第36話 発足
ジュランとアークが命がけの撤退戦をしていた頃。リースは暢気に久々の空いた時間を満喫していた。
「今日はどこに遊びに行こうかなっ?」
領都と村の近くを歩いていたリースに駆け寄る子供たちがいた!領都に助けを求めようと必死に走ってきた子供たちの中に、
「あっ、おい!リース‼」
「お?どうしたんだ?ウォル?息を切らせて?」
「ハァ、ハァハァ、た、助けてくれ!妹が…」
「ニコちゃんが?」
「ニコが、フライングツリーの蔦に引っ掛かって、空に飛んで行ってしまったんだ‼」
「なにっ⁈どこで?いつだ⁈」
普段はのほほんとしているリースが、珍しく焦燥感から問いただす。
「い、1時間前に、魔の森の横にあるフライングツリーの群生地で…。」
「どっちだ!どっち方面に飛んだんだ?」
「東の方角に飛んで行ったんだ!」
「ウォルは、従士騎士団にいてくれ!ニコは俺が連れ戻す!マンタ‼」
巨大なエイに似た魔獣スカレイのマンタは、空を駆け、周囲に擬態したり、透明化できる。リースの足元が光り、マンタはリースをそのまま乗せる!
「ピュイ!」
「リ、リース‼俺もつれてけぇ~‼」
「おいぃ~‼」
ウォルは、リースに飛びついてきた!
「バッカヤロー!ったくー!落ちるなよ!」
リースはウォルの危険を顧みず飛び込んでくる気持ちを察し、あきれながらも感心した。
◇◇◇
ウォルは、飛行中のスカレイのマンタの上で事のあらましをリースに話した。
「みんなでキノコの採取に向かって、キノコ狩りしていたら、昨日降った大雨で地面に横たわっていたフライングツリーの木の蔦がニコの足に絡んだんだ。そしたら木が浮いてきだして、急いで絡んでる蔦を外そうとすると余計に絡んで、固定の蔦がキレて、ニコと一緒に空に飛んで行ってしまったんだ!」
◇◇◇
フライングツリー:雨季は、増殖の為地面に刺さる。
乾季は、地面にツタで繋いで空に浮かんで、成長する。だんだん低くなると雨になるので、天木とも呼ばれている。フライングボードや、飛空船の材料となる。フライングツリーの木の実は、飛翔魔獣の好物
◇◇◇
リースが焦っているのには訳がある。
フライングツリーは、飛翔している魔獣にはごちそうなのである。
フライングツリーの実を食べ、フンが地面に落ち、地面で芽が出て、3メートルほどに育ったら、浮き上がってくるという事を繰り返している。
浮かんでいるフライングツリーより、移動中のフライングツリーの方が飛翔魔獣の好みらしいのだ。
「…あれか?間に合ったか?やばい!ワイバーンだ‼」
「なに!リース、どうするんだ⁈」
「急ぐ‼くっ、僅かに向こうが早い!」
「ウォル‼しっかり‼捕まってろっー‼マンタ‼頼む‼フィーヴァ‼チカラを貸してくれッ!」
「キュイ‼」
「リース‼頼む!妹を助けてくれ‼」
「任せろ‼」
リースは、ニコが捕まっているフライツリーに防御魔法を掛ける。
ワイバーンが、こちらに気づいた!すかさず、ワイバーンは、ウインドカッターを放つ。
ワイバーンの風魔法、ウインドカッターは、エアカッターの上位魔法で強力だ。
幸い魔法光が見えるから、避けることができる。
リースは、マンタの前に、エアシールドを展開し、キリ揉みでかわす。
ウォルがあわあわ言っているが、乗り心地は最悪だろう。フィーヴァは、透明化で付いて来ていたが、戦闘態勢に入った瞬間から、ニコのところまで、風魔法を防御しながら、ニコのそばでリースの防御魔法を補助する。
「(我慢しろ!)
