第23話 切望
時は行きの馬車まで数刻遡る。
リースは現れた魔獣に対し、取り急ぎ緊急の脅威になるゴブリンに対処することを決めた。
念話で透明化しているフィーヴァに問いかける。
(フィーヴァ、ちょっと、このコインに破壊の魔法を付与してよ。)
リースは手持ちの小銭を見て魔法付与のお願いをする。
(それはよいが、どうするのだ?)
フィーヴァは、創造と破壊を司る聖魔だ。その能力は、リース(契約者)の魔力を通して発揮できる。封印されていたフィーヴァをリースが解放し、リースの魔力によって顕現した。
(今、向かってきているゴブリンに、お弾きでこのコインを飛ばし倒す。このまま見逃したら、領民が危ない。)
(後ゴメン、ファティマさんを守ってくれない?必要ないかもしれないけど、気付かれない様に…。)
(やれやれ、こっそりは性に合わないのだが…。)
(今度の商隊が来るときに新しい本を買うからさ!)
フィーヴァは、封印されていた時間が長かったためか、現在の情報に飢えている。
(…仕方がない!)キリッ‼
◇◇◇
魔獣を討伐した後、リースは、バラット・ゴブリン・オークが大量発生をした原因を探るため、魔の森に入った。てくてく歩くそばをフィーヴァが顕現化して付き添う。
「さっきはありがと、助かったよ?ファティマさんのフォロー。」
「それはいいが、別にコインに破壊付与しなくても、倒せただろう?」
「いや、万が一倒せなかったら、まずいからね。僕が助けることが可能なら、護らないと。」
「そうか。馬車での態度は、リースらしくなかったな。ファティマの為か?」
「ああ、久々の実践がいきなり始まって、村中の人たちがパニックになってたり、客観的に見てファティマさんだけが戦える状況だったからな?たぶん「自分がやらないと‼」っていう責任感から、震えているようだったし、余計なことを考えずに戦えるよう道化を演じたのさ。ところで、今回の魔獣の大量発生の原因は、あの樽だよね?」
「ああ」
10メートル離れたところに粉々になった樽。中身がない横倒しになった樽があった。
「とりあえず、浄化の魔法を掛ける。…よし!これを早めに処分出来て良かったよ。他にはないよな?」
「ああ、探知魔法には引っかからない。」
「仕掛けたやつは、森の中で遠ざかる気配を感じたが、そいつかな?」
「そうだろうな。」
「一応報告しておくか?…いや、無理だな。樽の処理方法を説明できない。…仕方ない。こちら(アドルシーク領)の守りを増強する手段を考えよう‼…それはそうとフィーヴァ、村の中から感じた視線も怪しいかな?」
「さあな?我は、殺気や悪意は反応するが、その視線はわからなかったな。」
「ふーん…。」
◇◇◇
従士騎士団に事後処理を任せ、リースは領主邸に帰還することにした。
「リース様、もうすぐ領主邸に着きますよ!」
ファティマが少し吹っ切れた感じで、やさしく声を掛ける。
「ふぁ~。お、ありがとう!眠っちゃってたかな?」
「ふふふ、ええ、リース様も5歳なんですね!」
「かわいかったですよ!」
ファティマとノンカが冷やかす。ノンカも騒動終了時に起き、帰りの馬車は寝なかったようだ。
「うおい! は、恥ずかし~。じっくり見ないでよ!」
「それにしても、すごかったですね!リース様」
アオサが、嬉しそうに尋ねる。
「えっ?なにが、ですか?」
リースはゴブリンを殲滅したことにやりすぎたか?と焦る。
「リース様の武勇伝ですよ‼バラットの!」
「ああ、それね⁉特訓したからね!剣の師匠が凄くってさ!」
「それに、村人たちにバラットを分けてあげるなんて優しいです!」
ノンカがリースを褒める。
「いや、あれだけ被害を出したんだから、それぐらいしないとね?」
「でもけが人も、リース様の薬で治ったじゃないですか?」
「まあ、たまたま持っていた薬が役に立ったわけだけどね‼」
「どこに隠し持っていたんです?あの量を?」
ファティマがリースの持ち物が少ないので疑問に思う。
「いや、ハハハハハ。」
「でもゴブリンを 倒したのは誰なんでしょうかね?」
アオサがゴブリンの事を思い出し
「ああ、ぼくが行ったら既に誰かが倒していたからね?バラットもほとんど他の方が倒したようだったし、僕が倒したのなんて、2.3匹さ⁈」
「えっ?でも切り口一緒でしたよ?」
「ん?たまたま弱点が同じだったから、対処が同じだったんじゃないかな?」
「そうなんですか…?誰なんでしょうね?」
荷馬車の御者は、ダラダラと、汗をかいていた。
「まあ、面倒なことは従士長のバナンに任せればいいよ!」
◇◇◇
領主邸に戻ると、報告を受けていた第二夫人のフィンリールとリースの生みの母第三婦人のレフィーナが待っていた。
「リーーーーース‼」「リース‼」
ボス‼‼
荷馬車から降りてきたリースをレフィーナは、がっしりと抱きしめる。フィンリールは後ろから優しく二人を抱きしめた。
「く、くるし~…。」
「リース‼大丈夫?ケガはない?」
うるうると目に涙を溜め、リースの顔を見る。
「ぷふぁ‼は、はい。僕もみんなも大丈夫でした‼」
「リースが、魔獣の大量発生に巻き込まれたって聞いたから、レフィーナは飛び出していきそうだったの止めるの大変だったんだから‼」パチン
フィンリールは綺麗なウインクをする。
「そうだったんですか?お母様、フィンお母様ご心配をお掛けしました!」ペコリ
ちなみにアールティナ第一夫人は、長兄の学校に通う関係で王都の領邸にいる。
「うんうん、いいのよ!無事なら…。」
「そうそう、ファティマもありがとうね!」
レフィーナは涙を拭き答えた、フィンリールはファティマをねぎらった。
「いえ、当然のことをしたまでです‼」キリッ!
