第22話 密偵
俺様こと密偵のジュエル。
他領や他国に調査に行ったりもして、忙しい中久々に帰ってきたぜ。俺の得意技は、おっと…、あぶないあぶない。どこに聞き耳をたててるかわからないからな、ヒミツだ…。
今日は、執事のカーセリック様からの指示で、リース様の監視・護衛を任された。
極力内密に。
「帰って来て早々、申し訳ありません。リース様が、隣村の奥の魔の森にファティマ嬢と一緒に魔獣狩りに出るらしいとの事です。ジュエルくん、すみませんが、密かに護衛と、リース様の様子を見てきて頂けますか?」
「リースの坊ちゃんをですか? へい、わかりました!」
◇◇◇
リースの坊ちゃんは、領主邸のみんなから、料理好きの新し物好きの神童で通っている。長男のアーク様は、剣も魔法も次期党首にふさわしく素晴らしいとの評価だ。現に王都の学校の入試試験では、王子の次の成績だったとか。次男のキース様は、剣ではアーク様には劣るものの魔法の才と頭脳の良さでは、長男を越えるのではないかとうわさされている。そして、優しい面立ちから領民の女子に大人気とか…。三男のカーズ坊ちゃんは、剣は長男に並ぶとの評価があり、魔法の才能は二人に劣るものの、追いつこうとする努力とひたむきな明るさがみんなを笑顔にするから、領主邸のみんなに慕われている。そして四男のリースの坊ちゃんとこの辺境伯家の男児は皆イケメンであった。生まれながらのイケメンって、ずるいだろ…。どうせ俺様の顔は凡庸さ。ふっ…。だから密偵には、向いているんだがな。
◇◇◇
「…なるほど、そういう事ですか…。あ、もうすぐ隣の村につきますよ。」
最近、あげものがかりになったファティマさんの言葉が耳に入ってきた。
あげものがかりが繰り出す料理は、最近評判になり、領内の料理店で広まりつつあるようだ。なんでも開発したのがリース様で、登録さえすれば、材料の購入先から調理法までを教えるという講座も開いているらしい。なんでも普及させて、郷土料理にさせたいらしい。
…ととと、回想していたら、いつの間にか隣の村まで近づいていた。
今日は、御者の仕事をしているんだった。集中しないとな。
「なんかいっぱい人が走ってますね?」
素直に見ている風景をつぶやいてしまった。
「なんだか騒がしいですね…。どうしたのでしょう?」
料理人のアオサがつぶやき、もう一人は、寝ながら相槌を打つ。
「く~。すぴぴ。」
いい気なもんだな、お嬢さんは?
「魔獣の大量発生だ‼」「逃げろ!危ないぞ!」
村人が叫んでいた!まじか?どうする、リース様の指示を無視して、安全のために引き返すか?ホロ付きの荷馬車だから向きを変えるのに時間が掛かる…。
うわっ!見るからにいっぱい魔獣がいる。バラットと、ゴブリンと、オーク?か?全部で100匹くらいはいるぞ‼既に10匹近くのゴブリンが近づいている…。
引き返そうか、意見を聞こうかで迷っていたとき…、
鈴を鳴らしたようなのんきな声で、
「おっ、丁度よかったですね!」バシュッ
え?リース様の顔を見ると
ボン
「いや、丁度よかったって‼大量発生ですよ‼なんでそんなに笑顔なんですか?」
俺は思わず、リース様に突っ込んだ!何を悠長に言ってんだ!
今もゴブリンがそこに… ゴブリンの頭がはじけ飛んだ…????
バシュッ
ボン
「ん?それだけいっぱいいるってことでしょう?」
バシュッ バシュッ バシュッ
ボン ボン ボン
「バラットだけじゃありません。他の魔獣もいるみたいです。」
ファティマさんも突っ込みを入れるが、手前のゴブリンの頭が吹っ飛んでいるのは見えていない。どんどん、どんどん、ゴブリンの頭が吹っ飛ぶ⁈
「では、オークをファティマさんにお願いしても良いですか?他の方は、村の人たちの誘導と、避難場所の守りを固めてください!」バシュッ バシュッ
ボン ボン
ファティマ、アオサ返事を返す。ノンカは…。
「「はい!わかりました‼」」「ぐうっ~!」寝てる。
バシュッ バシュッ
直接見えはしないが、通り過ぎていくゴブリンの頭がはじけ飛んでいくのがわかる。
どうやってゴブリンに攻撃しているんだ?まったくわからない…。たぶんリース様が攻撃?してる?んだよな?
