第9話 聖魔
リースに記憶がよみがえり、聖女が神託を賜った日から数日が経った
◇◇◇
そのころリーフィスは、頭の中に響く声に耳を傾けていた。
「わが名はフィーヴァ、創造と破壊を司る聖魔。
貴殿のおかげで、永き眠りから目覚めることが出来た。まだ完全覚醒に至ってはないが、貴殿に感謝の礼をさせて頂こう。貴殿の生ある限り、貴殿に仕えよう。」
「そうなんだ? いいよー、別に、ちょっと出てた石板?を触っただけだし、それより、完全覚醒ってなに?」
「うむ、幾星霜の眠りから覚めたばかりの為、本来のチカラは戻っていない。また、実体は、貴殿の魔力を元にして、構築しつつある。しばらくは、念話で語らいかけることとなる。完全覚醒とは、実体を伴い我がチカラの権能を貴殿に託し発揮できる状態だな。」
「へ~、なるほどね。それにしても頭の中で聞こえる?って不思議な感じだな?
仕えなくていいからさ?僕の友達になって話を聞かせてよ?」
「 …友達とは…? 貴殿の頭の中を解析しているが、肉体年齢に比べ、精神年齢が異常に高い、理解不能だ。説明を 」
「頭の中を解析って、解析できるのかよっ‼ って、まあいいや、君は僕の記憶は見れるのかい?」
「断片的なものだが、こちらの世界ではない記憶があるな。さまよい人か…。」
「ん?ああ、そうだね、以前の僕は死んでいる。新しく生を受けて、ここにいるんだ。」
「なるほど、精神体がこちらの肉体に憑依したという事だな。精神体は高次元に存在する。時間も場所もこの世界の理の範囲外となる。 …理解した。して、友達とは…。 」
「友達っていうのは、対等に意見を述べ合い、喧嘩したり、助け合ったり、笑いあったりするんだけど…、」
「友達と仕えるのとは、貴殿の中ではどう違うのだ?」
「仕えるっていうのはさー、イメージだけど、僕からの指示を聞いたり、いう事を聞くだけで …まあ、奴隷に近いかな。」
「む。そうなのか…? わかった…。友達とやらを 善処しよう。」
「うん、よろしくね!
僕はリーフィス・セファイティン。アドルシーク辺境伯イズンの4男さ、リースでいいよ。」
「わかった。リースよ。よろしく頼む。」
「うん、こちらこそ!家からまだ出れないから、友達がいなかったんだよね⁉」
「…それと言い忘れたが、あと三柱の聖魔が貴殿のそばで控えている。
まだ、覚醒してないが、そのうち目覚めるだろう!」
「 ... えっ? そなの? 」
「…ところで、創造と破壊っていう恐ろしい二つ名が有るけど、何ができるの?」
「それはだな…。 」
こうして、夜が更けていくのであった…。
「えっ? フィーヴァって、すごいじゃん⁉」
◇◇◇
翌日、
「よっ…。 ふー、ふー、 ふっ! ふぅ~。 」
「リース、何をしているのだ?」
「フィーヴァ、おはよう!これはね~、 朝の日課でストレッチしているんだ!」
「ストレッチ?ああ、身体の柔軟をしているのか?
我が眠りに入り、幾星霜の時を経て、現代ではそのように、魔力を鍛えているのかと思ったぞ?」
「 …魔力を鍛えるって?」
「人種・亜人種の身体に宿る力には、いくつか種類があって、只人が宿る力の種類は魔力が多いな? その魔力の容量の大きさが人により異なるが、小さな時から鍛えると容積が増える。まあ、早く始めればよいという事でもないが、鍛え方が悪いと増えない。」
「 …。 」
「…どうした?」
「 …魔力って、魔法があるの?この世界?」
「ああ、当たり前だろ? …知らなかったのか?」
そういえば、昨日も魔力がどうとか言っていたな?いろんなことが起こって、既読スルーしちゃったよ。うん。
「こちらの絵本の中の創作かと…。」{そのチカラと聖魔の物語…}
「聞いておったが、実話だぞ…。年月が経ちすぎて脚色はされているが…」
「え、本当だったの⁉ 子供の夢を壊さないためのウソかと思った。」
「魔法は実在する。証拠に今、魔力の拡張術を施しているではないか?体の中に感じる魔力を循環させているだろう…。それが、魔力を鍛えているという事だ。もう少し効率を上げるためには、一度深く瞑想して、もっと体内に目を向けると良い…。」
「へ~、そうなの?ちょっとやってみるよ。違ったら、また教えて!」
「ああ、わかった。
それからリースよ、我の実体が顕現しても、直接のチカラは、大したものでは無い。
リースを介して、施した方が、全力が出せる。だがそれも、リースの魔力の範囲内でだがな。だから、今は魔力の量を増やす事に重きをおけ。」
「うん、わかった!」
リースは、座禅を組み瞑想をしてみた。前世でいうと、禅寺で座禅を組む感じ
「 …こんな感じ? 」
「まあ、そうだな。体内に目を向け、慣れてきたら自然と感じるようになる。そしたら次は外部に目を向けろ。自然と調和する感じだ。外部にも魔力の素となる魔素がある。それを感じるようにするんだ。」
「え~、なんか難しいな?」
「すぐにできなくても良い、リースはまだ子供なんだろう?そのうち出来る。それよりもそろそろ時間だぞ。」
「あ、プリーツが来る…。」
トテトテ… 小さな足音が聞こえる
コンコン・・・ガチャ!
「おはようございます!リース様‼起きてください‼」
「おはよう!プリーツ。今日もヨロシクね!」
「あれ~⁈また起きてらっしゃったんですか?
も~、起こしたかったのにっ‼それにしても、ご病気以来ずっと早起きになられましたね。」
「そ、そかな?それより着替え手伝ってよ‼」
リースはもうすぐ5歳とはいえ、まだまだ小さい、着替えは手伝って貰えないとうまく着替えられない。
「あ、そうでした。ゴソゴソ…。 どぞっ!今日の衣装はこちら…です。」
「ん?これ、お姉さんの衣装だけど? (...いやな予感?)」
「あ、あれ? ほんとですね~? タラ―…」
「ちょっと、プリーツ?」ガチャ
「「「「「リ~~~ス?」」」」」
リースの部屋のドアの外から、6人の姉が顔を出す。
「げっ‼(なんだあの笑顔は‼)」
「お姉さんたちですよ~‼」
「着替え手伝ったげる!」
「大丈夫、大丈夫!お姉さんに任せなさい」
「今日もかわいくしたげるね?」
「髪型は今日はド~しようか?…な?」
「フリル、フリフリ」
「やめれー、 プリーツ助けて~~~‼」
「リース様、ごめんなさい‼ 断り切れなかったというか、一緒に見たかったというか? …テレ?」
「しょんな~⁉」
「はい!手を挙げて」
「こら、動かない!」
「大丈夫、痛くないから!」
「ママから借りた口紅塗っちゃう?」
「やっぱりツインかな?…よね?」
「おっぱい、マシマシ」
リースの平穏という名のフィールドは、セファイティン家の女性たちによって、蹂躙されるのであった。
「リースよ。すまぬ…。まだ、チカラが戻っていないようだ…。」
フィーヴァは、どのような態度で望めばよいのか判断しかねて、リースの記憶をたどるのだった。