ファティマは、背筋を伸ばし、数年前の騎士団副団長時代のオーラをまとった。
(へえ~、こんなまじめな顔をするんだ…?)
◇◇◇
「それでは、第一回、バラット料理大会を開こうと思います!」
パチパチパチ 誰も拍手しなかった…。
(((あんな事が起こったすぐ後なのに…元気だな?)))
ファティマ、アオサ、ノンカはリースの厨房に集められた。
「コホン!えー、今回は、バラットの串焼き(焼き鳥風塩焼き)と、串揚げ、肉巻き、香草焼きをします。」
リースは空気を入れ替えるため咳ばらいをした。
「串焼きはわかりますが、肉巻きと香草焼きとは、どんなものですか?」
この世界の串焼きは、バーベキュースタイルで、5センチ角の肉を焼くのみだった。
「まあ、とりあえず、作ってみましょう!百聞は一見におかずです。コホン、一見に如かずです!」
「百聞は…?」「「?」」
「作りますよ‼肉を一口サイズにカットします!」キリッ!
「え?一塊ではないんですか?」
肉系女子のノンカは質問する。
「それでは食べにくいです。串に肉と野菜を交互に刺します。とりあえず、人数分終わりましたら、次の料理に移ります。こちらの風味のある野菜と力のでる薬草を薄く切った肉で巻きます。それが人数分できたら、次の料理の下ごしらえをします。
ポーションでも使われる薬草と香りが強い薬草を使います。これはこちらの薬草を乾燥させたものを砕いて粉状にしたものを混ぜ合わせます。配合はこれから研究していかないといけません。お、ファティマさん偉いですね!ちゃんとメモしています。今のところは大事ですよ?アオサさん?」
「は、はい!」
「で、混ぜたものを香草という名前にしますね。この香草と、固いパン・もしくは白いパンを乾燥させて、削って粉にしたパンの粉、パン粉を混ぜます。混ぜたら、これを先ほどの串と、肉だけにまぶします。まぶしたら、串は油で揚げちゃいます。まぶした肉は焼いちゃいます。残りの串は塩焼きにしますね。では、皆さんやってみましょう!」
「「「「はい!」」」」
「ん?料理長⁈いつの間に?」
「厨房を改装するんで、新しい料理法をわしも知らないといけんだろぅ‼‼わっはっは!」
◇◇◇
その日の夕方、ちょっといろいろな報告を受けて疲れた父イズンと家族で、今日の新作夕飯の一品を出した。
それでは、
「「「「「「いただきます!」」」」」
「「「美味しい」」」「「おいしい!」」「うまっ!」「口の中に香りが広がるわ~!」
「リースすごい‼薬草でこんなに美味しくなるなんて‼」
「この薬草は、家でも栽培できますし、そんなに量は必要ありませんから、ポーション製作での必要量を妨げません。むしろ体に良い成分なので、体調にも良いかと…。」
リースは愛想笑いで解説するが…、心の中は暗黒に支配されていた…。
(むぅおおおおぉ~~‼、やはり万能調味料の醤油が無ければ話にならん。タレが作れん‼味付けが塩だけだとは‼これからしばらくは調味料の確保に尽力を燃やしてやる‼‼)
と固く決意をするのであった…。
(はっ!…鰹節もいるんじゃね?まずは大豆と魚からか~。まだまだ和食の道は遠いな~…。)
◇◇◇
イズンは、疲れの原因のリースの顔をちらっと見ると、こ難しい表情に何を企んでるんだ?と訝しんだ。
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