「あの、それでリース様は?」 ボン ボン
ファティマさんが、恐る恐る伺う
「僕はバラットを狩ってきます。ゴブリンは僕と体格が変わりません、ですので任せてください。」
ふふんと、だからなんでそんなに笑顔で鼻を鳴らすの?バシュッ
えっ、なんなのその笑顔、今そんな状況じゃないよね?
「えっと、ゴブリンですよ?いっぱいいますよ?」ボン
ファティマさんがリース様に直接問い、何を言っているんですか?ゴブリンがいっぱいいるのに5歳児が一人で立ち向かうって無謀ですよ‼‼と俺は心の中で突っ込む!
「大丈夫です。ゴブリンは、体術の練習相手程度ですよ!オークは、ちょっとでかくて面倒だから、ファティマさんにお任せしますね‼」
ちょっと、でかくて?面倒?オークが…?
バシュッ
「えっと、はい?」
ファティマさんも混乱しているようだ。無理もない!俺もそうだ‼
ボガン‼
「あっ!オークが人を襲っています‼‼では、皆さんはじめましょ~!」
人を襲っている途中のオークの足元がぶっ飛んだ‼ド派手に‼
…だからなんでそんなに余裕なんだ?
ファティマさんは後ろ髪を引かれる表情で、今襲われている人たちを助けに行った。
なんだ、どういう事だ?ぜんぜん。ぜんぜんわからねぇ‼
「ところで今日は、馬車御者ジュエリさん。」
ジュエリは、ビクンと肩を震わす
「…っ! なんですか?リース様。つか、なんで俺の名前を・・・」
俺様こと密偵のジュエルは、本当はジュエリという名前だ。女子が欲しかった俺の両親が、生まれた時にそのまま女子の名を名付けていた。のちにこの名でいじめられコンプレックスになった。そのコンプレックスを糧に俺は強くなり、名前のせいで目立たないように生きてきて、そして今、密偵として活躍しているのさ‼
「馬車とノンカさんはお願いしますね。あと、父上に僕のことは報告しないでください。もし報告したら…、娼館で女の人に踏まれて喜んでいることを報告しますよ?」
「なっ⁈なぜそれを‼」
ジュエルは、目を剥いて驚いた!
娼館でのお楽しみは、密偵としてのストレスのはけ口。
所帯を持たない俺は、長期出張で他国に密偵に行って、帰ってきたときのお気に入りのエルランちゃんに、踏みつけれる行為が唯一の楽しみに…、またそれを生きがいに密偵の仕事をしている状態になっていた。今思えば、学園でいじめられている時に、女の子に足蹴にされたのがトラウマになっていたのか…。…じゃない!
「では、行って来ます‼」
…「なぜそれを~~~… ‼‼」
俺は、叫んだ。リース様に向かって…、
自分の性癖をなぜ知っているのか確かめたかった、
そして、
自分の性癖を他に誰が知っているのかが重要だった‼‼
息をすることも忘れ、魂の叫びをした後、しばらくして気が付いた。
…あれ?このゴブリンめっちゃ弱??
なにこれ?演劇?
◇◇◇
ジュエルは、地球でいう殺陣の様にとめどなく流れるようにふるまわれる戦いに目を奪われてしまった。
活劇のような戦いを見ていて、そして時が止まった。
いや、戦いが終わった。
戦いの場にゴブリンの小山が出来、リースはバラットに向けて走り出した。
ジュエルは気付かなかったが、ある建物の中からゴブリンの戦いの場を見とれていた女の子がいた…。
ほどなくオークの居たあたりから歓声が聞こえた。
どうやら、魔獣は討伐されたらしい…。
◇◇◇
しばらく呆然としていた密偵のジュエルは、我に返り、
「…しまった!報告どうすればいいんだ?」
スピ~…。スススス。スピー。
「…なんで、この騒動で寝てられるんだ?この子。」
ジュエルは、ある意味驚きを持って、馬車内で眠る、料理人のノンカを見た。
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