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第3話 予言

リースが生まれ、ひと月が過ぎようとする頃、

程なくして、辺境伯の父イズンは、王都へ年次総会会議に参加していた…。


「周辺国の動きはどうだ?」


大きな部屋の中央にある円卓に数人の人物が囲み、一番身分の高い王が、周りの皆に問い掛ける。


「大国で言えば、我が国アヴァルート王国以外の他の8ヶ国に大きな動きはありません。」

外交の大臣が近況の状況を客観的に報告する。


「経済の流れは、昨年の環境の変化に影響のなかった国が順調で、不作の続く国からの農産物の輸入の打診がいくつか有ります。また、鉱山資源国は順調に採掘ができているようで、そちらとの友好な交易も順調です。また、塩の流通ですが、海産物資源国からの輸出は去年並みで、我が国の塩山からの採掘は、値段交渉が出来るくらいの量に留まります。また、南部の海岸での塩の生成は開発できてません。」


「うむ、他にあるか?」

と、王は、引き続き経済を管轄する大臣に追加の情報を促す。


「そうですね、経済の状況からは、昨年並みで、言えば、農産品が昨年比で⒈25倍くらいと言うことだと思いますが、詳しくは農産大臣から報告があると思います。」


「はい、確かに昨年、環境が良かったせいか豊作で、農産品の生産性が⒈25倍となりました。但し、これは、環境に左右されるので、大幅な増産をするには新たな農地の開発に速やかに着手して、来年以降に備えないと、王国の人口比に環境が悪化した場合は対応できません。」

と農産大臣から苦言を述べる。


「ふむ、宰相。その辺りはどうなっておる?」


「はい。実は、農地改革に農産大臣と一昨年より議論を重ねてきていますが、中央部に広がるダナタイラー平原の農地改革が進めば、今の農業生産の10倍以上の収穫を見込めますが、そこを管轄する貴族達と、人員を手配する調整に難航をしており、現状では小規模開拓しか進んでいません。細かな条件のすり合わせと、内容の合意を得れば、そこから5年で現在の倍、10年で5倍の収穫を見込めます。」


「そうか、では、速かに担当貴族との調整を進めてくれ。他に貴族関係で問題はあるか?」


「では、私紋章官から、昨年婚姻を結ばれた貴族同士の紋章の仲介を司法官に依頼をしているのですが、今日は、体調不良のため欠席をされている法務大臣の方から改めてご報告が有ります。王の縁戚に関わる部分も有りますので、個別に案内があると思います。」


「わかった。」


「王様、私からもご報告よろしいでしょうか?」


「うむ、文務大臣。いいぞ」


「では、ご報告いたします。昨年王都王立学園中等部に修学した子供達の中で、知力の向上が全体的に見られます。これは、三年前よりご指示いただいた初等学校の建設が増えたためと思われます。引き続き、地方の学校の設置、教師の増員、能力向上に努めてまいります。そこで、貴族の中から、家を継がない者と、冒険者稼業の引退者、それぞれの生産職の引退者の教職の枠を増やしたいのですが。」


「生産職の引退者とは、どういった事でその者達を雇うのだ?」


「はい、宰相。生産職の者を雇い、専門性の有る授業を増やしたいと思います。例えば農産物の生産者に専門の授業をしてもらい、卒業後に直ぐに現場で役に立つ人間を育てたいと思います。」


「成る程、通常は、その者の働く所に入って修行し、一人前になるまで時間が掛かる。また、教えるのが不得意な者も居るだろう。そこに入った者は生産性が劣る。ひいてはそれは国のためにはならない…。王様、財務大臣と予算配分を後ほど検討します。」


「うむ、民のため、国の為になる事は、積極的に事業を進めよ。」


「では、軍務大臣の私からもご報告を。」


「続けよ。」


「先程、外務大臣が述べられた様に、各国の大きな動きは有りません。但し、細かな動きとしては注視した方が良いものが有るので、其れは別途報告書をまとめたので、其れをご覧下さい。」


「分かった。他には?」


「は、・・・魔獣対策、魔導飛行船、騎士団の練兵、兵器開発、ゴーレム・従魔部隊、魔術師団の育成、諜報部隊の編成、補給部隊の増員と、輸送手段の増強等がございますが、この場では長くなりますので、割愛します。後ほど、軍務会議の場において、平時だから出来る備えと三辺境伯、六戦騎士団長、三王騎士団長、三戦魔術師団、兵装部、諜報部を交え報告させて頂きます。」


「よし、では、主だった案件は年次総会で報告してもらったな、個別については、定例会議上で報告していただこう、急ぎの場合は、私宰相に報告してくれ。昼食を挟み、午後からは、軍務会議を行う。関係大臣、団長等は出席する様に。散会。」


◇◇◇


王城の食堂で簡易的な昼食会が開かれ、ゆったりと過ごす。その中には、王と宰相達は居ない。別途王専用の昼食室に、王、宰相、軍務大臣、近衛騎士団副団長、魔術師団副団長、騎士団統括、魔導飛行船総艦長、兵装団団長、諜報団団長、三辺境伯、警務団団長、ゴーレム従魔装備団団長、外務大臣が集まる。


簡単に食事を済ませ、会議の様相を整える。


「そのまま聞いてくれ、良い話と悪い話がある。

まずは良い話だ。イズンに息子が生まれた4人目の男児だ。全部で9人か?めでたい!子は宝だ、皆もますます励む様にな!特に騎士団副団長バース。そろそろ嫁を見つけろ。今年中に、見つからなかったら、こちらで選んだ者を嫁としてもらう。王命だ、拒否権はない!それとイズン、後でこちらから祝いを出しておく。持ち帰るのを忘れるなよ。

