法の針が魔獣の視覚の範囲外から腹部を貫く。そのエリアの内側の魔獣で逃れられたものはいない。
残りの魔獣と一瞬対峙していたが、ローガが蹂躙していく。
全ての魔獣を退治したとき、ローガが咆哮した!
荷馬車に水魔法のミストレインで匂いを洗い流し、火魔法と風魔法の合成魔法ドライウェーブで、荷馬車を乾かす。荷馬車には、大量の貴金属とリースと同じくらいの年頃の四つ子の奴隷がいた。その子たちはガリガリにやせ細り小汚く、虚な目で怯えていた。
「もう大丈夫、安心して。魔獣も怖い大人達もいないから。」
ビクッと震える四つ子に、リースが優しく介抱する。
「君たちは、どこから来たの?」
「「「「・・・・。」」」」
「僕は、リーフィス・セファイティン、君たちの名前は?」
「…あの、あの人たちが戻ってくる…。」
ガタガタと震える四ツ子
リースは、鑑定魔法により、この子たちが違法奴隷と言うこと、連れて来ていた奴隷商が密輸で有ることは知っていた。
「君たちのほかに連れてこられた子達はいた?」
「……」「……エルフ」
「……獣人の子達や」「……他の子達もいた。」
「ピ~ピュオォ(リース、さっきの他の荷馬車が戻って来た)」
リースは笑顔で四つ子に語り掛ける。
「大丈夫。僕が君たちを護るから。安心して、まずは荷物を片付けないとね。」
リースは静かに怒っていた。奴隷商の荷物を全て奪い、魔獣も全て収納し、馬たちを解き放った。そして四つ子の奴隷を近くの大きな木の窪みに匿った。
「お前たち、この子達を守っていてくれるかい?」
「ピー(まかせろ)」「バウ(おう)」「キキ(だいじょうぶだぜ)」
違法奴隷商達を見逃す事は出来無いと心に秘めた。
◇◇◇
しばらくすると奴隷商隊がやって来た。俺は茂みに隠れしばらく様子を見る事にした。
情報収集の為耳を澄ます。
どうやら荷馬車の様子がおかしいと護衛する男たちも気付いたようだ。
一見、荷馬車は大破して、周りは血だらけだが、馬も魔獣も奴隷もその遺体が無い。そして目当ての貴金属もない。
全て隠蔽済みだからな…。
「おい!どういうことだ!あの奴隷や荷物はどこに消えたんだ?」
でっぷり肥った男が喚き散らす。どうやらあいつが奴隷商人か?
「誰かが、この短時間で持ち去ったんだろう!まだ近くにいる!さがせっ‼」
護衛の男たちに指示を出しているあいつがリーダーか…。
戻って来た奴隷商隊の荷馬車には、多くの奴隷達が乗っていた。
ここで奴隷商達を皆殺しは簡単だが、違法奴隷商の後釜が出てくるだけ、元を正すには組織の情報を集める必要があった。
だが、そろそろいいだろう。
奴隷商隊の荷馬車の車輪に楔を打ち動けなくしてから、俺は姿を現す。
「 こんにちは、どうされました?」
「な、何者だ⁉ガキが、なぜこんなところに居る?」
俺はあらかじめ鑑定魔法で奴隷商の情報を読み取っていた。
奴隷商のベリウードが誰何する。
「人に名を聞く時は、まず自分から名乗らないといけないですよ?」
「なんだ?ガキ?貴様に名乗る必要はない。」
傭兵の頭らしき男が横から割り込み、奴隷商の前に立つ
「ですよねー?僕も同じです。」
こいつは、やはり傭兵達の頭だけはある。奴隷商との間に立って子供の俺に対しても警戒するとは、要人警護の基本は抑えているな…。
「お前か?中にあった奴隷と荷物を奪ったのは?」
ふーん。子供相手でも一応探りは入れるのか…。
「さあ?」
「貴様ァ!こんな森の奥で、ガキの1人や2人いなくなっても誰もわからないんだぜ!」
周りにいたガラの悪い傭兵が、会話に割り込む。
「ところで、奴隷商護衛隊のザザーリンさん?」
俺はその言は無視して、本題に入る。
「なぜ俺の名前を、お前…鑑定持ちか⁉」
「どうでしょうか …。耳がいいだけかもしれないですよ?それでこの荷馬車を囮に提案してのは、誰ですか?」
「 ふん、死んで行くお前に答える必要はないな。」
やはり傭兵の頭のこいつの発案か…。奴隷商はガメツそうだしな。
「そうですか?わかりました。では、最初から素直に話しておけば良かったと後悔しますよ?」
「ハッハッハ、ほう、どうやってだ?」
傭兵頭の瞳が怪しく光る
「……では、死にたくない方は武器を置いて、座って下さい。死にたい方は…向かって来てください。」
俺は周りを見渡し、一応警告を入れる。
「フフフ、ハッハッハッハッハ!やれっ‼」
「やれやれ、全員ですか?……強制契約魔法」
警告はしたからな…
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四ツ子編です。