ワイバーンを蹴散らしたら、ニコを救って帰還する!
(くっ、ワイバーンが連発のエアカッターに切り替えて来た!)」
ジェットコースターのトルネードより激しく回る。
「エアボールじゃ弱いか、エアパレット!やはり、殴る程度だな?じゃ、連射だ!エアラピッドファイヤ‼良し‼フライングツリーから離れた!威圧‼」
威圧は、精神に圧力を掛け、まるで何トンもの重りを背負った体感を錯覚させるスキル。
ワイバーンがバタバタと落下していく…。
「ふう…?良し‼今のうちに、ニコを助けよう!…ウォル?おいおい?ったく?」
ウォルは抱き着いたまま気絶していた。ニコのフライングツリーまで行き、蔦に絡まるニコに話しかける
「ニコ!大丈夫か?」
「…うん!大丈夫!」
「良し!よく頑張ったな‼」
頭を撫でる。
「……うん。うん。ウワーン⁉怖かった!凄く怖かったよ〜⁉も、もうおにーちゃんや、せんせーにあえッ、会えなくなるかとー、ウワーン⁉」
「ううっ!ニ、ニコ⁉」
ニコの泣き声でウォルは目が覚める。
「よしよし!頑張った!ほら、おにーちゃんもちゃんとニコを迎えに来ただろ?」
「ニコッ⁉大丈夫かッ‼ガシッ」
ウォルは、ニコをしっかりと抱きしめる。
「い、痛いよ?おにーちゃん。」
「良かった!よがっだぁー!」
人は不思議なもので、自分より泣いている者を見ると、自分が泣いていても冷静になれる。」
「お兄ちゃん…。泣きすぎだよぅ~。あはは。」
「なんだよ!ニコ、大丈夫みたいだな!グス」
「良し‼ここから離れるぞ!」
「ああ!帰ろう!」
「うん!」
バサバサッ!
「ムッ?」「うわっ!」「キャー‼」
「黒いワイバーン?」
黒ワイバーンを含め、襲って来たワイバーンが全て、空中で滞空している。
(どうやらリースを主人と認めたらしい。)
フィーヴァがワイバーンの様子を見て語る。
「どうしたんだろ?」
「…襲ってこないね?」
「(…どうやら、テイム出来たみたい…だな?)マンタ、ウォルとニコを連れて、騎士団駐屯所に行ってくれ!」
「ピュイ!」
「待って、リースはどうするんだ?」
「ワイバーンに調従術の仕上げを施す、騎士団を魔の森手前の村の間の泉に来る様に伝えてくれ!」
ダンッ‼
リースはマンタから、黒ワイバーンに飛び移る。
「ウォル!頼んだぞ~!」
黒ワイバーンに乗り、30頭のワイバーンを率いて魔の森を一周する
やがて、フライングツリーの群生地近くに降りて、騎士団の到着を待つ
団長のバナンと副長のスティングランドが来た。
二人は、30頭ものワイバーンの群れを間近で見て驚愕する。
「リー坊、こ、これは⁈どういう状況ですかい?」
「ワイバーンをテイム出来ちゃいました!従士団で、お世話お願いしても良いですか?」
「い、いや、出来ちゃいましたって⁈」
「おい!親方様をお呼びしろ!」
◇◇◇
時はリースが、魔の森の周辺に降り立った時まで遡る。
「フィーヴァ。ちょっと魔道具作ってくれる?」
「ん?どんな魔道具だ?」
「魔力を込めたら、威圧と同じ現象が発生して、魔獣を調伏するものと、テイムした魔獣を呼ぶ腕輪、ワイバーンに乗る鞍とくつわと、あぶみと、マジックバッグを作ってくれ。」
「ずいぶんあるな、いきなり。イベントリから素材が有れば出してくれ。皮と金属だ。何もないとこから造るのは時間が掛かりすぎる。」
「ホイ。どうこれで?」
「ああ、十分だ。鞍はリースの記憶を参考にする。ああ、マジックバッグは、この世界にある物を参考にする。威圧のマジックアイテムのデザインはどうするんだ?」
