第25話 調味料
魔獣大量発生、バラットの串焼きから数日。
「フィーヴァ、僕は…、僕は決めたよ‼」
朝食を食べ終わって、部屋に帰る廊下で、フィーヴァに宣言する。
「…。何をだ?」
リースのいつもの奇行に、傾げつつも問いかける。
「万能調味料…醤油と、みんな大好きお味噌を作る。」
「…? そうか、やってみろ。」
「…。それだけ?」
「他に何があるのだ?」
「…いや。ありません。」
創造と破壊を司る聖魔フィーヴァ。
現在をはるかに凌駕する文明が、およそ五千年前にあった。その滅んだ文明の時代から存在する。どのような経緯で存在するのか、失われた過去を知る術は、フィーヴァ自身にも封印の影響で残っていない。
フィーヴァは透明化している。かつては単独で存在し、チカラを奮っていたが、古代の封印の影響でリース(契約者)を通してでないとチカラを発揮できない。また、チカラの出力は、契約者の魔力に比例する。
基本的にリースの側にいるが、司る性質のせいか知識欲旺盛の為、情報体(本)の近くに出現する。
………そして、創造を司っているが、食品加工には興味がないらしい…。
◇◇◇
最近リースは、定番の場所として自分の厨房の椅子に座り、うんうんと唸っていることが多い。
「…そういえばノンカさんは今、煮物担当だったっけ?」
「はいそうです!尊敬するファティマさんの後釜です‼」
ノンカは、朝食後のまったりとした時間が好きらしい。リースの厨房の方が落ち着くとのこと。多分料理長の小言から逃げてきたんだろう。 ……わかる。
「食材の管理も任されているとか?」
料理長。錯乱したのか…
「はい、食品の補充や買い付けも担当しています。」
いや、ヤバイヨネ…
「食品は、市場だよね?」
「はい」
「一回の買い出しは、どれぐらいの量があるの?」
「えっと、だいたい4カゴくらいです。」
(だいたい30㎏か…。)
「ファティマさんは、軽く持っていたようですが、私は力が無くって。」テヘ
「ちょっとまて、私が力持ちみたいじゃないか?」
ファティマさんも、俺の厨房に居たらしい…、気付かんかった。
「あれ、聞こえちゃいました?」テヘ
「私もか弱い乙女だぞ!誤解を広げるようなことは慎んでくれ!」
「なに言ってるんですか?この前だって、固いコクの実の殻を素手で割っていたじゃないですか?ふつうは器具を使いますよ‼」
コクの実:クルミを倍に大きくしたものと思って欲しい。
「あ、あれはだな。
そ…そう、先にひびを入れていたんだ。早く割る方法を見つけようと思ってな。誤解だ、誤解。 そう…誤解。」
「ふ~ん、そうですか?ところでリース様、それがどうしたんですか?」
「(…コクの実を素手でだと...だと、スデダトゥー?…おっとトリップしていた。)……いや、次の食品を買いに行くときに同行したくて。」
「「えっ!」」
「本当ですか?」
「うん、明日朝の買い出しに行くときに、誘ってね。」
「どうしたんですか?急に?」
「ある食品を探そうと思って。それは豆です。」
「豆ですか?」
「うん、大きな豆。あと麹だね。」
「? 豆類はいっぱいありましたよ?麹は、わかりませんが…。」
「そうなんだ?じゃあ楽しみにしとこ。」
◇◇◇
次の日の朝。
「おはよう!」
「おはようございます!リース様」
「おはよ…ございま…す。リースさま…。」
「あれ?ファティマさんも同行するの?」
「ええ、案内役が必要かと思いまして。あと、ノンカが朝弱いのです。」
「あ~ふ。だいじょぶですぅ~。いきましょ~ぅ。ふぁぁぁ~。」
「やれやれ?」
「ダイジョブ?」
「ジョブジョブ。」
「…。行きますか?」
「はい…。」
◇◇◇
「おお、朝早いというのに、賑わってるね!」
「朝採れたてや、昨日収穫したものをすぐに販売してますからね?」
「なるほど。では、お目当ての豆類を探してきても良い?」
「あまり遠くに行かないでくださいよ?」
「はいはい…。りょーかい!(まったく。お子様扱いだな。あ、俺はまだお子様か!)」
◇◇◇
「おい!そこのお前!」
出店の一番端に、同い年くらいの男の子と、ちっちゃな女の子が小さな木箱を前に置き、ぶっきらぼうに訪ねてきた。
「ん?僕の事?」
「そうだ、お前、お使いか?」
「ん~、そうともいうね?なんだい?」
「じゃあ、これを買え!昨日採ったばかりの芋だ!」
「芋?」
「そうだ、煮たり、スープに入れたらうまいって聞いたぞ!」
「よく見ると、まだ小さかったり、形が悪いけど、自分で育てたの?」
「…。そうだ!」
「ふ~ん。ほんとは?」
「…。」
「買わないならいい。あっち行け!」
「わかった!買うよ!その代わり、ちょっと良いかな…?」
「なんだ?」
「全部買うから、豆屋さんまで案内してよ?」
「…は?いや、そんなんでいいのか?」
「うん。もちろん。僕の名前は、リース!君の名前は?」
「ウォル。こっちは妹のニコ」
「宜しくね!二人とも。」
二人に案内してもらって、目的の豆類が見つかったのだった。
◇◇◇
豆類を市場に買い出しにいった次の日。
「………というわけで、醤油と味噌を作ります‼」
リースの新設した厨房に、ファティマ、アオサ、ノンカが集まった。
「…どういうわけですか?」「ショーユ?」「ミソ?」
「詳細は省きます!新しい調味料です‼」
「「「新しい調味料‼‼‼」」」
リースは、詳細を求めた三人に提案を出して面倒な説明を省略した。
「そうです。この豆と、塩と麹で作ります‼良いですか!」
「「「「はい‼‼‼‼」」」」
「…ん?料理長、また参加ですか?」
「おうよ!新しい調味料と聞こえ、黙っていたら料理長の名が泣くぜ‼‼」
「はは、ちなみに出来上がりは早くて半年後です。」
「「「「…?えっ!」」」」
「今日食べられるんじゃ?」「そんなぁ~、嘘ですよね?」「持ち上げて落とすとは…。」「なんじゃ半年後か?めんどくせ~な?」
料理長はあからさまに帰ろうとする。
「だまらっしゃい!先人たちの知恵を!努力を‼涙の結晶を!‼ないがしろにするのはそこまでです‼‼さっさと始めますよ!」
俺はみんなの前で喝を入れる!
「「「「はーい。」」」」
◇◇◇
暫らくの時が流れ、
「くくく。これが出来れば、もう何も怖くない!無敵だ!あの肉も、あの魚も、この野菜も、み~んなこれで食ってやる!焼き肉のたれ?ウスター?とんかつソースだぁ?これをベースに何でも作ってやんよ‼」
((((リース様が怖い‼))))
ファティマ、アオサ、ノンカ、料理長と目が合った…。気まずい…。独り言が過ぎたな…
「料理長‼この調味料が出来たら、父に豆の畑を作ってくれるように進言してください!」
「ん?ああ?どうしよっかなぁ~?」
「…そうですか?こちらの厨房の出入り禁止になりたいのですね?」
「すみませんでした!すぐ言います!今日言います‼」
こうして醤油完成前に、大規模豆畑の構想がスタートするのでした…。
◇◇◇
「ところで、鍛冶屋さんに知り合いがいますか?ファティマさん?」
「そうですね。心当たりはありますよ。」
「では、その方をご紹介ください。僕の体にあった包丁を作ってもらいたいので…。」
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