第26話 鍛冶師
鍛冶屋、前世では分業化が進み、一般的な鍛冶屋とは刀・包丁・ハサミを作る職人の事を言ったが、今世では、金属系を扱う技術職人の事を指す。ただし、向き不向きから、得意系の物を扱う専門の鍛冶屋もあったが、田舎のだいたいの鍛冶屋は何でも作っていた。アドルシーク領の鍛冶屋は多くあり、武器系・農具系・調理系・全般類に分かれていた。
◇◇◇
「こんにちは!こちらはダナラントさんの鍛冶工房であっていますか?」
「ああ、ダナラントは俺だが?何だいボーズ?お使いかい?」
「いえ、ちょっと包丁を作ってほしいのですが?」
「なんだ?俺は、一見さんはお断りしているんだよ。よその鍛冶屋に作ってもらいな。」
「そうですか。ある人の推薦で来たのですがダメですか?…ああ、申し遅れました。僕はリーフィス・セファイティン。ここの領主の4男坊です。」
「なんと、領主様の坊ちゃんでしたか?」
「ええ、あ、敬語は無しで大丈夫ですよ?」
「ありがてぇ、そうさせてもらうぜ!なるほど、ファティマの紹介か?」
「そうです。知り合って長いんですか?」
「いや、あいつが王都騎士団の新人の時からだから、6.7年前くらいかな?」
「へ~、それにしては、ファティマさんは、ダナラントさんの事ベタ褒めでしたよ⁉なんでも王御用達の剣まで作っていたとか?」
「ああ…、昔の話だ。4年前に腕が上がらなくなってな?治癒師に見せても原因がわからなかった。結局それがもとで酒浸りになり、嫁にも愛想付かれてふらふらしていたんだが、王都でファティマに出会ったとき、自分も騎士団をやめて、こちらの領主邸で生まれ変わって働いているって、言っててな?生き生きとしていたから、俺も働く場所を変えて、剣だけじゃなく、他の物も作ってはどうか?と思って、こっちに移って、細々と仕事を始めたのさ。」
「なるほど、そうでしたか…。では、身体が治ったりしたら、また、剣を作るのですか?」
「…そうだな。いや、剣も作ると思うが、周り近所の者たちから、包丁や農具の制作を頼まれたりあるしな、そちらが優先だな。つらい時に支えてもらったしよ‼まあ、あれだけ治癒師に診てもらった身体が治るなんてありえねーが…。ははは!」
「ふむふむ。そうですか?それはいい事ですね!では、ちょっと腕を拝借。」
「ん?」
「よいしょっ‼」バチン‼
「んぎゃー‼‼なにすんじゃ‼」
ダナラントの右ストレートがリースの顔面を殴る。
バシッ‼
「腕治ったみたいですね‼」
「あっ⁈」
リースの顔面に本気の一撃を入れたダナラントだったが、リースの手によって受け止められてしまう。
「おめぇ?ナニモンだ? ん?あれ?腕があがる?」
「いえ、ですからここの領主の4男坊ですよ?料理が趣味の。」
「いやそうじゃない‼俺のパンチを受け止める奴なんざ、騎士団の団長でも数人?あああ、もうそんなことどうでもいい‼なんで俺の腕が治ったんだよ⁈」
「簡単です。長年の疲労により、腕の関節の一部が外れかかっていたんですよ。ですからしびれるわ、痛いわで、動かし辛くなっていたところ、薬をのんでも無駄でしょう。その関節をはめました。」
「なんだ、長年の痛みの原因をこんなに簡単に…?坊主…。いやリーフィス様、ありがとうございます‼」
「いやいや、礼には及びませんよ。やっぱり、気持ちよく仕事をしてもらいたいじゃないですか?いくら善意の仕事でも…ね。それよりも、治療院には内密にお願いしますね?あと、ボーズで結構ですよ‼」
治療院に知られると、症例の検証から治療の考察まで付きまとわれるのを嫌っての事だった。
「フハッ‼ハッハッハッ‼承知した!任せとけ!キレッキレの包丁を作ってやるからな!」
「はい!宜しくお願い致します。あと、兄にプレゼントを考えているのですが、せっかく腕が治ったので、剣を作ってくれませんか?財貨と材料はこちらで用意します。今ある注文が終わってからで良いので…。」
「ほう?いいだろう!リース坊の頼みとあっちゃぁ~、断れねーな!」
「あはは、宜しくお願いしますね!」
◇◇◇
「…リースよ。」
「ん?なんだい?」
鍛冶師ダナラントに会った夜、ベッドに横たわるリースに、フィーヴァが尋ねる。
「しかしなぜ、我の力を使わずに包丁を作るのだ?」
「フィーヴァのチカラを借りると凄いクオリティだから、ダメ〜!」
「ある程度は、この世界の人々に苦労してもらいたい。」
「ふむ?クオリティ?が高いとまずいのか?人族はおかしいな?」
「人は授けるだけでは…、導くだけでは堕落する。自らの手で作り、知恵を絞り、創造することが、ヒトのチカラとなると、僕は思う。ふぁ~。
だから、今回は付与魔法だけでいいから、創るのは譲ってよ。」
「まぁ良かろう。だが我も創造と破壊を司る聖魔。能力を発揮したい願望はある。次は頼むぞ?」
「ああ。よろしくね!」
「それと、今回はどうしても鍛冶屋の仕事場を見に行く必要があったんだ。」
「なぜだ?」
「それは、工房を作って、思う存分フィーヴァのチカラを発揮するためさ‼」
へたくそなウインクをフィーヴァにする。
「フフフ、そうだったのか?工房はいつ作るのだ?明日か?」
「いやいや、早いよ!もう少し待ってよ?包丁と剣ができてからになるけど、最短で1ヶ月後くらいだよ?」
「なんと、気長なことだ?すぐ作ればよいではないか?」
「いや、何千年も生きてるんだから、ひと月ぐらい我慢してよ!」
「ムー、致し方ない。」
「じゃあ、寝るよ?お休み。」
眠れることを楽しみにしているリースは、フィーヴァの愚痴を聞かず眠りについた。
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