「目玉と鏡を合わせた感じかな。あっ、それに魔瘴気を封じる機能も入れてくれ!」
「む?それは構わんがデザインは?」
「それは思念で送る!……どう?」
「なるほど、わかった。」
◇◇◇
「こ、これは…。このワイバーンはどうした?バナン、スティングランド、どういう状況だ⁈」
「イズン様、リース様がワイバーンをテイムされました…。」
「なっ?」
「父上。飛翔騎士団が出来ちゃいますネ!」
「出来ますねって?リース⁈ちゃんと説明してくれるんだろうな?」
「は、はい!」
◇◇◇
「ほー、知り合いの子を助けに?スカレイをテイムして、すぐに他の魔獣をテイムしたのか?」
「はい!」
「しかし、ワイバーンがテイム出来ても、食費が高く付くな。」
「その辺りは、おそらく大丈夫かと。」
「どういうことだ?」
「半調教半野生で調整しています!」
「な⁈それはもしかして、必要な時だけ呼ぶっていう事か?」
「さすが父上ご明察です!こちらのネックレス型テイムの魔道具をそれぞれのワイバーンに掛け、必要な時のこちらの腕輪に魔力を通すと、ワイバーンが寄ってくるという仕組みです。呼んだ際に餌付けをすることを推奨します。ゴブリンやオークで十分です。(イメージは、水族館のアシカショーだな?)半野生の状態の方が、魔獣にストレスがなくて良い感じです。」
「テイムの魔道具など聞いたことがないが…。それより、どうやってテイムしたんだ⁈」
「(そりゃ、聞くよね⁈)はい、実はテイムの魔法具を使用しました!これです‼」
「なんだそのまがまがしい造形物は?というか、どこから出したんだ?」
「(説明がメンドクサイネ!)以前森で拾いました!マジックバックです。今日鍵が開いて中を見ることが出来ました。その中に入っていました!スカレイのマンタもこれでテイムしました!」
「ふむ~。なるほど。しかし、それほどまでの高性能な魔道具や、マジックバッグが落ちていたとは…。経緯を調査せねばならんな?ところでどう使うのだ?」
「はい!こちらのハンドルとハンドルを引っ張ると、魔道具の目が開きます。対象物に見せ、魔力を込めると威圧の魔法が発動します。能力は魔力量に比例します。また、ダイヤルを回すと、威圧調教・浄化治癒・睡眠催眠・魔法付与超補正・魔法障壁・封印石化・転写反射の七つが使えます。」
「それは国宝、いや伝説級だろぅ‼陛下に報告するレベルの品だ!」
「そうなんですか?(しまった!やりすぎたか?しかし説明できんしな。自分の能力をさらすわけにはいかないし。)す、すごいんですね…。」
「…まあ、陛下には後日報告をあげるとして、それがあればワイバーンもテイムできることも納得できる。飛翔兵団を持つ国は少ない。これで、ワイバーンの兵団が出来れば、我が国を攻めてくるという愚かの国も減るだろう。」
「そうですね!ワイバーンが風魔法で攻撃してくれるので、上に乗っている人は、命令だけで大丈夫だと思います!じゃあ、魔道具と腕輪を父上に渡しておきますね?じゃあ、先に帰ります‼」
「まて‼ワイバーンを兵達がなじむまで、お前にも協力してもらう!」
「え~!そ、そんな⁈僕はやることがいっぱいあるのです⁈」
「では聞くが、ワイバーン兵団を作るより重要な急ぐものはなんだ?」
「…ないですね。」
「じゃあ、決まりだな。」
「…はい。」
こうして、アヴァルート王国初の飛翔騎士団の取っ掛かりが出来たのだった。
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