では悪い話だ!諜報団団長デュオナ、説明を。」


「はい…。ではお手元の資料をご覧ください。ご存じとは思いますが、補足説明をいたします。我が国では勇者が生まれません。世界に派遣している諜報員と部隊から、昨年末に、ジゼトラード帝国生まれの最後の勇者が亡くなり、すでに他の国の勇者が亡くなってからも数年が経ちます。7ヵ国で生まれる勇者が、[穢れの詩]に記された時期に居ないという事は有り得ません。[穢れの詩]の時期に向けて各国は、勇者召喚の準備に入っていると思われます。実際にもその動きが見られます。我が国では穢れの詩の時期に向けて、軍務の強化は必要不可欠です…。

そういった中で、我が国に居るマティーバハールが予言を出しました…。」


会議室は、一瞬の静寂が訪れ、そして喧騒を起こす。

「何?マティーバハールが予言を出しただと?」


「イズン、おまえが驚くのも無理はない。かの者は、霊魔の森の奥に住み、決して俗世に染まらない。余の頼みですら、聞き入れない。しかし、こたびは、事情が違ったのであろう。」

王はひげを手繰りながら言う。


「はい、その予言は、伝え聞く内容はこうです。


『チカラを持つ超越者、現る…。その者…』

とそこまで言った後、


『⁉ありえない…。

そんな事はあり得なあぁぁぁぁぁ〜いぃぃぃ‼』


と言って、倒れました。」

諜報団団長デュオナは淡々と報告する。


「数時間後、目を覚ましたマティバハールは、すっかりボケてしまい、予言も何もかも忘れてしまいました…。」


「な⁈ 予言の続きはわからないのか?」

イズンは目を見開いて驚いた。


「はい。現状では側に控えていた娘にも…。娘はあの方ですから虚偽は無いかと。ただ、孫娘のお腹に子供がいるのですが、ボケたマティバハールは毎日、何かを語りかけているそうですが、周りの者は、何を言っているのかわからないそうです。」デュオナは、資料を見たままつぶやくように語る。


「むぅ、それは悪い感じに受け取れる予言だな⁉しかし…。我が国に影響があるのか?世界に影響があるのかわからないのか⁈」


「はい。現状分かった事が二つ。超越者という者が高い確率で存在する。おそらく勇者とは思われますが…。そして、その者は、何かしらの悪影響を及ぼす可能性が極めて高い。です。」


「そうだ、この予言が出て、我が国としては動くとすれば、どうするかと言うのを決めなければならない。」

と、髭を触りながら王が皆を見回す。


「では、この会議の司である宰相の私からも、予言について考えられる事をいくつか挙げておきます。この予言が真実だとして、超越者とは?そしてその者はどこにいるのか?この事に気づく国はどこがあるか⁈また、どう動くかですね。」


「気付く国ですか⁈そんな事は有りますか?」

王命で王都を不在にしている団長の代わりにいる副団長のバースが尋ねる。


「有る。断言しよう!高い確率で、この予言と同等の情報を持つ可能性がある。」


「それはどこでしょうか?」


「うむ。宰相(セアト)


「はい。まずは、隣のマーブルティア聖国の聖女、ジゼトラード帝国の魔女、ソティスカカ公国の占星術師、べべス商家国の才女の順で気付く可能性がある。そして、他の勇者が生まれる四ヵ国が、何かしらの手段で情報を得ると思われる。あとは、小国家群の中の不穏因子という感じと思われる。こちらに関しては掴みきれない。」


「我々には、未知のチカラであるが、それを知覚する存在があるという事を踏まえて対策を取らないといけない…か?そう言うことか…。」


「そうだ、イズン。まずは、マティバハールが、何を見たか?そして、超越者とはどこにいるのか?我が国への影響は?各国は何を知るか?を調査しておかないといかん。皆の者、長い時間がかかると思う。その事を心に留めておいてくれ。」


「「「「「「は!」」」」」」







それから三年月日が流れるのであった。


◇◇◇


霊魔の森のとある一角に魔術的結界を施した古びた屋敷があった。

そこでたたずむうたた寝をする老婆は夢を見ていた…

「ひぃばーば。ひぃばーば...。おーきて。」

隣にいる3歳の女の子が、老婆の肩を叩く。

ビクンと身体が小さくはじける


チカラを持つ超越者、現る…。


そのもの全てのチカラを持ち、次元を超え、時空を越え、聖魔、神獣を従え、勲しい。

神の封印により、チカラの顕現は、精神の成長とともに託される。

供に競い、伴と歌い、友と闘い、穢れた者を断罪し、治世に向かう。


但し、


その者、生来にして女難の相あり。

その願う安寧は、平穏なる時と只人を装う事なり。



マティバハールは、呟いた。

「…。

超越者ならば…

勇者・賢者・聖者・闘者・隠者・覇者か、上位者の使徒様か、

故に…    道を極める目立ちたがりやじゃ‼

力ずくで金、知識、女、名声、権力を手に入れるくらいのオレ様気質の者のはずじゃ‼

人知を超えるチカラを持ちながら、女難(女性に弱く)があり、平民を装うなどありえない…。




ありえないんじゃ〜〜〜‼‼」


「びっくりした~~~。ひぃばーば、またあの子の夢を見てるのかな~?」

超越者が現れた驚きと、従来の固定観念を崩す、常識はずれな感覚に驚愕し、持病の高血圧で気を失い、生来の人見知りと、物忘れが悪化して、誰にも予言の内容を伝えられないのであった…。3歳のひ孫娘を除いて…。



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